まだ実用化されていない
新エンジンの開発に携わる

総合機械工学専攻 修士2年
松高 真知Matsutaka Machi
草鹿研究室
2015年度インタビュー

Q 研究の内容から教えて下さい。

草鹿仁先生の研究室で、まだ実用化されていない新しい燃焼方式のエンジンを自動車メーカーと共同開発しています。HCCI燃焼 (Homogeneous-Charge Compression Ignition combustion)方式、もしくは予混合圧縮着火方式というエンジンです。

今ある代表的なエンジンは、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンですが、前者は、排気はきれいですが燃費が悪く、後者は、燃費は良いが排気が汚く、それぞれ一長一短あります。HCCI燃焼方式エンジンは、両問題の同時解決を期待されています。

Q 具体的にはどのような仕組みなのでしょうか。

エンジンは基本的に燃料と空気を混ぜて燃焼させて動かします。 ガソリンエンジンは、ガソリンと空気とをあらかじめ混ぜた「混合気」をスパークプラグで点火させます。しかし、スパークプラグを使用すると、火はプラグを中心に球面状に伝播していくので、全部を燃焼させるには時間がかかります。この燃焼の遅さが燃費の悪さの原因となります。

一方、ディーゼルエンジンは点火プラグを使いません。ピストンで空気を圧縮して、高温にしたところに、燃料である軽油を噴射して、自然発火させます。軽油はガソリンと比較して化学反応速度が速く着火しやすいため、このような方式が可能になるのです。しかし、軽油をシリンダ内に噴射する際、燃料に濃淡のムラが出てしまい、濃い部分が煤(すす)になってしまうので、排気が汚くなることがあります。

HCCI燃焼方式は、ガソリンと空気の混合気を圧縮し、化学反応により自然発火させることで、燃費性能と環境性能の両立を可能にします。しかし、もともとガソリンは自然発火しにくいので、いつ着火するのかを制御するのかが難しいのです。

Q 現在、この研究はどの段階まで来ているのですか。

数社がHCCIエンジンの研究に取り組んでいます。2020-30年に実用化するイメージです。私たちは昨年までに、燃焼を制御するために、物理学に基づいた数値モデルを用いて、燃焼を予測するモデルを作っていました。これが完成したので、現在は実機を制御するコントローラーを作成しているところです。コントローラーができれば、次は実機試験を行い安定したHCCI燃焼制御の実現を目指すことになります。

Q 研究の楽しいところ、大変なところは?

やはり実機試験ですね。実際に物に触れて、動きを見ることができるのは楽しいです。数式で考えてきた予測モデルが現象として確認できると、やってきた甲斐があったと感じます。

逆に、なかなかうまくいかず、試行錯誤を続けている時期は大変ですね。モデルとなる数式を考えている時もうまくいかず、文献をあさってまた数式を作ったものの、また上手くいかず、と試行錯誤が続きました。ある先輩は、実機に着火させることができず、一ヶ月間延々と実験していましたが、それも大変そうでした。

女子学生は少ないが、結束力がある

Q 総合機械工学科に入ろうと思ったきっかけは?

高校3年生の頃、総合機械工学科に進学した先輩が母校の先生たちに会いに来校したのですが、その時にせっかくだからと、現役高校生に研究内容を説明してくれました。その先輩の発表が面白かったのが直接的なきっかけです。

ただ、もともと手を動かすのが好きで、小学校の頃、木工教室に参加したりしていました。また、父がロードサービスの仕事をしていて、車を修理している姿がカッコいいと感じていたのも影響しているかもしれません。

Q 女子学生の人数が少ないと聞きましたが、大変なことはありませんか?

今、学科全体で1学年に160人の学生がいますが、そのうち女子は10人です。これでも増えた方で、本学科の前身である機械工学科時代は、330人中一桁の人数だったと聞いています。一つ下の学年は、14人もいるみたいなので、徐々に増えていくと勝手に思っています。

機械は男性と思われがちですが、本学科は自動車やロボットだけではなく、医療工学や画像工学など、女性の関心度が高い研究もありますから、女子学生の増加傾向も本当に続くと思いますよ。

女子学生が少なくて困ったことはありませんね。数が少ない分、結束力があって皆仲が良いですし、男子学生は女子学生を、よく助けてくれますから。

基幹理工「機械科学・航空学科」と迷ったら

Q 受験生にメッセージを。

早稲田で「機械」を学びたいと思っている方は、本学科と基幹理工学部の「機械科学・航空学科」とで迷うかもしれません。そんな時は、それぞれの学科の研究室の情報を見てみるといいと思います。学科の情報はどうしても抽象的になってしまいますが、研究室のホームページ等を見ると、具体的にどのような研究をしているかが分かるからです。是非、じっくりと比較検討した上で決めて下さい。

受験勉強については、一人で勉強していると、どうしても悶々としてしまうことがあるでしょう。そんな時は、塾や学校に顔を出して、友達と刺激し合うと良いと思います。大変だったら、愚痴を言い合ったりすればいいですし。皆で励まし合って、頑張って欲しいですね。