世界に通じる人材も出るし、
タモリ倶楽部にも出られるかも

建築学科 学部4年
諏佐 遙也Susa Haruya
中谷研究室
2015年度インタビュー

Q 早稲田の「建築」はひとつのブランドですが、その特徴を教えてください。

本学の建築学科で学ぶことができるのは、デザインだけではありません。建築物の耐久性や強度などを研究する「建築構造系」、材料の性質や品質確保を専門とする「建築生産系」、快適な住環境や環境負荷を考慮した設備等を研究する「建築環境設備系」、まちづくりや地域デザインなどの「都市計画系」、日本と世界における建築の歴史を学び、現在・未来に活かしていく「建築史系」があり、それぞれに専門の教員が複数在籍しています。早稲田の建築の魅力の一つとして言えるのは、各分野それぞれに強みがあることかな、と思います。

Q 諏佐さんはどの系列の研究を?

系列でいえば「建築史系」で、中谷礼仁先生の研究室に所属しています。中谷先生がよくおっしゃるのは、「歴史とは観測者がいることで初めて成立するもので、そこには前後を繋ぐための視点が不可欠だ」ということです。ですから、日常をいかにとらえるかが大切なのです。中谷先生は、主に中世――江戸時代から明治時代の建築物・建築史を研究していますが、その中でも、必ず現在とつながっているものを研究対象にしています。

早稲田から出た日本を代表する建築家

Q 中谷研究室で、諏佐さんが研究しているのはどのような分野なのでしょうか。

現在、研究しているのは、本学出身の建築家で、1950~70年代に活躍した吉阪隆正が残した図面や言説を調べています。フランスのコルビュジェの下でRC(鉄筋コンクリート)を使った建築を学び、日本に持ち込んだ吉阪は、これまでにない思想と自由な建築を広めました。そして、その活動をするなかで「不連続統一体」や「有形学」といった考えを残しました。
中谷研究室が対象としている時代は異なりますが、考え方が共通しているので、一緒に学ばせてもらっています。彼は建築が彫刻などとは異なり、バックグラウンドがあってこそ作品の形ができると考えました。たとえば、窓は光を取り入れる機能がありますが、生活にどのような光をもたらしたいかによって、カーテンにするか、障子にするかが変わってきます。つまり、建築の機能のみならず、生活のなかにおける建築の重要性を探り続けたのです。そして、アフリカやモンゴルなど、文明から離れた場所に赴き、原始の暮らしを体験するなどして、「家とは何か」「住むとはどういうことか」という根本的な問題と向き合いました。早稲田で教鞭を執っていましたが、年の半分は日本にいなかったという話もあります。

Q 吉阪隆正に興味を持ったきっかけは?

大学1年で学ぶ「設計製図」という授業です。ここでは、主に本学の卒業生の図面をトレースし、製図の基礎を学ぶのですが、その課題のなかに、吉阪隆正が設計した「ヴェニス・ビエンナーレ 日本館」がありました。その図面に衝撃を受けたのです。彼は建築物の構造のみならず、その周辺にある小石や草木、木々までを、年輪がわかるほど精密に描いていました。建物以外のものも建築に含まれるということを学び、とても印象に残りました。

Q 「設計製図」以外に印象的な授業はありましたか。

中谷先生が担当している「設計演習A」が楽しかったですね。授業のなかの「役に立たない機械」は、ご存じの方もいるかもしれませんが、タモリ倶楽部で何回か放送されています。こんな一見おかしな授業を真面目にやっているところも、早稲田の魅力のひとつかもしれません。

Q 将来の進路は決まっていますか?

大学院には進まず、就職を志望しているのですが、建築模型の制作を主とした仕事をしたいと思っています。設計した起こした図面を元に、模型を作る仕事です。建築模型はジオラマに近いと思われがちなのですが、大きく異なる点があります。それはジオラマがリアルを求めて制作されるのに対し、建築模型は設計者のコンセプトに合わせて、表現の粗密が許される点です。たとえば、精密な階段や手摺がある一方、扉にはドアノブがない。そんな模型で良いのです。

ただ、個人的には図面のとおりに作るだけではなく、設計者の意思を反映した上で、建築模型そのものに芸術性を見出していきたいと思っています。一般的に建築模型は紙や発泡素材、木でつくられますが、金属板でもガラス製でもいいわけです。図面がデジタル化された一方で、手に触れられる模型にはモノとしての価値があると信じています。パリにあるポンピドゥー・センターの一角に展示場所が与えられるほど、欧州における建築模型の価値は高いのですが、日本でもそんな文化が根付けば良いなと思っています。

早稲田は「個性」を許してくれる

Q 諏佐さんにとって、早稲田とは?

ひとことで言うと、「個性を許してくれる大学」です。これが国立大学との違いだと思います。もちろん、ある程度指示はされますが、やるかやらないかは自由です。ですから、ものすごい発想で研究に取り組む人もいれば、「この人は面白いな」と思っていた人がいつの間にか退学し、消息不明になっているようなこともあります。人数が多いから、いろいろな人が集まっていて、いろいろな人と交流できるというのもあるでしょうね。
それから、慶応とも明治とも違うのは、6年間通じて同じキャンパスで過ごせること。早稲田の理工学部は工場みたいなキャンパスですが、なんとなく愛着がわいてきます。高田馬場という街は、住民の人口よりも早稲田大学の関係者のほうが多いのですが、そこも面白いところですね。

Q 最後に、受験生にメッセージを。

入学してみると驚くかもしれません。「あれだけ勉強していた人たちが、こんなに騒いでいるのか?」「こんなにバカをやっているのか」と(笑)。それくらい面白い大学です。
ですから、とにかく入るまでは勉強に集中して欲しいですね。行き詰まったら、自由の身になった時のことを考えたり、大学でやりたいことを想像したりして、モチベーションを高めつつ、頑張ってください。