設計や論文のヒントは
自分の体験のなかにある

建築学専攻 修士1年
友光 俊介 Tomomitsu Shunsuke
有賀研究室
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q 卒業設計の学内発表で金賞に選ばれたそうですね。

「開かれた地平と生きる ──堤防の狭間から──」というタイトルの計画で受賞することができました。この設計では東日本大震災の被災地である宮城県石巻市の十三浜(じゅうさんはま)を扱いました。第29回JIA東京都学生卒業設計コンクールや第7回都市・まちづくりコンクールにも出品し、銀賞を受賞しました。
十三浜には13の浜があります。震災時には津波の被害が大きく、漁業を生業とし、海とともに生きてきた人々は、低地にあった家々を追われ海と離れた生活を余儀なくされていました。さらに防潮堤の整備により海との関わりは薄れていく一方。
震災からもうすぐ10年が経とうとする今、津波によって流された文化を、建築の力で取り戻したいというのが設計の動機でした。

津波で失われた文化を
建築の力で取り戻す

Q この研究を選んだ理由は。

早稲田の建築学科では、3人組で卒業設計に取り組むのですが、メンバーの一人がボランティアで十三浜を訪れた経験があり、私ともう1人のメンバーも被災地を訪れた経験があり、不思議な縁を感じたのです。
十三浜の中でも、中心部に位置する大室を設計対象に定めました。
十三浜は、震災後に多くの人々が高台移転を余儀なくされた地域ではありますが、漁業を継続してきた地域です。「津波が来たら山へ逃げる」という伝承が代々ある地域であったこともあり、死亡した方が比較的少なかった地域になります。少し離れた大川小学校では、町外から来た人々が多数いたことで被害を防ぐことが出来なかった事実も浮き彫りになってきました。

大川小学校

十三浜の人々

今回の設計にあたり、私たちは大室で3度フィールドワークをしました。
地元の建築家、旅館、ボランティアの人々に聞き取り調査を行うなかで感じたのは、大室と海との関わりの深さでした。
震災後のことですが、堤防の建設の計画が持ち上りました。しかし、大室の人々はそれを拒否。海とともに生きる道を選択。それほど海への思いが強いのです。

しかし、住み替えた先の住宅は、高台に位置していますが、家から海を見渡すことができません。
そこで、「海と生きる」ことを再び取り戻すことのできる、海が見えて住民が集まれる場所をつくろう。これが出発点になりました。
また、大室も含めた十三浜の伝統的な住宅では、冠婚葬祭を行うための「デドザシキ」と、収穫した海産物を仕分ける「オカミ」という部屋が設けられています。しかし高台の住宅は、100坪制限という復興住宅の規則によって生活スペースしか与えられませんでした。
そこで、大室の高台住宅の周辺に、「デドザシキ」の代わりに冠婚葬祭の式場になる「山手の斎庭(やまのてのゆにわ)」、「オカミ」の代わりに地元の会合や収穫物の加工に利用できる「浜床の舞台(はまとこのぶたい)」という2つの建築物を設計。もちろん海を見渡すのに、最高なポイントを選びました。
山手の斎庭と浜床の舞台を繋ぐのは「水際の畔道」です。この道の間に、30ある全ての住居が含まれます。畔道は津波の浸水ラインをもとに設計されていますから、普段は生活路として使用でき、万一津波が発生した際には避難導線にもなるのです。

高台移転によって消失した空間 ―デドザシキ・オカミ―

上:計画の全体、中:山手の斎庭、下:浜床の舞台

Q 研究室について教えてください。

有賀研究室で都市デザインを研究しています。都市デザインでは、建築物だけでなく、その周辺環境まで含めた空間全体を設計します。空間そのものを扱うので、たとえば公園や田畑などを含む街全体を対象にできるのが特徴です。
学部の卒業論文では、都市部における農業をテーマに、埼玉県の農業文化を取り上げました。担い手は大きく専業農家と兼業農家に分けられます。兼業農家は、地元で代々続いてきた専業農家と共存しながら、趣味として農業に携わっています。
彼らは、農業をビジネスとしてではなく、生活をより豊かにするものと捉え、楽しんでいる。このようなライフスタイルは、今後、都市部で農業を営むモデルの一つとして考えられるのではないかと思います。
修士論文では伝統的な生活文化に着目し、東北の祭事や言い伝え、地名の由来などについて調べる予定です。新型コロナウイルスの流行によって社会が変化しつつあるので、古くから伝わるものをヒントに「豊かさ」を捉え直したいと思います。

自分が活躍できる場所を
常に探して努力する

Q 建築学科を目指す人にメッセージを。

早稲田の建築学科にはいろいろな学生が在籍しています。優秀な同級生のなかには、「自分の世界」を持っていると言いましょうか、突出した人間もいます。そんな中で建築を学び、彼らと互角に渡り合うためには、受け身の姿勢ではいけない。常に「私が活躍できるところはどこだろう」考えて学ぶ必要があります。
大切なのは自分の強みを把握すること。こういったものは、自分に自然と備わっている能力であるため気づきにくく、自分の無力さばかりに気を取られてしまうものです。私には突出したスキルはありませんが、全体を見渡し、周りの人が何を得意とするのかを見抜き、マネジメントする能力に長けていると思います。
この強みはデザインが得意な人や設計が得意な人など、同級生と比較することによって気づいたものです。他人と比べると自分に無いものを突きつけられた気がして、落ち込むこともあります。しかし他人との比較によってしか、自分の強みはわからないと思います。
そして自分だけの体験を大事にすること。これだけは換えがきかないからです。また肌で感じたことでないと、他人に実感が伝わりません。設計も論文も、体験から組み上げていってほしいですね。