非在来型資源の重質油の開発研究で
エネルギー資源の確保に貢献

環境資源工学科 学部4年
井上 響平Inoue Kyohei
栗原正典研究室
2016年度インタビュー

Q 研究テーマを教えてください。

栗原正典先生の石油工学研究室で、重質油*・ビチューメン*の開発のために、開発挙動や回収挙動を数値シミュレータ上で再現する研究を行っています。これまでは、開発費用が比較的安く済み、簡単に採掘できる在来型石油を開発していました。しかし、在来型石油・天然ガスは資源量に限りがあるため、非在来型石油・天然ガスが注目されています。アメリカで採掘されているシェールガス・オイルや、日本近海でも採れるといわれているメタンハイドレートなども非在来型石油・天然ガスです。これらの開発についての研究も研究室で行っています。
重質油・ビチューメンは粘度が高く、種類によっては、ピーナッツバターよりも粘り気があります。したがって、地層やパイプの中で非常に流れにくい物質です。そのために、重質油・ビチューメンが存在している地層に水蒸気を圧入し、熱を伝えて、粘度を落とし、回収する攻法が検討されています。


*重質油 高分子量の炭化水素を多く含む原油。API比重が10゜API~20゜APIの油。
*ビチューメン 堆積岩(あるいは堆積物)中に見られる半固体ないし固体状の石油。邦訳は歴青、瀝青。

Q 重質油・ビチューメンのシミュレータを研究しようと思ったのはどうしてですか?

まず、重質油・ビチューメンの資源量が膨大だという点です。原始埋蔵量は約8兆9千億バレルともいわれています。一説には在来型原油の約5倍の量という推測もあるほどです。そして、もう一つは生産実績があるという点が挙げられます。すでにカナダで生産されていることから、研究が求められていると思ったのです。
非在来型石油・天然ガスは採掘が困難で、在来型石油・天然ガスに比べて費用がかかります。重質油・ビチューメンも同様です。「とりあえず、ここに坑井を掘ってみよう」というわけにはいきません。しかも、生産期間は通常30〜40年という長期にわたります。工事に入る前に、しっかりと利益を得られるプランを立てなければなりません。そのためにシミュレータが不可欠なのです。今は1000フィート(約304.8メートル)くらいの油層から重質油・ビチューメンを取り出す過程を再現できる数値シミュレータを作っています。

Q シミュレータを作るために必要なのはどのような知識なのでしょうか。

シミュレータに使う数式は、質量保存式やエネルギー保存式に、熱伝導方程式や拡散方程式を組み合わせて作っています。いくつかの偏微分方程式を同時に解いて、自らが設定した主要変数を導き出すシミュレータを作っています。高校の教科で言えば、数学や物理にあたります。
ただ、石油工学で使うのはこれだけではありません。石油の化学反応などもありますから、化学の知識が求められることもあります。また、メタン生成細菌などの微生物の活動も、研究対象になっているので、生物の知識も求められます。ですから、いろいろな教科の知識を組み合わせて活用しています。

創造理工学部は幅広く学べるから
やりたいことを見つかる!

Q 広い知識が求められそうですが、授業で学ぶのですか?

これは創造理工学部全体に言えることですが、入学すると、数学から物理・化学・生物までしっかり学び、さらに熱力学や電磁気学も勉強します。それらを学ぶ意義や目的は、その時点では教えられません。研究室に入ってはじめて「ここでこの知識を使うのか!」と、今まで学んだ知識が研究に活かされていることを実感できるのです。
一つの分野を狭く深く追求する学部は多いですが、創造理工学部では多様な分野を幅広く学べて、しかも実践で身につけることができます。ですから、まだ具体的にやりたいことが決まっていない方でも、きっとやりたいことを見つけられます。実際、僕もそうでした。

Q 井上さんが環境資源工学科を志望したきっかけは?

小〜中学校の頃から、社会の授業で学んだ資源枯渇の問題が印象に残っていて、今振り返ってみると、それしか記憶にないくらいでした。それで、エネルギー問題や環境問題に興味を持ったのです。
石油について興味を持ったのは、大学2年次に受けた石油会社の現役社員が講師を務める授業。新潟県のLNGプラントで、現場を見学したり、実際に石油を生産していた現場にも行かせてもらったり、日本に一台しかないという採掘シミュレータを操縦させてもらったりして刺激を受けました。3年の頃には石油会社のインターンシップに参加し、いろいろな石油開発現場を見学。自分で機器を操作したら、実際に採掘量が増えたのですが、その時、ほんの少しでも貢献できたことに感動しました。

Q そうして入った栗原研究室はいかがですか?

栗原研究室は、海外を強く意識しています。石油開発の本場は海外にあるからです。ですから、海外で行われる学会にも積極的に行っています。今年はオーストラリアのパースで開催された学会に先輩が参加して、賞を取りました。僕は、今年は参加しただけでしたが、来年はぜひ発表したいと思っています。
栗原先生は後進の育成に熱心で、自分の時間を削ってでも学生のために尽くしてくれます。先生は企業や海外の大学での豊富な経験をもとに、研究はもちろん、人生論も語ってくださるので、人間力も身につく研究室です。
石油や天然ガスなどの資源開発に興味があって、海外志向の方に栗原研究室はうってつけです。ぜひ早稲田に入ったら、栗原研究室へ!