未利用鉱物資源の探索と
新しい素材化で社会への貢献を

環境資源工学科 教授
山崎 淳司Yamazaki Atsushi
専攻分野 応用鉱物学 素材物質科学
2013年度インタビュー

研究の合言葉は「自然は手本である。鉱物は見本である」

私が研究していて度々思うのは「自然は手本である。鉱物は見本である。」ということです。 自然が作る仕組みは素晴らしく精緻で、私たちはまだまだその理解も再現すら遠く追いついておらず、 本当に理解し、超える技術をつくることなど可能だろうか?と、研究を進めれば進めるほど感じます。 鉱物の性質をうまく利用している技術の一つとして、普段使っている時計のクリスタル(水晶振動子)があります。 地球の表層(地殻)中に最も大量に存在する鉱物である石英(「水晶」は石英の大きい結晶の俗称)ですが、 単結晶をある方位にカットした薄い板に電気を流すと、広い温度範囲で約5kHzの安定した発振をするので、 これをタイマーに使います。時計の中に、小さい音叉板様の形をした人工石英の単結晶が入ったものが登場して、 それまでの歯車式時計の10倍以上の精度になりました。さらに石英は、ナノグラムオーダーの重量変化を定量的に検出する素子や、 光ファイバーなどの光学材料の他、様々な分野に応用されています。自然界に普遍的にある鉱物なのに、 我々が見逃している物性や利用技術の可能性は、まだまだたくさんあります。

自然を手本にした研究成果

未利用の鉱物資源を見つけ出し、廃棄物を新しい原料にして素材化し、最終廃棄物をいかに処分するかで、 循環型社会にどう貢献できるかを考えるのが私の仕事です。その際、ただ素材化するだけではなく、 新しい機能性をもたせようと考えています。現在扱っている主な研究テーマを紹介します。

①ポルトランダイトセメントに代わる環境調和型セメントをつくる

現在、原子力発電所が止まっていることもあって、これまで以上に石炭火力発電所が稼働し、年間1000万トンを超える大量の石炭灰が排出しています。その石炭灰のほとんどはポルトランダイトセメントに混合材として用いられていますが、これを主材として次世代セメントを作る研究をしています。これがジオポリマーと呼ばれているものです。ポルトランダイトセメントの主原料は、 石灰石を焼成して作りますが、その際に大量の炭酸ガスを発生します。石炭灰は廃棄物なので、原料調製に炭酸ガスは発生しません。ジオポリマーコンクリートは、最も強度が高いポルトランダイト・コンクリートと同程度の強度が出ます。また、ポルトランダイトセメントは主成分がカルシウムなので塩害を受けたり、酸性雨で溶けてしまいますが、ジオポリマーは溶けません。すでに、日本国内でもいくつかの建材メーカーがサイディング材(外壁材)などに用いています。 ジオポリマーは、鉄道で使われているコンクリート「まくらぎ」に代わる材料としても研究されています。普通のコンクリートですと、凍結融解といって、コンクリートの中の気孔で氷ができたり溶けたりを繰り返すためにヒビが入ります。ジオポリマーコンクリートの「まくらぎ」は凍結融解を起こしにくいと言われていますし、軽量骨材が使いやすいので重量を比較的軽くでき、橋梁や高架線への利用が考えられます。

②環境調整型の建材をつくる

建材にバーミキュライトという雲母の様な鉱物を使って、環境調整する建材を産学共同研究で作りました。 バーミキュライトは湿度が高い時には水を吸い、湿度が低くなると水を吐き出す性質を持っています。 エアコンを使わなくても、室内の湿度を常に50%くらいにすることができます。湿度が70%を超えるカビが生えやすくなり、 逆に湿度を下げすぎてしまうとインフルエンザや病原菌が繁殖しやすくなると言われています。現在の高密度・高断熱が進んだ家でも湿度をコントロールできるバーミキュライト建材は、住む人に優しい建材といえます。また、湿度を調節する際に、ホルムアルデビドなどのVOCガスを分解する性質を持っていて、シックハウス対策への効果も実証されています。さらに、バーミキュライトを混合することで、可塑性がでますので3次元の曲面が出来たり、釘やねじが強く保持されます。 バーミキュライトは、私自身が商社と一緒に南アフリカまで鉱山視察に行きました。 ヨハネスブルグからプロペラ機で1時間半ほど飛んで、ジンバブエに近い町まで行き、現地の鉱山技術者と地質や鉱量、精製工場の管理などについて議論し、交渉に立ち会いました。現地の、象やインパラが走っており、たまにライオンの夫婦が居たりするだだっ広い露天掘りの中を、ライフルを積んだジープに乗って走りまわり、露頭でハンマーを振るうと驚いたカメレオンが手の上に乗ってきました(笑)。

