土木の力で
災害から人を守りたい

大成建設株式会社
土木営業部本部営業部副部長
龍 尊子Ryo Takako
社会環境工学科卒業
堀井研究室
2018年度インタビュー

Q 現在の業務内容について教えてください。

主な業務は、官庁営業です。具体的には、公共工事の入札参加に際して、適正な価格と現地に適した技術で工事を実施することが出来るよう社内調整したり、発注関係先へ技術をPRするのが主な仕事です。公共工事の入札は技術と価格の両面で評価されますが、工事価格は公表されている積算基準をもとに適切な積算をできるかが重要であるほか、決め手となるのは発注者の要求に応えられる技術力があるかどうかです。
工事の施工中は、周辺の住民の方々には騒音・振動等で負担をおかけする場合もありますし、自然環境にも配慮しなければならないことがあります。環境負荷の少ない施工法や、工期短縮を図る為の施工法などを適用させていくことが重要です。例えば橋の工事を例に挙げると、橋を金太郎あめのように、一定の断面ごとにコンクリートブロックの桁をヤードで製作し、順次架設していくプレキャストブロック工法という工法があります。高所や水上での作業が少なくなることで安全に作業ができ、長い橋では品質確保、工期短縮およびコストダウンができるとして、採用される工法です。橋以外の構造物にプレキャスト化を適用される工法を開発したり、低騒音・低振動の機械を採用したりするなど、その工事の特性に合わせて技術を提案してニーズに対して臨機応変に対応するのです。

驚異の技術力を武器に
リニューアル提案に挑む

Q 今までで印象に残った仕事について教えてください。

新材料を用いた道路の更新技術の提案でしょうか。新技術や新工法をいろいろな発注者に提案する技術営業部門に異動した時のことです。ある道路管理者が道路の床版(しょうばん)の補修を検討しているという話を聞きました。床版とは、自動車が通過する際に重量を支える床のことです。この床版は高度成長期に建設され、開通してからの期間が長くかつ膨大な交通量で劣化や損傷が生じていました。日々、自動車が行き来する道路ですから、当然工期は短くなければなりません。さっそく社内の技術資料を調べてみると、過去にも床版を一夜でかけ替える提案をした事例があるとわかりました。しかし、その施工法を提案するだけでは過去事例の焼き直しです。新材料を使って、床版の長寿命化にも寄与するような提案ができれば、発注者の維持管理の負担を軽減でき、期待を上回るプラスアルファの提案となります。そこで、当社が国内初導入した超高強度繊維補強コンクリート「ダクタル」の名前が挙がりました。この材料はきわめて高強度であるため、部材を軽くすることが可能であり、高耐久で床版の劣化にも抜群の効果を発揮するので最適な材料でした。
提案に際しては社内の橋梁設計室、橋梁技術室、技術研究所といった部門からなるプロジェクトチームを立ち上げ、発注者の各部署にプレゼンテーションして回りました。その結果、当社はダクタルを用いた床版架替の施工技術について、共同研究を行えることになりました。共同研究は6年間続き、研究成果をまとめるまでに至っています。

情報を発信しなければ
工事への理解は得られない

Q 土木に関係して継続的に取り組まれている活動はありますか。

長年に亘り関わってきたのは、土木学会土木技術映像委員会の活動です。土木技術映像の収集やデータベース化のほか、年に数回、一般および会員向けの上映会「イブニングシアター」を開催しています。土木技術映像を観ると、インフラ整備を通じて日本の土木技術が発展してきたことがよく分かります。また、土木広報アクションプランの策定にも関わりました。2011年の東日本大震災において、国土交通省と地元建設会社が連携し、道路や港湾を短期間で啓開させた「くしの歯作戦」は、人命救助や支援物資の早期輸送に大きく貢献したにも関わらず、一般にはほとんど知られていませんでした。当時、他にも多くの建設会社が復旧・復興事業に携わっていましたが、その姿が国民に正しく伝わっているとは言えませんでした。2013年に公表した「土木広報アクションプラン最終報告書『伝える』から『伝わる』へ」では、具体的な33のアクションプランを提案し、「一人ひとりが土木の広報パーソンになろう。」と呼びかけました。これを元に、土木学会では2015年に土木広報センター(センター長:早稲田大学依田照彦教授)を設置し、戦略的な情報発信・広報を行っています。
社会人となって入会した「土木技術者女性の会」は、土木界で働く女性技術者同士のネットワーク作りと後進の女性たちへのアドバイスを主な目的として、見学会や勉強会などを行っている会です。事務局長を務めた2014年には、土木界における女性の活躍を支援する活動と「ドボジョ(土木系女子)」の普及貢献が評価され、「内閣府女性のチャレンジ賞」を受賞しました。現在は、建築系女子と併せて「けんせつ小町」と呼ぶようになっており、建設会社で働く女性技術者の数も増加しています。

女子中高生夏の学校(土木技術者女性の会)

「災害大国」は
災害を乗り越えてきた証

Q 現在のキャリアの原点となるエピソードを教えてください。

入社2年目に起こった阪神淡路大震災です。我が国の耐震基準を超える大地震によって、多くの構造物が倒壊しました。阪神高速道路が横倒しになったニュース映像を目の当たりにして、大変ショックでした。上司や先輩が支店に応援に出て、私は本社で震災復旧工事の設計計算と図面作成を担当しました。毎日終電で帰り、休日返上で仕事をする多忙な日々が続きました。
復旧工事の設計業務は膨大な量でしたが、この図面を仕上げ、復旧工事が行われる事が被災した方々の生活再建に繋がるのだと思うと、責任とやりがいを感じました。その時の経験は、今でも私が建設会社で働く原点になっています。
日本は災害大国と呼ばれることもありますが、見方を変えればそれだけの災害を克服する技術力を持った国だということもできます。土木は人のいのちを守るためにあるものです。土木の意義と魅力を発信しつつ、技術の研鑽に努めインフラ整備を通して、社会に貢献していきたいと思います。

第二東名高速道路 矢作川橋(PC上部工)東工事現場(現 豊田アローズブリッジ)にて