学べば学ぶほど好きになり
やりがいのある仕事に就ける学科

社会環境工学科 教授
小峯 秀雄Komine Hideo
専攻分野 土木工学・地盤工学
2017年度インタビュー

社会環境工学科はもともと土木工学科として創設されました。土木工学で扱う対象は、社会インフラです。解剖学者の養老孟司さんのベストセラー『バカの壁』の続編『超バカの壁』に、まさしく土木だという一説があるので、ここにご紹介しましょう。
「仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というもの」
これが社会環境工学科で学んでいることです。穴が空いた道路を直す。さらに、穴が空かないような道路を作る。壊れない橋、崩れないトンネルを作る。そのために私たちは学んでいます。
養老孟司さんがこの一説を述べているのは、<「自分に合った仕事」なんかない>という項です。最近の人は「自分に合った仕事」を探して、やりたくない仕事を拒否しているようですが、「自分に合った仕事」などないと言っています。
『超バカの壁』は2006年に出版されましたが、今でも「自分に合った仕事」を求める傾向はあります。大学の選択でも、「自分のやりたいこと」に合った学部・学科を選ぶようアドバイスされることが多いそうです。この傾向そのものは決して悪いことではないと思います。しかし、選択の基準がそれだけで良いのでしょうか。
仕事が困っている問題を解決するためにやっているのと同様、大学の研究も、社会の問題を解決するために必要だからやっています。学問もそうです。地震の被害をなくすためには、自然現象を理解しなければなりません。だから、自然現象と対話する言語である数学を学んでいるのです。また、地震に強い構造物を作るには、物理現象を知る必要があります。だから物理を学んでいるのです。そこに「やりたい」「やりたくない」という感情が入り込む余地はありません。
やりたいことがあって、希望通りの進路に進んだとしても、期待値が高すぎると失望することがあります。最先端の研究に憧れていたが、やっていることは地味なことばかり、ということはよくあることです。どんなことも好きなことばかりではありません。嫌なことにも目を向けて考えてみるべきです。また、若いうちから「好きなこと」「やりたいこと」ばかりやっていると自分の可能性を狭めることになりかねません。

土木は「今を支える工学」「未来を守る工学」

高校生で本当の土木を知っている人は少ないので、社会環境工学科には「土木こそ自分に合った仕事だ」とか「土木をやりたい!」と強く思って入学する人は、それほど多くないと思います。しかし、社会環境工学科に入って学び始めてから、土木工学を嫌いになる人はまずいないと思います。なぜなら、学べば学ぶほど、やりがいを感じるからです。
私たちが研究する社会インフラとは、具体的には、道路、橋、トンネルから鉄道、空港、ダムなどの公共構造物、上下水道、発電所、廃棄物処分場などの施設、河川、港湾などの造成・整備等を指し、非常に多岐にわたります。これらの構造物は、私たち自身を、私たちの家族や子どもたちを支えているものです。そういう大切はものを作り支える技術を学ぶのですから、やりがいを感じないわけがありません。土木工学はいわば「今を支える工学」「未来を守る工学」と言えるでしょう。皆、やりがいを持って研究に取り組み、卒業後も誇り高く仕事に取り組んでいます。
私自身の学生時代もそうでしたし、今の学生たちもそうですが、皆、やりがいを求めています。ですから、やりがいは普遍的な欲求なのでしょう。そのやりがいを得られる学科こそ、社会環境工学科なのです。

高レベル放射性廃棄物地層処分の科学的特性マップを見ながら

土木工学の基礎があれば、決して食いっぱぐれない

社会を支えるインフラを構築するのは、当然ながら大変なことです。将来、長きに渡って国土を守る構造物を作らなければならないのですから、ミスはどの過程でも、どんな些細なものでも決して許されません。 そんな責任を担う人材を育てるために、早稲田では実験や実習に多くの時間を割いています。ニュートンもガリレオも実験でさまざまな発見をしてきたように、実験は科学の基本だからです。たとえわかりきったことでも、実験をして自分の目で確認します。自分で再現した経験がなければ、実際の構造物に活用するのに不安だからです。
また、私たちはただ構造物を作って、将来世代に受け渡せばいいというものでもありません。私たちが作る構造物は、50年、100年先まで残るものです。頻繁にとっかえひっかえできるわけではありません。特に、いま私は高レベル放射性廃棄物処分の地下施設建設の研究に関わっていますが、それは1万年単位で考えなければならない施設です。一般的な公共構造物も5年単位で保守・点検を続けなければなりません。ですから、その責任を担う人材を育成し、スペシャリストを供給し続けなければならないのです。
最近は、広範な知識を持つゼネラリストがもてはやされ、高い専門性は融通が利かないという見方がありますが、それは誤解です。むしろ、基礎がしっかりしているからこそ、世の中の要求に応じて、研究や技術開発の対象を変えられます。言い方は悪いですが、土木を学んでいて、食いっぱぐれることはありません。
早稲田の学生を見ていてすごいなと感じるのは、基礎を身につけると、自分で考えて、いろいろな分野にどんどん進出していくところです。早稲田の「進取の精神」を活かし、各分野で活躍するためにも、社会環境工学科で自分がよって立つ地盤となる基礎を固めてほしいと思います。