③空から水を回収する

世界は今、水不足の状態です。少なくとも30か国以上で絶対的な水不足の深刻な状態であり、 地下や地上から水が得られたとしても安全性に問題があるところが多い状況です。海水を逆浸透膜で淡水化する技術もありますが、コスト面で非常に高くつきます。そこで、空気中の水を効率的に集めようという技術が注目されています。 除湿機の中にはデシカントローターといって、空気中の水を吸ってタンクにためる方式のものがありますが、このローターに使用されているのがゼオライトです。入っているゼオライトの重量あたり40%ぐらいの水が吸えます。同じような性質をもった多孔質材料を研究していますが、工夫すれば性能が数倍になり、家庭用除湿機の大きさで1日でポリタンク一個分の水を溜めることができるます。 元々は軍隊が砂漠の真ん中で一個師団分の水を得るのに開発された技術です。 この技術を応用すれば、日本でも高地、山の上や乾燥地帯、穴を掘っても海水しか出てこない離島などで淡水を作ることができます。また、地震などでライフラインが途絶えた非常時に、飲料水はタンク車が持ってきてくれるかもしれませんが、トイレに使う生活用水などの用水を確保するのは困難になります。この装置をたとえばマンションの屋上などに設置し、自立的な発電(太陽電池など)で動かせれば、非常事態に備えることができます。

④再生医療に使える硬質材料をつくる

再生医療において作られている人工骨や人工の歯根(インプラント)などは、チタン合金の上にアパタイトを被覆しています。アパタイトは骨や歯の主要構成物質ですから、生体組織とはよくなじみます。しかし、現状では背板組織と十分に接着するまでに時間がかかります。例えばインプラントの場合は十分に接着するのに3カ月位かかりますが、3カ月の間飲まず食わずというのは無理なので、場合によっては雑菌が入って歯槽膿漏になって抜けてしまうことがあります。そこで、インプラント表面のアパタイトに細胞活性因子を複合し、できる限り短期間で人工歯根と歯槽骨の接着強度を上げる研究を、国立の研究機関や歯学系大学と共同でしています。
また、ノーベル賞を取ったIPS細胞の研究がありますが、通常、幹細胞を目的の組織に誘導するのには、ウイルスを使ったDNA導入を使います。ウイルスを使うと効率は良いのですが、やはりウイルスの性質上、リスクが高くなります。そこで、アパタイトの足場材料を使ったDNAの導入方法の研究を、国立の研究機関と共同で行っています。アパタイトの板に複数のDNAをパターン的に埋め込み、この部分が心臓、この部分が血管などと誘導する基板(足場材料)を研究しています。効率はウイルスより低くなりますが、安全に行なうことができます。

動物は鉱物と寄り添って進化してきた

生物なら何でも、何らかの鉱物と同じ物質を組織に持っています。貝殻は主に石灰石でできていますし、イネ科の植物はシリカを大量に含んでいます。また、動物はアパタイトを骨や歯などの硬組織に使っています。逆にいうと細胞がアパタイトを硬組織に選んだのです。動物が硬組織をもたなければ、人間も含めて全てクラゲ状態で、自由に動き回ることはできません。また骨と筋肉などの組織は接着剤でくっついているのではなく、ジクゾーパズルがはめ込まれているようになってお互いに接着しています。細胞とアパタイトの組み合わせがなかったら動物は誕生しなかったのです。
また、魚は耳石(じせき)という石をもっています。人間の三半規管の中には繊維状のものが多数立っていて、その上に小さな丸い石が乗っかっており、傾きとか平行を検出するのが、この耳石です。このように、動物は身体の中に鉱物を持っています。進化の過程で動物と鉱物は寄り添ってきたのです。
中には、胆石や尿道結石のように体の中で病的にできる石もありますし、鉱物の中にはアスベストのように、人間にとって害になるものもあります。人間が社会生活をしていく上で害になるものは排除しなければならず、安心安全な環境を作らなければならないのは前提ですので、そういうシステムを目指さなければなりません。
しかし、鉱物はすべて地球が自然に作り出したものであり、その場合に人間の思い上がりで鉱物を差別し、地球環境に負荷をかけてはなりません。地球にとっての環境と、人間にとっての環境は別であり、地球と共生していくために、そのバランスは見極めなければならないと思います。