建築を使う側の身になることで
自分だけの設計が可能になる

建築学科 学部3年
王丸 舞子 Omaru Maiko
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q 海外に住んでいたそうですね。

中学1年生から高校1年生までルクセンブルクで過ごしました。ルクセンブルクはドイツとフランスの間に位置する小さな国で、ルクセンブルグ語、ドイツ語、フランス語、そして英語が公用語です。日本の中学校で英語を学び始めてすぐ出国し、当時は「Hello」と「Thank you」程度しか知らないような状態でした。現地のインターナショナルスクールに通って、なんとか英語をものにしました。
美術の授業で先生から「デザイナーになるべきだ」と言われたことがありました。言語の壁を超えて自分の作品が評価されたことに驚き、そのときから漠然とデザインを仕事にしようと思うようになりました。祖父が建築士であったことから建築にも興味があり、建築とデザインの両方を学べないかと考えていたところ、「意匠設計」という分野があることを知りました。
建築を学べる大学の中でも、早稲田大学の建築学科は日本で一、二を争う伝統校。長い歴史の中でノウハウが蓄積されています。ここでなら成長できるはずだと思って進学を決めました。

予想外の評価を受けるのが楽しい

Q 入学後の印象を教えてください。

早稲田を選んだのは正解だったと感じました。
学科の人数が多いので、人との関わり合いの中で新しいものを見つけられます。同級生は色んなことに興味を持っていて、たとえば「今度あの展覧会に行こう」「この音楽を聴いてみて」という風に、一緒にいるだけで建築以外の要素が自然に入ってきます。
また授業はとても刺激的で、デザインやものづくりが好きな人は間違いなく興味を持つと思います。私が特に好きなのは「設計演習」という授業です。これは建築設計に必要な発想力を鍛える授業です。「A」から「G」まであり、デッサンや模型制作といった美術的なものから始まり、徐々に本格的な建築表現に移っていきます。
印象に残っているのは設計演習Cの授業で、「どこでもドア」のドアノブを工作する課題。ドアノブを人と建築が「握手」する部材として捉え、各自が理想のドアノブ(ドアの一部まで含む)を考案するというものです。
私が真っ先に思い描いたのはルクセンブルクの風景でした。その頃の自分に会いに行けるとしたら、どんな作品になるだろうと想像しながら工作しました。出来上がったのは、草花が描かれた板に大小2本の絵筆を交差して貼り付けたオブジェ。交差した絵筆がドアノブを意味します。
授業の最後に先生から作品の講評を受けられるのですが、私の作品を見た先生は、交差した筆が「キリストの十字架に見える」とコメントされました。自分では思いもよらない視点だったので驚きました。
また設計演習Bのドローイングの課題では、「色使いが個性的だね」と評価されました。これも自分では気づきませんでした。課題は日常に潜んでいる「隠れた空間」を見つけ出し、それをしつこく観察して描ききるというもの。そのときに私が描いたのは、生卵を割り、フライパンに落とし、焼くという調理過程を、映画のカットのように切り取った絵でした。
これを着想したのは自宅で目玉焼きを作ったときです。生卵を手に取ったとき、硬い殻の中に柔らかい黄身が入っているイメージが、ふと私の中で「隠れた空間」に思えたのです。私は調理の過程を一つ一つ描写していきました。この課題をきっかけに「色」に興味を持ち、今は色彩検定の勉強をしています。
自分では思いも寄らない視点を得られるのが設計演習の魅力です。しかし現在は新型コロナウイルスの影響で、授業はすべて遠隔で実施されています。講評は写真データをもとに行われています。私は同級生が作った模型やデッサンを直接鑑賞するのが楽しみだったので、1日も早く教室で授業を受けたいです。

設計演習Bでのドローイング課題

広い視野を得られる環境が建築学科の魅力

Q これからの展望を。

学部を卒業した後は大学院への進学を考えています。そう思うようになったのは、授業を通じてものづくりに必要な視野の広さを知ると同時に、建築という分野の奥深さに気づくことができたからです。建築学科の刺激的な環境に身を置きながら、もう少し専門的に学びたいと思います。大学院を卒業した後は、海外経験があるので国内に絞らず海外で活躍する企業への就職も考えています。具体的にはまだ未定ですが、自分自身が納得できる進路を選びたいですね。