組織の本質的な問題を突き止め
改善する力を養うことができる

経営システム工学科 教授
棟近 雅彦Munechika Masahiko
専攻分野 社会・安全システム科学、社会システム工学・品質マネジメント
2019年度インタビュー

経営システム工学科は、創造理工学部の学科の中でも比較的出口に近い学科だと思っています。出口とはすなわち実際に使われるということで、大隈重信の標榜した実学を体現していると言えるかもしれません。
もともとは工業経営学科という名称でしたが、サービス業、農業、医療など業種を問わずさまざまな領域で研究を重ねてきた学科です。その領域の広さを保ちながら、実社会に非常に近いところで多種多様な応用研究を行っています。

現代社会の課題を
優れたシステムによって解決に導く

例えば、工場における生産システムでは、モノを生産する上で、不良品をできるだけ少なくし、キチンと納期を守ることが課題です。また、製造業では、職人が長年の経験によって会得した技を可視化し、いかに後世へ継承していくかという課題があります。さらに、近年非常にニーズが増している物流業界においては、物量が増え、マンパワーが限られている中でユーザーのニーズに応えるため、モノをしっかり届け、受け取ってもらうにはどのようにすればよいかといった課題があります。これらの課題を企業とも共働しながら、学科・研究室として人々の生活向上に貢献してきた実績があるのが当学科です。
改めて各領域の構造に目を向けてみると、当たり前のように備わっている生活インフラや企業の提供するサービスは、優れた経営システムの上で成り立っているという事に気が付くはずです。計14の研究室ではそれぞれの得意分野を活かしながら外部組織と連携し、効率的な組織運営に協力しています。

固有技術に縛られず
広い領域をテーマに研究することが可能

先ほどのお話の中で「医療」という言葉を出しましたが、私の研究室で扱う研究領域の半分は医療に関するものです。経営システム工学と医療という言葉にピンと来ない方が多いかもしれませんが、まさに医療の現場は先進の経営システムが必要とされている場でもあるのです。
例えば医療事故を減らさなければいけないというのは、病院を経営する上での課題であり、院内の組織改革を行い、しっかりとしたマネジメントを行うことで改善できるものです。が、かつてはその考えを受け入れてもらうのが大変な状況でした。それもそのはず、医療の道で長年患者と向き合い続け、厚労省/文科省管轄で運営されてきた病院は、経営からは遠い場所に存在していたのです。私たちは医療従事者と20年以上前から関わり続けています。当時は「PCDAサイクルって何?」と言われることもあったほどです。
医療の領域で私たちが実際にどのような提案をしているかという話をしましょう。中心にあるのは産業界で成功したシステム例を病院で応用していくということです。設備投資がしやすい製造業などと比べ、機材を入れずにヒューマンエラーを減らさなければいけないという課題を持った医療の現場では、問題の構造を明確にし、可視化したうえで実現可能な対策を練っていくことが重要です。
課題を解決したり、ニーズを満たす新事業・新商品を生み出していこうというある意味「正」の側面と、医療事故を減らしていこう、不良品を少なくしていこうという「負」の側面の改善、この両面から社会を捉え、研究しながら何らかの形で社会に貢献できるのが、経営システム工学科であると言えるでしょう。

経営システム工学科というのはある意味で「根無し草」な部分があります。固有技術を持たずに、最初から応用に切り込んでいく姿勢を指してのことですが、これにはいい面も悪い面もあります。学生は経営という広い領域の中でテーマを選択することができますが、それだけに目的意識を持って取り組んでいかなければ、問題解決には結びつきません。研究を重ねる中で身につくのは、本質的な問題を見抜く力。改善すべき現状を前に、その構造を洗い出し最終的なゴールに導いていくことができる力は、社会に出てから自分にとって大きな武器となることでしょう。私たちの実生活・社会により近いところで、学びたい、研究したいという熱意ある学生の登場を期待しています。