一人のひらめきではなく、
皆の「気づき」を組み合わせる

株式会社日建設計 執行役員
エンジニアリング部門 設備設計グループ代表
堀川 晋Horikawa Susumu
土木工学科卒業
木村研究室
2018年度インタビュー

Q 現在の業務内容を教えてください。

設備設計グループは、オフィスや大学、病院、研究施設などの環境・設備の計画と設計を担当しています。具体的には、建築の省エネルギー性能や事業継続(BCP)性能などの計画とともに、受変電・照明などの電気設備、冷暖房・換気などの空気調和設備、給排水・消火といった衛生設備の設計を担当しています。私はグループ代表として、メンバーの統括や将来ビジョンの提案といったマネジメント業務に従事しています。

Q 業務範囲を拡大する取り組みをしているそうですね。

設備設計グループでは建築の設計にとどまらず、プロダクトの開発もしています。「COOL TREE」といって、木陰にいるような涼感を得られるクールスポットです。積み重ねた木が織りなす繊細な美しさをモチーフに、人を感知して自動散布するミスト、座ると冷たいペルチェ素子※を使った椅子を備えています。 屋根部分には太陽光発電装置があり、必要な電力をすべてまかなうことが可能。しかも、釘を一切使わない積み木構造とすることにより、繰り返しのリユースを可能としました。すなわち、ゼロ・エネルギーと完全循環型エコシステムへのチャレンジです。東京オリンピックで来日される海外の方々に、最大限のおもてなしを提供したいと思い、このCOOL TREEを関係各所に提案しているところです。
※電子部品の一種で、電流を流すことにより冷却される。

COOL TREEの完成イメージ

日常にアンテナを張ることで
新たなものを生み出してゆく

Q 設備設計グループ代表として、日頃から社員に伝えていることはありますか。

設備設計グループには現在240名が所属していますが、その一人一人に「気づき」を求めています。これまでは、設計者個人の「ひらめき」がプロジェクトを生み出してきました。しかし、世界中で新しい技術や新しい考え方が次々と生まれる昨今、1人がアイデアをひらめくのを待つより、240人が日常的にアンテナを張るほうが良い。その中で生まれるシナジーによって新たなものを生み出すほうが、より高い価値を社会に提供できるのではないでしょうか。
設備設計グループのメンバーには、全員に対して年に1つ、自分で考えた「気づき」を発表してもらっています。例えば、ある人は朝のラッシュ時間帯をずらして通勤することが、平均労働時間を5%短縮する効果があることを発見しました。またある人は、オフィス室内の湿度低下が身体に及ぼす影響を計算し、湿度コントロールの重要性を提案しました。おもしろい例だと、トイレの使用状況を遠隔で確認できるシステムを開発した人もいます。約200人のIdea/Identityという意味を込めて、この取り組みを「ID200」と名づけました。さきほどのCOOL TREEも、このID200のアイデアから生まれたものです。

Q 設備設計の中で、特に重要な課題は何ですか。

ずばり「ウェルネス」です。ウェルネスとはつまり、心身ともに活き活きした状態のことです。会社は1日の半分近くを過ごす場所であり、会社の居心地は社員の健康にも知的生産性にも直結します。これからの日本では、ウェルネスな執務環境が急速に求められていきます。
このような潮流を踏まえて、建築設計にはより快適な空間と環境をデザインすることが求められています。そのためには、人間の心と身体をよく研究することが必要です。だからこそ、さきほどのID200のような取り組みを行っているわけです。日常にアンテナを張り、知見を集め、成果を発信する。環境の変化によって、ウェルネスのあり方も変わっていくし、設計そのものも変わっていくはずです。

早稲田生が枠からはみ出せるのは
「進取の精神」のあらわれ

Q 仕事で早稲田大学の良さを感じる時はありますか。

実は、さきほど触れた『建築画報』の座談会に出席頂いた田辺先生とは研究室の同期生です。卒業後も一緒に研究を行ったり、プライベートでもお付き合いをさせて頂いています。早稲田という共通項は貴重だと思います。また、私は付属高校の早稲田大学高等学院の出身ですが、軟式野球部でともに汗を流した同期、先輩、後輩とはいまだに親交があります。卒業後まで関係が長く続くことも、早稲田生の特色といってよいでしょう。
最近、若い方を見て思うのは、よく勉強していて優秀ではあるが、良くも悪くもまじめだということです。もう少し枠からはみ出してもいいと思います。強い好奇心を持ち、新しいことにチャレンジするということです。その点、早稲田には実にいろんな人がいますから、はみ出す人も多いですね。「進取の精神」の校風のあらわれなのだと思います。