大学で得たものは知識だけではない──
実務まで役立つのが経シスの実践講義

花王株式会社
SCM推進センター 戦略企画グループ
鈴木 雄祐Suzuki Yusuke
2016年 経営デザイン専攻修士課程修了
吉本研究室
2018年度インタビュー

Q 現在の業務内容を教えてください。

海外のサプライチェーン最適化に取り組む部署で、現地の物流拠点の設計に携わっています。具体的には、現地法人と協働して、各部門の事業計画や需要の増減に合わせた倉庫の規模や在庫管理の方法について検討します。
弊社のアジア地域での売上は毎年10~15%程度増加しています。売上増加に伴う製造数量・在庫数量の増加にあわせて、倉庫が年々足りなくなってきています。ですから、地域ごとに優先順位を設定して、どの国にどれだけ倉庫を確保するか個別に検討する必要があるのです。
さらに、アジアならではの問題もあります。倉庫の賃貸借契約を結んでも短期間で解約できる国が多く、ある日突然退去を要求されることがあるのです。そうなると次の倉庫をすぐさま見つけ、改めて契約を結び、商品を移さなければなりません。逆に、コスト効率が良い別の倉庫に移ることもありますし、自前の倉庫を建てることもあります。このようなことがアジア各国で起こっていて、それぞれに対して臨機応変な対応が求められるので気が抜けません。
変化する状況に対応するためには、各国の需要変動を把握しておくことが大事です。「アタック」をはじめとした洗剤や「ビオレ」のようなビューティケア用品などの商品を日々開発・製造し、各国へ供給しています。私たちは事業計画をもとに、需要の伸びに対応した在庫予測をたて、倉庫の新設や移動を提言します。このとき、過去と現在のデータだけで未来の需要を想定するのではなく、不確実性を考慮してバッファを持つことで、不測の事態にも対応できるようになります。

検索したGoogle Mapには
自分が手がけた倉庫が映っていた

Q この業務のやりがいは?

なんと言っても、現地法人の従業員から感謝された時ですね。ベトナムであった例を挙げると、狭い倉庫で在庫管理をしている物流拠点がありました。現地を視察した時、「よくこんなに狭い倉庫で作業してきたな」と思って感心する反面、苦労を知って胸が痛みました。整然とした作業環境でないと5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は徹底されません。作業効率の低下はミスを誘発し、やがて損失につながります。
私は帰国して改善に取り組み、拠点に適した倉庫のサイズと作業動線、在庫のレイアウトを割り出しました。数ヶ月後に倉庫が新設されると、広々としたスペースで作業する従業員から感謝の連絡を受けました。
現地法人の社長からも、綺麗になっただけでなく在庫管理がしやすくなり、ミスも減ったとお褒めいただきました。Google Mapで検索すると、数ヶ月前にはなかった倉庫を見つけました。自分が手がけた仕事だと実感し、とても感動したことを覚えています。

Q 大学院時代の経験で、現在の業務に特に役立ったことを教えてください。

プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)という授業が挙げられます。この授業は有名企業の第一線で働く方を講師に招き、講師が用意した課題について学生がチームで取り組むというものです。
社会人講師の中でも特に印象に残ったのは、某大手商社の方でした。膨大な量の資料を渡され、1週間で資料を読み、分析し、意見をまとめて発表まで行うようにとのこと。しかも資料はすべて英語。
どこから手をつけたらいいかわからず、最初はチームのメンバーと頭を抱えました。手をこまねいているわけにもいかないので、まずグラフ化することから始めました。するとデータの傾向が少しずつ見えてきたので、次に仮説を立て、細かいデータまで分析。メンバーと作業を手分けして、優先順位をつけて計画的に進めました。深夜まで作業する日が続きましたが、常に段取りを意識して作業を進めるということは、現在でも実務に役立っています。

Q 経営システム工学科への入学を希望されている方へ一言。

経営システム工学科は、進路に悩んでいる方にこそおすすめです。やりたいことを絞りきれなくても、統計、数理解析、生産管理、人間工学といった幅広い分野を扱っていますから、それらを学ぶ中で進むべき道を検討することができます。これほど学問領域が広いのは経営システム工学科くらいのものです。
実をいうと、私もやりたいことが絞りきれませんでした。しかし経営システム工学科に入学すると、さまざまな講義を受けるうちに、「得意な数学を活かして現実的な経営課題に取り組みたい」という想いが芽生えたのです。そして今、研究してきた数理最適化を企業の最前線で日々実践できています。ぜひ経営システム工学科で、自分の進むべき道を見つけてもらいたいですね。