早稲田建築、その魂の継承を

鹿島建設設計本部 副本部長
田名網 雅人Tanaami Masahito
1982年 建築学専攻 修士課程修了
池原義郎研究室
2015年度インタビュー

Q 現在のお仕事の内容を教えてください。

入社以来、オフィスビル設計一筋に、北は北海道から南は九州まで、様々なオフィスの設計をしてきました。規模に関しても、営業所のような小さなものから、超高層ビルまで60棟くらい竣工させました。その中には、鹿島別館ビルの設計もあります。
設計する上で私が常に意識してきたことがあります。それは設計だけが主張するのではなく、設備と構造とバランスをとりながら、その敷地にとってベストな回答を導き出す、ということです。
私の恩師である池原義郎先生は「土地を読んで、そこにあるべきものを探し出す」とよく仰っていました。
西武球場は池原先生の代表作ですが、丘陵地を掘り下げて、その部分をスタンド席にしているので、丘の中に入り込むようなつくりになっています。これによって、もともとその場に球場があったかのような、周囲と調和した空間ができるのです。
導線も特徴的です。外野バックスクリーン後方の中央口から入場し、スタンド外周のスロープ状の通路を経由して、各座席へ誘導する動線が取られていて、スタンド後方まで登ってやっと球場全体が見渡せるようになっています。入場口からそれぞれの座席までの課程で、少しずつ球場の姿がみえてくる。これによって、高揚感が生まれます。演劇的と言いますか、ストーリーを感じさせる作品です。
これも「あるべき姿」の形なのだと思います。
翻って、私もオフィスビルのあるべき姿とは何か、と問いかけながら仕事をしているつもりです。

Q 学生時代はどのような活動を?

学生時代から、新建築や建築士会のコンペに応募し、いくつも入賞しました。当時は卒業設計の優秀者に村野賞という村野藤吾先生の名を冠した賞があったのですが、それも受賞しました。研究室の課題だけではなく、外に目を向けて活動をしてきました。
就職してからも、業務の傍ら、社内でチームを組んで、いろんなコンペに挑戦してきました。初台の第二国立劇場(オペラハウス)のコンペで準グランプリになったのも良い思い出です。鹿島建設というのは自由な社風で、コンペへの参加が推奨されていました。それに、ゼネコンの設計には珍しく、個人名を出すことにも積極的でした。外に目を向けると言う点では、学生時代から一貫していますね。

早稲田建築アーカイブスで草創の先輩の思いを感じて欲しい

Q 今の学生たちを見ていて感じることはありますか?

女性の元気が良いですね。
一昨年は3年生に授業を受けもったので、そのときに学生と接しましたが、男性は元気が無いかな。人数的にもわれわれの時代には男性100人にくらい在籍していたのに対し、女性は7人だったと記憶していますが、今や4割が女性でしょう?それも優秀な人が多い。女性が引っ張っていく時代なのかな、と思います。
全般的に早熟な子が減ったような印象を受けました。早稲田の建築には伝統的に「手伝い制度」というのがあります。文字通り、先輩の手伝いをすることで様々な作業を覚えていきます。——1年生の時には2年生の先輩や3年生の先輩さらに4年生の先輩を―と手伝うわけですが、これによって、3年先の内容を先取りして学ぶことになりますから、自然と早熟になったのです。
近ではその制度もないからか、建築に一家言あるような人は、あまり生まれないのかもしれません。今の時代に昔のような手伝い制度を復活させるというのは、現実的ではないですし、良いことだとも思いません。しかし、早稲田の建築に流れる精神、理念のようなものは継承してもらいたいという思いがあります。
 そんな思いで、早稲田建築アーカイブスというWEBサイトを立ち上げました。
これは2010年の建築学科が100周年の佳節に、記念事業としてスタートしたものです。私くらいの年代だと、OBとの連携がしやすいので委員長に任命されたのでしょうか。ご存命でない方については、映像や資料をかき集め、お話を伺える方には取材をさせていただきました。菊竹清訓先生、田中彌壽雄先生は、このインタビューのあとに残念ながらお亡くなりになってしまったので、最後の映像となってしまいました。このタイミングでお話をお伺いすることができて良かったと思っています。

早稲田の建築に流れているのは、一言で言えば「反骨精神」です。東大が官であるならば、我々は民の代表として、他にはできないことをやったという自負があります。草創の大先輩たちが、どのような思いで建築と向き合い、戦ってこられたかを身を持って感じて欲しい、そんな思いがアーカイブスには込められています。
昨今の建築は厳しい時代に入っています。新しい建築というのは求められていないというような意見を目にすることもあります。しかし、この時代だからこそ求められる建築が必ずあるはずです。
戦後の焼け野原から立ちあがり、物資が充分にない時代に道を切り拓いてきた方々の姿は、大きなヒントとなるでしょう。
この事業はOBのためのものではありません。今の学生やこれから進学してくる方々に早稲田建築の精神が継承されたときに、目標を達することができると思っています。
建築を志している方は、是非、WEBページを覗いてみてください。

早稲田建築アーカイブス:http://waarchives.org/