環境問題のグローバル化、環境修復、
そして先進国の責務である資源の再利用

環境資源工学科 教授
香村 一夫Kamura Kazuo
専門分野 地圏環境学
2017年度インタビュー

人間活動は地球環境に大きなインパクトを与えてきました。その結果、鉱害・公害、環境汚染、廃棄物問題、地質災害、気候変動などが生じています。地球が誕生して46億年が経ちますが、このドラステイックな環境変化は、産業革命後のわずか200年間のことにすぎません。地球の年齢を1年(365日)にたとえるならば、新しい年を迎えるわずか1秒前からの出来事ということになります。
最近では地球環境に関するSDGs(=Sustainable Development Goals 持続的開発によるゴール)をどこに定めるかが国際的な話題となっています。かつて環境破壊は先進国を中心としたローカルな問題で、多少の失敗はカバーすることができましたが、今やグローバルな問題となり、失敗は許されません。
一例をあげましょう。残留性有機汚染物質(POPs)という一群があります。分解性が低く長期に残留することから、農薬等に適しており、熱帯や中緯度地域の耕作に使われてきました。このPOPsが、近年、耕作の行われていない極地に棲むアザラシやイルカの体内から高濃度で検出されているのです。このように、汚染物質が長距離移動する現象は各地で観測されています。

環境問題への様々なアプローチ

このような背景のもと、私たちの研究室では「地圏環境」をキイワードに、次のような研究を進めています。

1)環境変遷とその解明技術の開発

静穏な湖沼・ため池・内湾などの底にたまった堆積物(底質)は、大気中から降り注いだものが順を追って積み重なっています。その堆積物に含まれているある種の物質に焦点をあて、その濃度の深度に伴う変化から環境の変遷を紐解くことができます。最近では、福井県・岐阜県境の標高1000m以上にある山岳池の底質中に含まれる球状炭化粒子の含有量トレンドを調べ、中国大陸からわが国への越境大気汚染が顕著になりだしたのは1980年代であることをつきとめました。なお、球状炭化粒子とは化石燃料の高温燃焼で発生する粒子であり、産業活動の指標となります。このように堆積物を利用することにより、過去の環境汚染の歴史について知ることができます。また、これらの技術を環境モニタリングの十分でない開発途上の国々に適用し、汚染被害予測等に役立てる研究も続けています。

2)環境修復技術の開発

地下水は貴重な水資源です。この地下水が、農業活動における過剰施肥や工業活動における排水などにより汚染されています。このような汚染水を浄化する安価な材料の開発を手がけています。日本は火山国です。各地に火山灰土壌が分布しており、それらは汚染物質を吸着する能力を有しています。そこで、各地の火山灰土壌の特徴や吸着能力を調べ、データベースをつくる作業をしています。一方、ある種の火山灰土壌に酸化マグネシウムを加えると、人工塩水中の塩分吸着が顕著に増加することがわかりました。現在、この現象の究明をする傍ら、より効果的な材料の開発を試みています。うまくいけば、世界の半乾燥地域で進む土壌の塩害や地下水の塩水化に対処できる安価な脱塩材となる可能性があります。近々、基礎的な実験を終えて、実用化に向けての研究に入る予定です。

3)廃棄資源のリサイクル

1998年、わが国では家電リサイクル法が制定されました。それ以前は家電製品等は破壊して最終処分場に埋め立てられてきました。しかし、そのような埋立地から流れでてくる水の中にはメタル類はほとんど検出されません。この事実は埋立層中に価値あるメタル類が残っていることを示唆しています。埋立層中を浸透する水にメタル類が溶け込み、層内を移動し、層内環境変化の影響で濃集ゾーンを形成することが期待できます。現場調査と室内実験から、一部のメタル類でこの現象が認められました。現在、濃集ゾーンを非破壊で探査する技術の開発、そこからメタルを回収する安価で効率的な方法の考案、メタル濃縮技術の開発等を手がけています。
人間のあくなき欲求により生じた廃棄物、そのなかには貴重な資源が含まれています。工業国としてこれらの資源を利用し発展してきたわが国は、廃棄・埋立された資源を回収し、再活用する責務を担っています。私にとって、この問題はひとつのライフワークとなっています。

学生は野外にでて感性を磨こう、さらに
コミュニケーションを大切にしよう

環境資源工学科の学生には、専門知識の習得と研究活動のほかに、次のことを期待しています。①自らの感性を磨くこと、②現場を大切にすること、③コミュニケーション能力を伸ばすこと、の3つです。

①感性を磨く

環境の学習は理論や技術だけではありません。桜が咲いたら「綺麗だな」と自然と感じられる心こそが環境を守る原動力になるのです。その感性は若い頃にしか育てられません。歳を取るとどうしても理性が先行してしまうからです。外に出て、自然と触れ合うなかで、感性を磨いてください。

②現場を大切にする

環境保全に関わる教え子が「データを見ているだけではわからなかったことが、現場をひと目見てわかった」とよく報告してきます。環境は数値だけでは捉えられません。何が起きているのかを自分の目で確かめることが求められます。本学科では野外実験や試料採取などフィールドワークを行う研究室も多いので、現場の大切さを学べます。

③コミュニケーション能力

かつて環境問題は人と自然との関係でしたが、近年は人と人との関係に変わりつつあります。ゴミ処理場をどこに設置するかなど、話し合いを必要とする場面が増えているのです。感情的な対立に終始しないためにも、科学的に論理だて、わかりやすく説明する能力が求められます。
そのような能力を伸ばす目的で、公設研究所、環境に携わる企業、国際協力機関などに属する専門家の講義を聞いた後、いくつかのテーマのもとにプレゼンテーションとデイスカッションを行うカリキュラムを立ち上げました。ラストの授業の後には、受講学生・担当講師と教員・学科OBが集う懇談会を開催し、様々な考え方に触れる機会をつくっています。