廃棄物は「人工資源」という見地から
環境調和と資源循環を成し遂げる

環境資源工学科 教授
大和田 秀二Owada Shuji
専門分野 リサイクル工学、資源分離工学
2018年度インタビュー

環境資源工学科は、資源の開発からその利用・循環・廃棄、および,それらの活動によって起こる環境問題まで幅広く教育・研究活動を展開しています。地球を一つの有限なシステムとして理解し、すべての資源を無駄なく循環させる「自然環境と調和した持続可能な地球資源システムの創造」をスローガンに掲げて、そのために必要な知識を、「地球・資源系」「素材・循環系」「人間・環境系」の視点から系統的に学ぶことができるのが特徴です。このような広いレンジで環境と資源の両分野を学べるのは世界的にも環境資源工学科くらいのものでしょう。
大和田研究室は素材・循環系に属し、資源循環の適正化に関して、成分分離の高度化という技術的アプローチを行っています。分離技術は大きく物理選別と化学・高温分離の2種類があり、これらを適正に組み合わせることが肝要です。特に物理選別は、環境負荷の少ない優れた技術ですが、理論的背景が薄弱で未解決の問題も多く、それを解決するのが本研究室でのメインテーマとなっています。また、成分分離を行うための前処理として、構成成分の単体分離を目的とする破砕・粉砕の段階も重要であり、この段階も本研究室での主たる研究対象です。
都市鉱山という言葉をご存知でしょうか?これはゴミとして捨てられる家電製品や情報・通信機器等の廃棄物の内部にある、鉄やアルミ、レアメタルなどの資源を鉱山に例えたものです。私たちはさらに踏み込んで、廃棄物のことをもう一つの資源という意味を込めて「人工資源」と呼んでいます。限りある資源を最大限活用する観点から、廃棄物中の最終処分量を減らしながら人工資源としてより多く再利用することが求められているのです。
具体例として廃棄物の処理プロセスを説明しましょう。回収された使用済み製品は処理場で解体され、リユースできる部品とできない部品に分けられます。リユースできない部品については、処理しやすい状態に粉砕します。粉砕された固体の中からリサイクル可能なものを取り出し、リサイクルできないものは取り除きます。これを選別と呼びますが、選別された産物は有価物を濃縮したもので、最終的にはそれを化学的に熱で熔かしたり、溶媒で溶かしたりすることで高純度の素材を製造します。この段階を精製と呼び、処理の最終段階となります。ところが、現在の技術では粉砕と選別(すなわち濃縮)のプロセスの精度が低く、濃縮物に不純物が混入していたり,有価物の回収率が低いなどの問題点があります。そこで、より効率的な粉砕・選別技術が求められているのです。

先端技術をフル活用して
さらなる人工資源を活用する

私たちの研究の中でも最先端とされる事例をご紹介します。粉砕・選別における新たな技術の枠組み、それが「スマート・コミニュション」と「スマート・ソーティング」です。先端技術を使って、より精密な粉砕・選別を可能にする新技術です。その概要を説明します。

1)スマート・コミニュション
現在、解体された人工資源は大型クラッシャで粉砕されます。丁寧に破壊すれば再利用の見込みがある部品も、無差別に破壊しているために有効利用できず、またそのプロセスのエネルギー効率が低いという問題もあります。
もし欲しい部品だけを狙い撃ちするように取り出せたなら、それらのリユースや素材の再利用率は格段に向上します。例えば、パソコンはキーボード、モニター、基板などさまざまな素材で構成されていますが、各パーツの境界面だけを壊すと、組み立て前のように各パーツを分離することができ、そのまま再利用することができます。複数の素材で構成される個体からそれぞれの素材のみで構成される個体にすることを単体分離と言いますが、最新技術をフル活用した精緻なこの単体分離プロセスをスマート・コミニュションといいます。
単体分離技術では、高電圧パルスが注目されています。この技術では、水中に置かれた固体に瞬時に一定以上の電圧をかけます。すると大きな電流が固体に流れるのですが、そのとき発生するエネルギーは、温度に換算すると実に数万℃となります。それも数十ナノ秒という一瞬の間に起こります。素材と素材の境目つまり「異相境界面」は電気に弱い部分なので、電流がその部分に流れ込み異相境界面のみが破壊(マイクロ爆発)されて単体分離します。この技術は未来の話ではなく、実は海外ではすでに実用化されています。ヨーロッパでは特に研究が進んでいて、高電圧パルス技術を実装されたリサイクルプラントもあります。日本でもこのような最新技術を備えた処理場が近い将来出てくるでしょう。

2)スマート・ソーティング
単体分離したら、次はそれらを選別をする必要があります。従来では多くの手間をかけて目的の素材を取り出していました。例えば、水の浮力を利用して、軽い物質と思い物質を分けたり、磁石で鉄を吸い寄せてそれ以外のものと分けたり、電場を掛けることで導電率の高いアルミや銅などを他の金属から区別したりします。しかし近年では、ベルトコンベアに流れてくる固体にX線や特殊なレーザーを照射して硬度や密度を自動検知し、不要(あるいは必要)な固体を圧縮空気で分離します。毎秒3メートルほどの速さで移動する固体粒子もミスなく選別できる精密さです。このように、最新技術を導入した正確無比な選別をスマート・ソーティングと呼びます。
「LIBSソータ」※は、我々が2015年に開発したスマート・ソーティング技術の一つです。日本語ではレーザー誘起ブレークダウン分光法といって、選別したい対象物にレーザーを当て、瞬時に高温にすることによりその表面物質をプラズマ化させます。このプラズマを分析することにより、水素からウランまで広範囲の元素を定量的に分析することができます。分析速度も非常に高速です。
我々が目指しているのは、解体・粉砕・選別のプロセスを可能な限り合理化して多くの人工資源を再利用し、より精製にかかる負担を減らしていくことなのです。

※Laser-Induced Breakdown Spectroscopyの略。対象にレーザーを当てることで対象物の一部をプラズマ化させ、元素組成の分析を行う手法。

環境資源工学科の研究は
社会実験でもある

学生には、「なぜ」と「だから」を重視するように常々言っています。実験によって興味深い結果が得られても、「なぜ」そうなったか、「だから」何が言えるのかを答えられないと、それは実学とはいえません。学生は研究に没頭するあまり、時に進むべき道を見失いそうになることがあります。私たち創造理工学部の目指すところは、社会に役立つ研究成果を出すこと。発見にこだわるあまり、独りよがりな研究になりそうな時は、実学の原点に立ち帰るようアドバイスしています。
環境資源工学科の教育・研究活動は、いわば「社会実験」です。公共性が高い研究内容ですから、間違ったことをすれば社会に大きな影響を与えます。高い学術性と責任感をあわせ持つ研究者になってくれるよう、これからも導いていくのが私の使命だと思っています。