アンコール遺跡群から富士山頂まで
グローバルな研究活動を通じて成長する

環境資源工学科 学部4年
梶川 友貴 Kajikawa Tomoki
大河内研究室
2018年度インタビュー

Q 研究の概要を教えてください。

東南アジアにおける大気汚染が、熱帯性豪雨の生成過程においてどのような影響を与えているかを調べています。その核となるのは、サンプリングです。アンコール遺跡群があるシェムリアップという街で、酸性ガス、アンモニアガス、VOCs、Hg、エアロゾルといった大気汚染物質や雨水を採取しています。
カンボジアのアンコール遺跡群は古いもので9世紀から建設されていますが、15世紀以降に放棄され、その後、密林に埋もれて荒廃していました。1992年に世界遺産に登録された頃から、世界中の支援を得て修復・保存活動が始まりました。近年ではアジア諸国からの観光客数も急増し、カンボジア随一の観光地になりました。しかし同時に、観光客数の急増によるバイクやトゥクトゥクによる大気汚染の進行が懸念されています。
また、カンボジアは熱帯気候のために、激しい降水現象(熱帯性豪雨)が雨季に発生します。当研究室の「ゲリラ豪雨」の研究では、都市の豪雨現象が大量の酸性物質を短時間に地上にもたらすことが明らかにされています。以上のことから、大気汚染の進行と熱帯性豪雨の複合的影響(酸性雨)によって、アンコール遺跡群の劣化が促進される可能性が考えられます。
私の研究では、まずシェムリアップにおける大気汚染と熱帯性豪雨の現状を把握し、大気汚染の進行が熱帯性豪雨の生成を助長するのか、化学成分をどう変化させるのかを明らかにすることを目的にしています。

地球医を標榜する教授のもと
現場主義に立って研究する

Q 所属する大河内研究室について教えてください。

環境についてあらゆる側面からアプローチをしています。教授の大河内博先生は「アース・ドクター(地球医)」として、大気・水質・土壌汚染によって地球がどれくらいダメージを受けているかを調べ、解決策を提言されています。
大河内研の活動はかなりアクティブです。例えば、富士山5合目の「太郎坊」で月に2回サンプリングを実施しています。ほかにも、3ヶ月に一度は福島県浪江町の未除染地域でのサンプリング、丹沢地域、そして私の研究のアンコール遺跡群。大河内研は、実際に足を使って現場を見ることを信条としています。創造理工学部の特性である「フィールドを持つ」ということを体現した研究室です。
真夏には太郎坊を飛び出して、富士山頂でのサンプリングも行います。測定機材が重いので、5合目から山頂までブルドーザーで3時間かけて登り、1週間程度交代で寝泊まりしながら作業します。ここまでするのは、グローバルな越境大気汚染の影響を把握するためです。富士山頂の標高は自由対流圏といって地表の影響を受けないエリアなので、下層の大気の(ローカルな)影響を受けないで観測することができます。それによりグローバルな大気の試料を得ることができます。言うなれば自然の観測タワーですね。

カンボジアのトンレサップ湖にて。向かって右は大河内教授。

化学グランプリの成果により
環境資源工学科に入学を果たす

Q 早稲田大学に進学した理由を教えてください。

実は、入学するきっかけとなったのは、大河内研だったんです。私は幼少期から自然が好きでした。南極観測隊に憧れた時期もあります。高校からは本格的な実験をしたいと思い、工業系の東京工業大学附属高校に進学しました。
2年生からは屋上に雨水の採取器を設置し、イオンクロマトグラフィーで季節ごとの雨水に含まれるイオンの変化を分析しました。中国の大気汚染が深刻化している時だったので、東京にどのような影響を与えているかを知りたくなったのです。そのときに参考にしたテキストが大河内先生の著書でした。
本との出会いもあって、大学では大河内研のある早稲田大学環境資源工学科に進学したいと思いました。しかし、研究活動に集中したいとの思いから、化学グランプリの結果を活用した特別選抜入試で進学することを思い立ちました。高校では環境研究のツールとして化学を勉強していたため、化学だけは得意でした。
化学グランプリは化学オリンピックの国内予選です。早稲田大学の場合、一次選考の上位10%になることで特別選抜入試を受験することができます。入試の面接では高校での研究成果をアピールして、環境資源工学科に入学することができました。自分の強みを生かしつつ、やりたい研究に専念できた経験は、今でも自分の支えになっています。

極域での調査が将来の夢
日々の研究が道を創る

Q 今後の抱負をお願いします。

カンボジアや日本の大気汚染は、空気の循環によって最終的には北極・南極で濃縮されます。大気汚染問題を考える上で極域での研究は必要不可欠なので、将来は極域での調査に携わってみたいと思います。また、修士課程では観測・分析だけではなく、新しく「モデル」を用いた研究にも取り組みたいです。熱帯から寒帯まで、サンプリングからモデルの研究まで、研究を広く積み重ねて研究者としての個性を作り、いつかその成果をずっと憧れていた極域で発揮したいです。