「流体-構造連成」で
医療分野に貢献する

総合機械工学専攻 修士2年
吉田 彩花Yoshida Ayaka
滝沢研究室
2018年度インタビュー

Q 所属する滝沢研究室の専門は流体-構造連成でしたね。

流体はご存知の通り、水や空気などの「流れ」のあるもの全般を扱うものです。ある構造物の中に流れがあるとして、流れの力で構造物の変形が起こりますよね。それと同時に、変形した構造物は流れに影響を及ぼします。この相互作用を流体-構造連成といいます。パラシュートを例にとると、空気の流れを受けてパラシュートの形状が変化しますが、変形したパラシュートの形状により、新しい空気の流れ場が生じます。空気という流体とパラシュートという構造物のどちらか片方ではなく、両方にフォーカスを当て、その相互作用を分析し、様々な分野に応用しているのです。OrionというNASAの宇宙船で使用されるパラシュートの設計に携わったのは、他でもない滝沢研究室なんです。

Q 今取り組んでいる研究分野について教えて下さい。

滝沢研究室は分野ごとに「自動車班」「流体機械班」「医療班」等があり、私は医療班に所属しています。 血液という流体と、血管という構造物が研究対象です。悪い血管形状があると、血液の流れというのは一か所に集中して当たることがあります。その流れの力より、血管壁の形状が変化します。動脈瘤を例にとると、瘤(こぶ)が発生するのは、血管壁の局所に大きな力が長年にわたり集中していた結果です。血管壁に余計な力が働く状態が続くと、血管が破裂するような大きな問題を起こすことになります。
医療の現場では、血管壁に生じる応力を分析するアプローチがあまり行われず、もっぱら血液とその流れに焦点が当たっています。それもそのはずで、構造物である血管を分析するのはエンジニアリングの分野なので、医師にはあまり馴染みがないのです。
しかし、実際に瘤ができるのは血管壁であり、血管自体にかかる力を軽減することが重要なのですから、血管の構造も理解して、血液にも血管にも総合的に対処しなければなりません。

血液も血管も、まとめて解析する

Q 血管の分析はどのように?

患者から撮ったCTやMRIの医用画像を利用して、血管の形状を抽出し3Dモデル化します。これによりバーチャルに血管の状態を把握できるようになります。解析をするとき、形状を数値モデル化する必要があります。コンピューターは流れる時間とともに連続的に変化する状態を計算することができません。そのために、とびとびの格子点で血管のような滑らかな形状を表さなければなりません。これが「離散化」という工程です。
この3Dモデルを使って、血流と血管の相互作用=流体-構造連成をシミュレーションすることで、患者の状態を把握することができるようになります。
構造も把握する必要がある根拠として、とても興味深い事例があります。血を全て取り除いて、血管を縦に切開すると血管は開きます。つまり、血液が流れていなくても、血管内部には力が存在するということです。血管壁にかかる力が動脈瘤のような病気を引き起こすわけですから、病態の予測をするときではどちらかだけの解析では片手落ちなのです。

3Dモデル化した血管の画像

ロボット製作実習を通して
総合機械工学科への入学を決める

Q 総合機械工学科に進学した理由を教えてください。

私は早稲田大学本庄高等学院の出身なのですが、在学中に「出る杭」というプログラムを受けました。附属生が早稲田大学の授業を夏休み期間に受講できるプログラムです。その時の体験が大きかったですね。私はメカニクスラボという授業を選択しました。引かれた線を自動認識してたどるロボット「ラインフォローロボット」を製作する授業でした。部品から動作制御プログラムまで一通りの工程を体験し、これはもう総合機械工学科しかないだろうと。

Q 入学から現在までを振り返って、どのような感想をお持ちですか。

機械の分野は本当に応用範囲が広いと感じます。総合機械工学科に入った時は、医療分野を研究するとは思ってもみませんでしたが、流体力学の授業を初めて受けた時に、水も風も空気も、そして今研究している血液も対象になると知り、同じ数式でこんなにも多くの分野を解き明かせる汎用性に大変感銘を受けました。滝沢研究室は流体にとどまらず、流体-構造連成が専門ですが、幅広い研究に携わることができます。とても魅力的だと思いませんか?