グローバル時代を見すえて
バランス感覚を持った人物に

早稲田大学環境資源工学会会長
山﨑 治郎Yamazaki Jiro
2018年度インタビュー
1976年 早稲田大学理工学部資源工学科入学。
1980年 早稲田大学理工学部資源工学科卒業。
1982年 同修士課程修了。
1982年 キャタピラー三菱株式会社入社。
1987年 米国コロラド鉱山大学大学院に派遣。
1988年 帰国後、Sales-support & Software センター主任、市場開発課主任、土木マーケット課長、販売支援・教育課長、営業支援部長、経営企画室長、営業部門執行役員等を歴任。
2013年 日本キャタピラー退職。
2013年 キャタピラー教習所株式会社社長。
2017年 同社社長退任。

Q 山﨑さんは、キャタピラーグループの会社に長くお勤めでしたね。

油圧ショベルやブルドーザといった建設機械や、エンジン、発電機といった製品を開発・販売及びアフターサービスをする外資メーカーの日本法人です。現在はすでに退職していますが、三菱重工との合弁会社「キャタピラー三菱」だった頃の入社で、かれこれ30年以上は勤めたことになります。
実は、入社のきっかけは、大学院の研究だったのです。専門は石灰石の鉱床※評価。石灰石は日本でも、新潟県の糸魚川や、山口県の宇部、大分県の津久見など限られた場所にしか存在しません。石灰石の鉱床の多くは地中にありますから、これを採掘するのには多額の費用がかかります。私は作業員や建設機械、作業場の建築費をはじめとしたコストを計算し、どれだけの期間で初期投資を回収できるかといった投資効果判定に関する研究をしていました。
現場を知る意味で研究室の先生からのアドバイスもあり、OBを訪ねて全国の石灰石鉱山の現場訪問していました。建設機械の作業量のデータを収集する必要があって、キャタピラー三菱を訪問したことがありました。キャタピラー三菱では販売促進の一環で現場の生産性向上に関連するコンサルティング業務もやっていました。その辺りの業務が私の研究と似ていたことから、その後入社することになりました。
※地下で鉱物や天然ガスが濃縮している場所。

Q 現在は、早稲田大学環境資源工学会の会長をされていますね。

早稲田大学環境資源工学科のOB・OG会は、早稲田大学環境資源工学会と呼ばれています。在職中には大学の力を借りる場面が多々ありました。お客様から難しい要望や質問を受けた時には、よく大学に相談しに行ったものです。私の恩師である萩原義一先生を訪ねると、いつも快く相談に乗って下さり、時には地質調査にご同行や研究室で骨材試験を引き受けて頂いたこともありました。その少しでも恩返しになるならと会長を引き受けることに致しました。また、研究室の学生の卒業論文に協力するために、よくデータ収集の現場を紹介しました。仕事終わりに飲みに行って語り合ったこともあります。その影響があったかはわかりませんが、キャタピラー三菱に就職した人もいました。やはり優秀な早稲田の後輩が入ってくると、OBとしてとても嬉しかったですね。

前代未聞のプロモーションで
広報活動を成功に導く

Q 勤続生活で特に印象に残ることを教えてください。

これまで色々なことを経験してきましたが、特に思い出深いのは販売支援・教育課長だった頃の販売促進、広報・宣伝活動でしょうか。この部署は、言ってみればセールスプロモーションの専門部隊です。
業務の中にはゴルフ大会の運営もありました。キャタピラーは長年、「CAT Ladies」という女子プロゴルフ大会のスポンサーを続けていますが(当時の名称は『新キャタピラー三菱レディース』)、会場の確保や賞品の選定、スタッフの管理、イレギュラー対応に当たるのも販売支援・教育課の仕事でした。
「どうしたら大会が盛り上がるのか」昼は会社、夜は居酒屋で、部下とぶつかりながら、討議を重ねる毎日でした。そんななか、副賞に建機を採用し、さらに優勝した女子プロゴルファーのサインを入れるという案がひらめいたのです。通常、副賞は乗用車でしたから、建機が複勝とは相当な型破りだったかもしれません。なぜこんなことをしたかというと、その頃我が社はミニ油圧ショベルの市場導入は他社に遅れをとっていました。そんな状況下で勝つためには、先ずは、市場認知度の向上が必要と考えていました。その結果のアイデアでした。
その型破りな発想は、最初は色々な方面から疑問視されましたが、女子プロにも契約ゴルフ場へのプレゼントになることなどから受け入れられ、またスポーツ紙の1面に掲載されたことで、建設業界をはじめ各方面で注目され、広報・宣伝活動として大成功だったかなと思っています。2001年から現在まで続いていますので、大変嬉しく思っています。

日本の長所と海外の長所
両方を取り入れてほしい

Q これからの早稲田生にどんなことを期待しますか。

近い将来、多くの職場で当たり前に外国人と仕事をする時代がやってきます。ですから、相手の文化を知り、土足で入り込まない、良識を持った人物を目指して欲しいですね。
早稲田大学特任教授の野中郁次郎先生がファシリテーターを務める「ナレッジ・フォーラム」という社会人講座に参加したことがあります。経営の次世代リーダーを育成するための講座で、参加者は大手商社、銀行、広告代理店、自動車メーカー等の役員級というそうそうたるメンバーでした。彼らの多くは、日本と海外の長所を合わせて活かすべきだと言っています。
なかなかその長短を見極めることは容易ではないと思いますが、様々な人を受け入れる基本姿勢でお互いの良いところを取り入れれば、理想の組織に近づくはずです。多様性にあふれた早稲田大学で、外国人とも積極的に交流して、バランス感覚を身につけた大人になって欲しい。そう願っています。

山﨑さんが参加したナレッジ・フォーラムの講義や論文をまとめた書籍