宇宙産業をリードする、
三足のわらじを履いたトップランナー

■JAXA (宇宙航空研究開発機構)
 安全・信頼性推進部 技術開発グループ 技術領域主幹
■株式会社 天地人 創業者/取締役
■早稲田大学次世代ロボット研究機構 
 宇宙探査ロボティクス研究所 招聘研究員
百束 泰俊 Hyakusoku Yasutoshi
2004年 機械工学専攻修士課程修了
山川研究室
2021年度インタビュー

Q 現在の仕事の内容を教えてください。

二足ならぬ、三足のわらじを履いています。
一つ目がJAXA (宇宙航空研究開発機構)の職員です。2004年のJAXA発足の年に入所して、17年間働いてきました。JAXAには大きく分けてロケット、宇宙ステーション、人工衛星の部門があって、私は人工衛星の仕事をずっとしてきました。
二つ目は「株式会社 天地人」というベンチャーの創業メンバーで、取締役を務めています。この会社は人工衛星のデータを使って、農家の支援や気候変動等の環境問題に取り組んでいます。
そして三つめが早稲田大学次世代ロボット研究機構の宇宙探査ロボティクス研究所の研究員です。
「1人産官学」なんて言っているのですが、やっていることはバラバラのように見えて、「人工衛星」でつながっています。

人工衛星を軸に、三つの領域を横断

Q それぞれの業務内容を詳しく教えてください。

JAXAでは設計に携わっているので、図面を書くこともあるのですが、メインはプロジェクトマネジメントです。宇宙産業はビッグプロジェクトですから、例えばピラミッドや万里の長城のような少数の支配層が多数の労働者を使うようなプロジェクトを思い浮かべるかもしれませんが、宇宙産業はこれらとは根本的に異なります。
宇宙は分野の異なる多くの専門家が、協力してひとつの事業にあたります。その中で我々に求められるのは、その専門家たちを束ねて目的を達成すること。宇宙に送り出すものですから、WEBサービスのように、リリースしてみてバグがあるから修正するというようなことはできません。さらに、予算は皆さんの税金ですから、責任は重大です。
専門家の意向はあちらを立てればこちらが立たず。板挟み状況になることも多いので、求められるのは「胆力」です。どのような衛星をつくるのか、確固たるポリシーを持たなくてはいけません。
このように、JAXAでは衛星のハードウェアを作っていたのですが、だんだん人工衛星が収集するデータに興味が湧いてきました。携わった衛星はNASAと共同開発した「GPM」という雨のデータを収集するものと、環境省と開発した「いぶき2号」という二酸化炭素のデータを収集するものでした。
JAXAの視点は科学的というか、気候変動などの地球規模の大きな問題に対応することが目的で、とてもスパンが長いんですね。ただ、このデータは目の前の課題、つまりビジネスとして提供することで、今すぐ役立てることができると気づいてしまった。そうなるとやらずにいられない。それで天地人を作ったんです。

JAXA開発の二周波降水レーダー

NASAとJAXAの調印式にて

Q 天地人での事例を教えてください。

「宇宙ビッグデータ米」を富山のパートナーの農家の方々と作りました。多くの農家が、気候変動の煽りを受けて、栽培や管理方法を工夫したり、作物自体を変えたりせざるを得ない状況に追い込まれています。
富山のパートナーは米農家で水温の管理に悩まされていました。米というのは高温に弱く、生育期の温度管理が重要になります。衛星のデータを使えば、降雨量や天気のデータから水温の管理を効率的に行えるようになるのです。
海外でも事業を展開しています。オーストラリアで開催された、世界最大級の「Gravity Challenge」というビジネスコンテストにおいて、世界で数社だけが選ばれるWinnerに選出されました。また、イギリスでは果樹園のカーボンニュートラルの取り組みや、栽培地にあった作物の提案をしていますし、アフリカでもJICAと共同で、ブルキナファソでのサービス展開を予定しています。

審査員特別賞(他3賞)を受賞したS-Booster2018にて

Q 早稲田の宇宙探査ロボティクス研究所にはどのような経緯で?

現在、JAXAではマネジメント職に就いているので、自分で手を動かすことがあまりないので、何か作りたいなというのがまずありました。また、天地人の仕事で海外の宇宙系の企業を見ていくと、衛星がどんどん小型化していることに気づいたのです。
海外の民間主導の小型衛星は、大学由来の企業がけん引しています。実はそれは日本も同じなんです。衛星を小型化できれば、コスト削減できるので、より多くの衛星を飛ばせるかもしれない。自分が関わるかどうかは別として、早稲田発の大学ベンチャーで小型衛星を開発する将来が来るかもしれません。
現在、総合機械工学科の宮下先生と協力して、量産や、より一層の低コスト化を目指し3Dプリンターを使った小型衛星の開発を進めています。

早稲田は学びの場として「おおらか」

Q 他に携わっているプロジェクトはありますか?

プロジェクトとは少し違いますが、今年(2021年)に公開された「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の設定考証をしています。特典で配布されたパンフレットをお持ちの方は、「考証協力で名前が出ていますので、見てみてください(笑)。
私は主人公の碇シンジ君世代で、「エヴァ」は僕の青春。アニメにハマるきっかけになった作品なので、感慨もひとしおでした。一生懸命仕事をやっていると、思わぬかたちで報われるんだなと思いましたね。
これは知人の紹介で実現したんですよね。普段からアニメ好きを公言していたので、この話が持ち上がったときに、私が推薦されたようです。本当に持つべきものは「友」ですね。
天地人には30名近いメンバーがいるのですが、これも最初の15名ほどは「友」のつながりでジョインしてもらいました。早稲田を志す人には、友達をたくさんつくることをお勧めします。

Q 早稲田で学んだことは

機械工学科で人工衛星の構造設計や構造解析をやっていました。当時、理工学部の再編前で機械系は機械工学科のみで、宇宙研究は学科のメインとしては扱っていなかったのです。ところが、私が所属していた山川研究室には、のちに研究室を引き継ぐことになる宮下先生が当時助手として在籍されていました。山川先生や宮下先生は先見の明があって宇宙系の研究をされていたので、JAXAへの入所を考え始めていた私は、迷わず山川研に進みました。今ではWEBサイトをはじめとして、教員の方々が何を専門としているか調べられる時代ですので、入学を検討している方は、情報収集をしっかりして欲しいと思います。
また、早稲田の最大の魅力は学びの場として、おおらかなところだと思います。来るもの拒まず去るもの追わずで、かつ自主性は重んじてくれる。学生同士の議論に教員の方が入ってくるのは日常茶飯事ですし、その際も教員と学生はフラットな関係性を保っているはず。
若い人をみていると、早稲田のような、自分の興味を追及しながら、フラットな関係性で働くことを志す人が多いと感じます。少しでも惹かれる部分や興味があれば、ぜひ、早稲田の「おおらかさ」の中で学ぶ経験をしてほしいですね。