人体の代謝量から
快適性を予測する

建築学専攻 修士1年
久山 遼 Hisayama Ryo
田辺新一研究室
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q 研究の概要を教えてください。

人間の代謝量が人体の「快適性」と「体温調節機能」に与える影響について研究しています。代謝量とは、体内で発生する熱の量のことです。代謝量が体外に放出される熱の量と等しくなるとき、この状態を「快適」といいます。
その均衡が崩れると、──つまり快適でなくなると──体温を一定にしようと体温調節機能が働きます。たとえば体外に放出される熱の量と比べて代謝量が大きければ汗をかき、小さければぶるっと震えが来るのです。
特に詳細に快適性を評価する場合は、人体を何層かの円筒状に図化したモデルを使用します。人体は一番外側に皮膚があり、その奥に脂肪や筋肉など、いくつかの層に分かれていますが、この人体に性別、身長、体重、衣服などのデータを入力し、身体の内と外の熱量の差をシミュレーションすることで、快適か否かを予測することができます。
さらに室温や湿気などのデータを追加すると、室内における快適性の予測ができるようになります。これは、快適な家や建造物の設計に役立つはずです。
他にも、過酷な環境のシミュレーションにもこのモデルは役立ちます。代謝によって熱が生まれると、内臓や骨の温度に当たる「深部温」が高まります。この温度が一定レベルを超えると熱中症になるわけですが、当然、このような環境で実験することはできません。特に最近の日本は夏の気温が高くなっているため、熱中症に関する研究は今後役に立つと考えています。

代謝量測定実験

研究のモチベーションは
終わりなきトライアンドエラー

Q 研究のやりがいは。

トライアンドエラーしながら改善していくことですね。予測と実験結果を比較し、異なっていれば、そうなった理由を考察して別の方法を試す。その繰り返しなので終わりがありませんが、予測が正しければ嬉しいし、間違っていればそれが新たな研究材料になるので取り組みがいがあります。
大変なのは、幅広い知識が必要なところです。人体の仕組み、モデル計算のロジック、過去の研究事例、それらを理解していないとモデルを正しく扱うことはできません。これまでは代謝量の測定実験が中心で、モデルを活用することが研究でしたが、これからは人体の「モデル自体」の開発と改良に取り組むことになるので、プログラミングの知識も必要になってきます。
知見を広げる上で、別の研究班に所属することが役立っています。田辺研究室では修士課程に進むと、複数の研究班に所属するメンバーが多いのです。これは違う分野の研究を進めることでの相乗効果をねらってのもの。
私は人体の研究班で快適性について研究をしているほかに、在宅勤務について研究する班に所属しています。在宅勤務の班では生産性の向上をテーマとしており、その中で「快適性」についても研究しています。在宅勤務は新型コロナウイルスの感染拡大により、導入する企業が増えてきました。これまでは、働く場所といえばオフィスでしたが、これからは住宅における生産性が問題になります。
オフィスでは空調が一元管理されているので、同じ室温でも暑く感じる人も寒く感じる人もいます。在宅勤務だと空調を操作できますが、家族が急に部屋に入ってきたり、同僚と対面でコミュニケーションできないなどの影響が出ています。研究班では、在宅勤務者へのアンケート調査とその分析を通じて、自宅で快適に働くために必要な環境を明らかにしていきたいと考えています。

学びを深めるうちに
本当に好きなものが見えてくる

Q 建築学科を選んだ理由は。

子供の頃から建物に興味がありました。家の間取りを想像するだけでは飽き足らず、実際に紙に書いてみるところまでやっていました。また、パズルも好きで、何かを想像したり、作ったりするのが好きだったので、建築学科に進んだのは自然な流れでした。
好きな建築物は京都駅で、コンコースと呼ばれる開放的な広場や、三角形を基調とした屋根のトラス部分の美しさが気に入っていました。
建築学科で実際に授業を受ける中で、徐々に興味が構造や環境の分野に移りました。高校で言う理数系科目が得意だったので、数値計算やシミュレーションで強みを活かせるのではないかと感じたのも、この分野に進んだ要因です。
決め手は3年生で受けた空調の授業。講師は企業で何十年も設備設計に携わってきたベテランの方で、実際の経験を踏まえながら建物の仕組みを理論的に説明してくださいました。それを聞いて、同じような仕事をしてみたいと思ったのです。
建築学科というとデザインが頭に浮かぶと思いますが、早稲田の建築学科はデザイン以外にも構造や環境など幅広く学べるので、やりたいことが定まってくるはずです。建築に興味がある人なら誰でも、ぜひ目指してほしいですね。