何千年、何万年も壊れない
放射性廃棄物処理施設を

清水建設株式会社
土木技術本部バックエンド技術部副部長
杉橋 直行Sugihashi Naoyuki
1993年 土木工学科修士課程修了
関博研究室
2016年度インタビュー

Q 現在の業務内容を教えてください。

放射性廃棄物の処分施設を作るにあたり、コンクリート系の材料設計がどうあるべきかについて、技術的な検討をしています。
現在、管理された状態の廃棄物、すなわち低レベル放射性廃棄物については処分の仕方が決まっていて、日本原燃㈱がすでに処分をはじめているところです。具体的には、20メートル程度掘削し、コンクリートのピットを作り、その中に放射性廃棄物の入ったドラム缶を埋めています。
一方、問題になっているのは、放射能レベルが比較的高い破棄物の処理施設です。福島第一原子力発電所の事故で注目されていますが、これらの処分についてはまだ何も決まっていません。どこに作るのかすら決まっていない状態です。私たちとしては、安全で、長期的に耐久性のある処理施設を作るため、土木技術でできることすべてを注ぎ込む思いで取り組んでいます。とにかく住民の不安をなくせるような、そして、国民の理解を得られるような施設を作りたいです。

Q 高レベル放射性廃棄物はどのように処理する方針なのですか?

この問題は全世界的な課題で、実は高レベル放射性廃棄物処分施設を持っている国はありません。未知の領域ですから、処理方法も様々な可能性を議論されました。宇宙に投棄する方法、海中に沈める方法、氷の中で凍らせる方法など――、これらの可能性のなかで、地中施設に埋設するのがもっとも現実的で、もっともリスクが少ないだろうというのが世界的なコンセンサスです。ただ、日本は地震、火山が多く、決して安定した地盤ではありません。ですから、日本では、地盤の理解・検討が不可欠です。

Q 具体的にはどのようなリスクがあるのですか?

最も可能性が高いのは、処理施設が地下水に浸食されて、放射能物質が流れ出てしまうことです。その地下水を人間が直接飲んでしまう恐れもありますが、田畑に使われたり、家畜が飲んだりすることで、人間の体内に入る可能性の方が高いでしょう。ですから、地下水がどこに漏れ出るのかを検討し、人間への影響が最も可能性が少ない場所を考えることが重要です。
一方、私たちに求められるのは、長きにわたって、地下水が入らないコンクリートを設計することです。放射性廃棄物の半減期は、数万年単位ですから、少なくとも数千年、理想的には数万年の間、核物質が外に出てこないような安定した施設が求められます。決して簡単な仕事ではありません。
ただ、ローマの遺跡などを見ると勇気づけられます。数千年もの間、残っているコンクリート施設があるわけですから、我々もやらなければならないと思うからです。

Q 今の仕事で大変なことと、やりがいに感じることとは?

私たちの本業はあくまで建設事業です。工事をやってこそ、私たちの技術が活かされます。しかし、今は、その前段階の開発に時間がかかっている状態です。工事が進められないことがいちばん辛く感じています。
一方で、大変な事業に取り組んでいるからこそ、技術的な難問を少しでもクリアできたら嬉しいですね。たとえば、どうやったらひび割れのないコンクリートができるのかという難問に対して、特許を取れるような技術ができれば凄いことです。でも、試験施工で思った通りの構造物が作れただけでもやりがいを感じます。また、技術的な難問についてはオールジャパンで取り組んでいますから、他社も含めて、業界として何らかの成果が出れば嬉しいです。

Q 原発事故の影響もあるかもしれませんが、科学技術への不信が増大しつつあるような気がします。

おっしゃる通りで、技術不信を感じるところはあります。しかし、日本は資源もなく、高度な技術によるものづくりで発展してきた国です。最近注目されるVR(Virtual Reality : バーチャルリアリティ)、AR(Augmented Reality : 拡張現実)なども同様ですが、理系による科学技術教育は日本の発展にとって不可欠だと思います。ですから、早稲田大学も理系教育の重要性を訴えてもらいたいですね。

早稲田で学んだのは、
人に対しても、技術に対しても
真摯に誠実にあるべきだということ

Q 学生時代、ご自身がもっとも学んだことは?

研究ももちろんですが、研究に向き合う姿勢を学んだと思っています。研究室では先生が学生を信頼してくれて、計画を立てて、実験資材を購入し、実験を行い、結果を検討し再計画を立てるところまで、学生に任せてもらっていました。それが巨額の費用を自分で使うはじめての経験だったので、とても緊張したことを覚えています。
ところが、修士1年の頃だったと思うのですが、かなり高額な試験機を壊してしまったのです。血の気が引き、「もう研究室にいられない」と思い詰めました。でも、先生が一緒になって謝ってくれて、大学が助けてくれたのです。
この時に、自分を信頼してくれる人には、誠実に答えていかなければならないことを痛感しました。基本的な姿勢なのかも知れませんが、その時に実感として学べたのです。

Q 技術者として、若い世代に何かメッセージをお願いします。

誠実さは、技術にも求められます。私たちは技術に対しても、真摯に、誠実に向き合わなければなりません。
技術的な課題に対しては、やれる限りの努力をしていくべきです。決して勉強不足ではいけません。その上で、出てきた結果に対しては、たとえ予測と違っていたとしても、まず受け入れることが求められます。そして、その結果に対して、やれる限りの努力をもって対応すべきです。そういう誠実さがなければ、昨今問題になっている偽装問題などにつながっていくでしょう。
技術立国というと大げさに感じるかもしれませんが、技術の進歩そのものを担っていくのは、若い世代の皆さんです。将来は皆さんの双肩にかかっています。それにいつ気づくか。そのタイミングが自分の将来に決するはずです。ですから、今から少しでも自覚をもって勉強していただきたいと思います。

Q 最後に、杉橋さんにとって早稲田とは。

自分の基本的な人格を形成してくれた大学です。早稲田には多様な人材がいるので、彼らとの交流で、様々な考え方を学びました。今でも他大学では味わえない刺激があるはずです。また、研究で教わったことも含めて、自分の根本となるようなものをつくってもらえたと思っています。良い大学ですから、ぜひ、早稲田に入ってもらって、しっかり学んで、日本を支えてほしいですね。特に個人的には理系分野を盛り上げてもらいたいと思っています。