エタノールの燃料活用で
自動車のカーボンニュートラルに貢献する

総合機械工学専攻 修士2年
磯部 昂平 Isobe Kohei
草鹿研究室
2022年度インタビュー

エタノール活用で脱炭素化・高効率化を実現

Q 現在取り組んでいる研究の内容について教えてください。

乗用車のガソリンエンジンを主な対象として、燃料の脱炭素化と高効率化に向けたエタノールの活用について研究しています。

近年、環境問題への関心が高まっており、日本でも2050年までにカーボンニュートラル実現を目指し、官民がさまざまな施策に取り組んでいます。そうしたなか、自動車は温室効果ガスを多く排出するため、その対応が喫緊の課題です。最近では、ハイブリッド車の普及も注目されていますが、日本の電源構成は化石燃料による火力発電が約70%(2021年)を占め、発電時に温室効果ガスが排出されるため、自動車の電動化が必ずしも課題解決にならないのが現状です。

そこで、従来のガソリンにエタノールを配合することで、燃料の脱炭素化とエンジンの高効率化を実現できないか、という研究に取り組みました。効率性を高めるには、エンジンの圧縮比を高くする必要があります。ガソリンの場合、高圧縮比化すると異常燃焼が生じてしまいます。ですが、エタノールを加えることで、異常燃焼を抑制できるのです。

コンピュータでモデルを生成しメカニズムを解明

実験では、エタノールを配合した燃料でエンジンを駆動させるとどうなるのか、検証しました。さらに、取得した実験結果を基に数値計算を行い、そのメカニズムを解明しました。エンジンのモデルをコンピュータ上で起こし、ピストンの上下運動を再現します。すると、シリンダー内で混合気が圧縮され、火花が飛ぶ前に燃料の分解が進行することがわかりました。これが異常燃焼にもつながるガソリンの特徴です。

一方で、燃料の分解がプラスに働くこともあります。分解が進むと、シリンダー内の温度が上昇するので、燃焼速度が速くなることが分かりました。このように、燃料の特性を把握することは、今後のエンジン開発において非常に大切です。

Q エタノールを活用できれば、環境負荷を軽減する新たな取り組みとなるのでしょうか。

そうなると思います。実際、海外ではエタノールを85%配合した燃料を活用している事例があります。日本の場合は、自動車の製品規格が異なっており、エタノールを加えることで燃料ラインが腐食してしまう恐れがあることから、20%までしか対応できていません。

また、エタノールの生成で温室効果ガスが排出されないよう、バイオ由来のエタノールを生成する必要があります。日本の場合はこうしたエタノールを輸入することになるので、それに向けたインフラの整備も求められます。

ですが、こうした課題を解決できれば、自動車の電動化よりもエタノールを配合した燃料のほうが効率もよく、環境負荷を抑制できるのではと考えています。しかし、今後の流れが読めない今、一つの策に捉われるのではなく柔軟に対応することが重要になります。

活発な意見交換で議論し合いながら互いに探求

Q 所属している草鹿研究室はどんな雰囲気ですか。

扱っているテーマが、内燃機関の他に、電動化や排気ガス対策というように、親しいところもあるため、他の班の研究を聞きながら、お互いに意見交換しています。にぎやかななかでみんなで議論し合いながら、それぞれの研究を進めている感じです。

研究は1つのテーマに対して、学部生とマスター生がペアを組んで取り組みます。学部生のうちは実験の内容を成果として発表し、マスターではそれを踏まえてメカニズムを解明したり、モデルを構築したりしています。実験も多いので協力しながら、週3日ほどは学校に来て実験に取り組み、残りは解析するというようなルーティンで過ごしていました。

マスターになると、研究のほかに先生の授業補助や就職活動が入ってくるので、スケジュールの段取りが重要になります。そうしたなか、一杯いっぱいになってしまったときにも、草鹿先生は、研究の方針を改めて示してくれたり、他の講師陣につないでサポートしてくれたり、とフォローしてもらいました。就職が決まったときにもお祝いしてくれるなど、終始愛情深く接していただいたという印象です。

草鹿研究室に入ったのも、先生の授業がわかりやすく面白かったから、というのが大きな理由になっています。ある授業は、芝刈り機用のエンジンを2日かけて分解し組み立てる、という内容でした。古いエンジンのため、組み立てが甘いと簡単に始動しません。3,4人の学生が1チームになって、試行錯誤しながら取り組みました。熱力学と流体力学はいまでも使う領域で難しい内容が多いのですが、先生の授業のおかげで理解が深まりました。

Q 卒業後の進路について教えてください。

卒業後は、電力会社への就職が決まっています。多くの人の役に立つ社会的意義の深い、大きな仕事に携わりたいと思います。この仕事を自分がやったんだと、自信を持って話せるような、そんな仕事に取り組みたいです。