単一の要素技術の活用ではなく、
技術を使う人間を含めたシステムづくり

経営システム工学科 教授
高橋 真吾Takahashi Shingo
専攻分野 社会シミュレーション、システム方法論、ソフトシステムアプローチ
2017年度インタビュー

マネジメントできるエンジニアと
ニーズに合ったシステムのクリエイター

経営システム工学科の使命のひとつは、「マネジメントができるエンジニアの育成」です。本学科では、ほかの工学系のように、要素技術を開発・活用して現場のニーズに応えるのではなく、技術とそれを使う人間とのインタラクションを考え、技術と人間・社会を含めたシステム全体をマネジメントすることを考えます。創造理工学部では各学科がフィールドを持っていますが,経営システム工学科はマネジメントをフィールドとして、工学的知識を活用したマネジメントができる人材を育成します。

最近はIoT(Internet of Things)に代表されるように、個別の製品までもがインターネットでつながりつつあります。しかし、IoTあるいは最近注目されているAIはあくまでも要素技術であり、ほかのシステムと連動してこそ価値を発揮します。自動車やGPSはそれらを包含する交通システム全体と連動してはじめて、自動交通システムが成立するようなものです。そのため、システム同士が連動した新しいシステムの構築が求められています。情報技術だけでもなく、特定の要素技術だけでもない。様々なシステムの知識があって、さらに全体のシステムづくりができる人材――こうした人材を求めて、今、各業界から本学科出身の学生への期待が高まっています。

システムアプローチの対象は
ハードからソフトへと広がる

本学科が工業経営から、社会技術システム全般へと対象を広げているように、近年、私自身の研究分野も広がっています。かつては精緻な数理モデルを用いた問題解決を目指していましたが、複雑な現実の変化に適応できるシステムの研究方法を求めて、社会シミュレーションの研究*に取り組み始めました。その後、対話やワークショップを成功させる方法論なども研究対象にしています。たとえば、科学技術を一般にどうわかりやすく説明するかという科学技術コミュニケーションや、住民参加が求められるまちづくりです。こうしたフィールドで、どのように対話を進めていくかを設計する部分で関わっています。

対話のように多様な関心を持つ人々からなるソフトシステムへと関心が広がっていったのは、方法論のない分野で方法論を構築したいという思いからです。特に日本では、話し合いやコミュニケーションの方法論は普及していません。ワークショップを開催しても,それを次に活かすために、対話を振り返り、問題点などを整理することもあまりなく、しばらく経って、また同じことを繰り返すようなことがよくあります。そんな話し合いを成功させる効果的なシステム方法論が構築できれば、様々な場面で活かされるはずです。

最近では、教育系の研究者とも協力し、アクティブラーニングの学習モデルについて考えています。アクティブラーニングとは、知識を増やしたり与えられた目標を達成するための学習ではなく、状況に応じて自ら目的を設定し、さらにそれを達成する能力を養うための方法論です。システム研究者として、教育の方法論の構築に少しでも寄与できればと思っています。


*高橋先生の社会シミュレーション研究については「創造人Vol.14」をご覧ください。

「何の役に立つのか」と考えるより
「いかに使うか」「どう結びつけるか」

アクティブラーニングが進んでいるのはアメリカだと思われていますが、教育学部の先生から面白い話を聞きました。アクティブラーニングを提唱するにあたり、日本の理工系の研究室が参考にされたというのです。日本の理工系研究室では、学生たちが研究室にやってきて、研究室という状況の中で,教授とともに課題を見つけ、それを研究室のメンバーが協力しながら解決しようとしていきます。これはまさしくアクティブラーニングです。この形式はユニークで、欧米は個人主義で、ひとりで研究を進めます。文系にもこのような研究室は存在しません。ですから、最先端のアクティブラーニングが日本の理工系研究室では体験できるのです。

経営システム工学科は、学科選びの際、文系学科と迷うことが少なくないようですが、この事実を参考の一つにしていただければと思います。
もちろん、アクティブラーニングだけでよいのではありません。学生の皆さんは一見、目的とは関係なさそうな知識を「これはいったい何に役に立つのか?」「今やっていることにどんな意味があるのか」と考え、ないがしろにしがちなのです。ともすれば、目の前の課題を「私のやりたいこととは関係ない」と短絡的に断定し、独善的に放棄しかねません。しかし、どんな知識でも、関連し合っているものです。無関係のものなどありません。もし、眼前の知識が自分とは必要ないと感じるなら、それは自分とその知識を関連付けることができない未熟さの証左だと言えるでしょう。特に科学技術の場合、基礎から知識を固めていかなければならない部分が多いので、知らないことも貪欲に学ぶべきだし、わからないことは教えてもらうべきです。

それでも「自分には関係ない」「興味がない」と思ったら、「クリエイティビティとは、関係ない事柄を結びつける能力である」ことを思い出すと良いでしょう。知らないことを貪欲に吸収し、引き出しの中身を豊富にしておけば、将来それを活かしてより創造的なことを成し遂げる可能性が高まります。関係なさそうな知識も、自分の興味と結びつけ、新しく活用することを常に心がけてすべての授業や演習に取り組んでください。