ともに困難に挑戦し、信頼を深める──
それが総合機械工学科の伝統

総合機械工学専攻 博士2年
寺原 拓哉Terahara Takuya
滝沢研究室
2018年度インタビュー

Q 研究の概要について教えてください。

私の所属する滝沢研究室では、流体 – 構造連成解析という分野を扱っています。流体 – 構造連成とは、流体の中に構造物があるときに、流体と構造物が影響を与え合う相互作用のことです。例えば、パラシュート(=構造物)が空気(=流体)を受ける際に、パラシュートが空気の影響で形を変えることにより、パラシュートの形状が変わった影響で空気の流れも変わります。
私の研究は、心臓弁における流体 – 構造連成を扱っています。心臓弁とは心臓に付いている4つの非常に薄い弁のことです。右心室の入口と出口、左心室の入口と出口に付いていて、心臓に血流が流れ込むときに弁が開き、流れ出て行くときは弁が閉じて逆流を防ぎます。つまり、心臓弁周囲の現象を再現するには、血流と心臓弁の動きを同時に把握しなければならないわけです。しかし、実験で生身の人間の心臓弁の動きを確かめることは至難の業です。そこで滝沢研究室では、このような複雑な現象のシミュレーションを実現し、その結果から現象を把握する研究をしています。

通常の計算で求められない難題に
シミュレーションで挑む

Q 心臓弁の再現について詳しく教えてください。

流体 – 構造連成解析はどれも難しい題材ばかりですが、心臓弁はその中でもひときわ難しいといわれています。なぜかといえば、心臓弁の開閉によって空間のトポロジーが変化するからです。心臓弁が閉じて仕切られてしまうと、心臓弁の内側と外側が別の空間となってしまい、心臓弁が開くと2つの空間が仕切られた状態から再度1つの空間に戻ります。このような空間のトポロジー変化を再現するのは簡単なことではありません。
そこで、有限要素法の中でも四次元格子を用いる手法を用います。有限要素法では、右心室・左心室内を何万個もの六面体の集合として捉え、複雑に動く心臓弁の動きを細かく再現し、一つ一つ計算で解くことによって、全体の流れを把握します。このとき何百万という式を同時に解きますが、膨大な計算をコンピュータ処理することによって実現します。複雑に動く心臓弁の動きを細かく再現することが可能になります。一連の動きを計算で求めるとき、右心室・左心室の内部を細かく分割した六面体それぞれの体積を使って微分を表現します。しかし、心臓弁が閉じ切ると心臓弁に挟まれた空間の六面体は体積がゼロとなり、計算上ゼロで割ることになってしまいます。これでは計算が成り立ちません。そこで、四次元格子を利用するのです。四次元格子とは、大まかに言えば時間変化する三次元格子のことです。
通常、空間は三次元ですよね。今いる部屋の広さが変化することはありません。しかし、心臓弁が開いたり閉じたりすることを考えると、その分だけ空間が伸びたり縮んだりすることになります。このように、時間の経過によって空間の大きさに変化があるときに、四次元格子が役に立ちます。四次元格子を用いることで、空間がゼロになるという動作、つまり心臓弁が閉じ切る間に、時空間の体積を持つことになり、心臓弁が閉じ切った時の値も求めることができるのです。

心臓弁のシミュレーション画像

相手の立場に合わせた説明は
研究活動に返ってくる

Q 心臓弁の流体 – 構造連成解析を行うことによって、何がわかりますか。

一言でいえば、より良い心臓弁の形を手術前に設計できるようになります。心臓病の原因が心臓弁の不調にある場合、患者の心膜を使って心臓弁を新たに作り出す手術があるのですが、どんな形にすれば上手く開閉するかというのは経験則で考えるのが現状です。その手術を、もしシミュレーションであらかじめ理想的な心臓弁の形状を知ることができれば、患者の身体に合わせた手術が可能になります。そのためには、血流と心臓弁の相互作用を研究し、血流がどのように身体を駆け巡っているか、心臓弁がどのように開閉するかを解き明かす必要があるのです。

Q 流体 – 構造連成は多分野にまたがる研究分野ですよね。

流体と構造物の相互作用ですから、流体分野と構造分野の双方について理解していなければなりません。さらに私の研究では心臓弁を扱うので、医師との連携も重要です。残念ながら流体 – 構造連成の医療分野への応用は始まったばかりで、その有効性がまだ充分に伝わっていない部分があります。この状況を少しでも改善しようと、医療従事者向けに勉強会を開いたり、医療者の集まりで発表をしたりとアピールしているのですが、医療の現場とは使う言語が違うので、初めは思うように伝わらず、悔しい思いもしました。
医療者にとってわかりやすい説明を心がけることによって、少しずつ理解者も増え、研究データも私たちが欲しいものを提供してもらえるようになりました。やはりコミュニケーションをとることが重要です。

早稲田大学のすばらしさは
同窓の絆にあり

Q 最後に、総合機械工学科の良さを教えてください。

総合機械工学科の良さは、グループワークを重視し、ディスカッションや助け合いを通じてシナジーが生まれることだと思います。それに生徒数が多いので、共通の趣味を持つ友人が必ずできます。ロボットや医療、自動車から宇宙、環境エネルギーまで実に幅広い分野を学べますから、入学時にやりたいことが決まらなくても大丈夫です。少し広げて早稲田と他大学の違いについても話すと、人脈の広さは随一でしょう。早稲田生は早稲田生のことがとても好きです。実際、学会や研究関係の集会で出会った方が早稲田出身だとわかると、一緒に写真を撮るほど盛り上がります。同窓の絆の深さ、それが一番の良さですね。