電気自動車の効率的な運用を、
数理モデルで示す。

経営システム工学専攻 修士2年
鈴木 淳也 Suzuki Atsuya
椎名研究室
2021年度インタビュー

Q 研究の内容を教えてください。

EVバスという電動バスの効率的な運用を、修士論文でテーマとして取り上げました。オペレーションズリサーチ–社会課題や企業の問題解決を数理的な手法で解決する学問–が専門なので、数理モデルを用いて運用の提案をしたのです。
EVバスは日本でも実用化が期待されていて、特にエネルギー効率の点で、脱炭素化やサステナビリティに寄与することが期待されていますが、まだまだ導入コストが高く、実用化のハードルが高いのが現状です。
コスト要因は、車両に詰む蓄電池やガソリンスタンドのような充電スポットの確保というハード面の問題から、どのタイミングでどれだけ充電するかというソフト面の問題までさまざま。それらのコストを最小化できる数理モデルを提案しました。

Q 苦労した点はどんなところですか?

EVバスが日本では普及していないために、文献や論文の事例は全て海外のもので、特に普及が進んでいるヨーロッパのものでした。地理的な条件や気候も異なるので、参考にならない部分が大きかったのは大変でした。
たとえば充電スポットを設置するにしても、ヨーロッパは日本と違って道路が広く、土地も比較的余っているので、どこにでも充電スポットを作ることができますから、効率化を考えた形跡があまりありませんでした。逆に言えば日本の狭い道路や、土地事情を考えるのが研究の独自性になりますが、その分考える要素が増えるので、大変でした。
日本での電気自動車の普及は、かなり遅れていると言わざるを得ません。日本では水素燃料にも力を入れていて水素ステーションも街中に少しずつ現れていたり、いろんな分野に挑戦したりしているので、致し方ない部分はあるかもしれませんね。

Q 充電はどれくらい時間がかかるものなのですか?

EV バスのバッテリーが100kWh(キロワット毎時) 〜200 kWhで、充電器の出力がだいたい50kWh 程度の想定なので、単純計算でフル充電するのに2〜4時間かかる想定になります。また、電費※が条件の良い時で1.2 km/1kWh なので、1回の充電で120〜240kmの走行が可能になります。
蓄電池を大きくすればそれだけコストが上がりますが、充電の頻度は減らすことができます。逆に蓄電池を小さくすれば車両のコストは小さくなりますが、こまめな充電が必要になり、そのためには充電スポットの充実と、少ない量を素早く充電するために、高出力の充電器が必要になり、これにもコストがかかります。
このような「帯に短し襷に流し」という状況を数理的に解決するのがこの研究の醍醐味と言えるでしょう。今回は日本の地理的特性も踏まえて、こまめに充電する継ぎ足し充電型を選択しました。欧米と比べて走行距離がさほど長くなく、こまめに停車する路線バスが多いことも加味しました。
※電気自動車における燃費のこと

不確実性をテーマに、
さまざまな分野に共通したモデルを適用

Q この研究の面白さはどんなところですか?

私の所属する椎名研究室では、オペレーションズリサーチの中でも「不確実性」をテーマとして掲げています。たとえばバスの運行状況は気候や交通状況に左右される、不確実性がありますが、物流やサプライチェーン等もさまざまな不確実な要素に翻弄されると言えます。このような不確実な事象への意思決定に、共通した考えかたや枠組みで立ち向かえるのがおもしろいところだと思います。
扱っているテーマが広いのも魅力で、社会のいろいろな事象に共通点を見出すことができるようになるのも興味深いと思いますね。

Q 経営システム工学科を志した理由は

漠然と情報技術を扱う分野への進学を検討していたのですが、経営システム工学科は直接的に社会に役立つための学問だと感じ、進学を決めました。他に検討していたところは、要素技術としての情報技術の側面が強く、手法を極めるような印象を受けました。
「経シス」では社会課題の解決や、意思決定のプロセスに重きを置いているので、ITエンジニアというよりも意思決定の方に興味があるという人にはお勧めの学科です。
さらにITへの興味が強くなくても、経営や仕組み、マネジメントに興味があるひとにもおすすめです。扱う範囲がとても広いので、入学すればかならずやりたいことが見つかるはずです。