日本のものづくりのために、
第三のプラットフォームを

株式会社A(エイス) 代表取締役
山田 歩Yamada Ayumu
2012年 総合機械工学科 卒業
上杉研究室
2015年度インタビュー

Q 仕事の内容から教えて下さい。

ものづくりのクラウドプラットフォーム「Wemake」を運営しています。「こんな商品があったら」というアイデアは発明家やメーカーに限らず、誰もが思いつくかもしれません。そんなアイデアを、ウェブ上のコミュニティの力でブラッシュアップしつつ、商品化してくれるメーカーとマッチングして、新しい商品を作ろうというサービスです。
商品化が決まったら、売上からロイヤリティを支払う仕組みになっています。アイデアを出した人、ネーミングした人、キャッチコピーを付けた人、商品化に重要なコメントをした人など、報酬は商品化への貢献度に応じて支払われます。
現在はメーカーの要望に対して、広くアイデアを集い、コンペ形式で争うという形を採っています。「こういう技術やノウハウを使って商品化したい」「こんな原材料を使って、何か新しいことをできないか」という要望に、クリエイターや一般消費者がアイデアを出し合って、新しい商品を作るのです。

Wemake 想像は、ここでカタチに: https://www.wemake.jp/

ものづくりの資源を活かしきれていない日本

Q このようなサービスを思いついたきっかけは?

学生の頃、早稲田大学宇宙航空研究会(WASA)に所属していて、鳥人間プロジェクトに参加していました。読売テレビ主催の「鳥人間コンテスト選手権大会」に出場するためです。そのために、年中、大学内にある工作実験室に入り浸り、パーツ作りのために金属加工をしたりしていました。
工作実験室と聞くと、工房のようなものを想像するかもしれませんが、そんなレベルではありません。工場のような施設です。そこでは大田区や川崎市などの工場の職人さんたちが非常勤講師として道具の使い方を教えてくれていました。
彼らの話を聞くと、大手車メーカーなどのエンジンを試作していたようなエンジニアたちもいて、ものすごい技術を持っているのですが、結局は大手メーカーの下請けで、メーカーの意向や景気の影響をもろに受けていました。たとえば、大田区では彼らのような小さな企業の倒産が続き、ここ10年間で半減してしまったそうです。
下請けが大変ならば、技術を活かした自社製品を開発すれば良いと思うかもしれませんが、技術があることと、売れる商品が作れることとは異なります。下請けをずっとやってきたため商品企画、マーケティング、販路開拓などの経験に乏しく、資金も僅かな小さな企業がヒット商品を継続的に生み出すのはなかなか難しいです。かといって自分が創りたいものを作ると市場のニーズと乖離してしまい、失敗して借金が重なるおそれがあります。実際に失敗例も多く聞いてきました。そんな話を聞いて、これはおかしいと思いました。 「日本は、ものづくりの資源を活かしきれていない」と感じたのです。

Q たしかに、もったいないですね。

実は、能力を活かしきれていないのは、中小企業だけではありません。大手メーカーのプロダクトデザイナーやエンジニアもなかなかやりたいことをやれていないようなのです。
大手メーカーに就職した人たちからよく聞くのが、新しいことをやろうとすると、なかなか社内の決裁が通らなかったり、他部署や会社の都合で本当にユーザーのためを思った施策が打てなかったりすることが多くあるというのです。
「使い手」にとって理想のものづくりが個人でも、中小企業でも、大手メーカーの中でもできないのならば、新しいやり方がが必要なのではないかと思いました。商品コンセプト、デザイン・設計、製造など、皆が自分の得意なことを出し合えるような場所です。それが「Wemake」なのです。
現在のところ、大手メーカーでは貝印、ダスキン、住友林業、キャットアイ(自転車用具メーカー)あたりが、中小企業では大田区、川崎市の他、岩手県釜石市、静岡県浜松市、埼玉県にある各企業が協力してくれています。

研究室で学んだ「徹底的に考え抜くこと」

Q 大学時代に学んだことで役立っていることはありますか?

上杉繁先生の研究室で学んだのですが、「人と自然と機械の「間」のデザイン」を「共に創る(Co-creation)」というコンセプトは、自分の思想の軸にあると思っています。
また、上杉研究室では、既存の常識にとらわれず、物事を徹底的に考え抜くことを学びました。特に、これからやろうとしていることに対して「そもそもやる価値があるのか?」「何が面白いのか?」「今やる必要があるのか?」「ここ(上杉研究室)でやる必要があるのか?」と考えるよう繰り返し指導されたことが印象に残っています。
私たちのサービスのミッションは、「ものづくり資源の流動化、最適化」を通して「誰もが、得意な手段で自分のやりたいことを実現できる社会の実現」です。しかし、、ミッションやサービスが時代や人々の求めるものかどうか、定期的に物事の本質から考えなおし、刷新し続けたいと思っています。

Q 早稲田大学の魅力とは。

良い意味で、頭でっかちにならないところでしょうか。「いろいろと考えてないで、まずはやってみたらいいじゃん」という文化が好きですね。
バカにする奴はすれば良い。
笑いたい奴は笑え。
オレは楽しいんだから、それで良いんだ。
早稲田はそんな校風だとおもいます。WASAにもそんな勢いがありました。
また、WASAには各学科の猛者が集っていて、皆がそれぞれ強みを持っていました。ですから、弱みを補完しようとするよりも、強みを徹底的に鍛える文化がありました。そのなかで育ったことも、今の仕事に役立っているかもしれません。

Q なかなかやりたいことが見つからないという人に対して、何かアドバイスはありますか?

やりたいことがない、将来が決まっていない人ほど、受験を頑張るべきだと思います。しかも、嫌な言い方かもしれませんが、できる限り偏差値が高い大学・学部に入った方が良いと思います。なぜなら、いわゆる良い大学ほど、一般的には入ってからの選択肢が多くなる可能性が高いからです。
鳥人間に携わってきた人間らしく、グライダーにたとえて言えば、一度、高いところまで行ってしまえば、飛行距離が伸びます。高卒よりも大卒、一般的な大学よりも優秀な大学の方が可能性は広がるのではないかと感じています。
もちろん、やりたいことがあって、自分で考え抜いた上でならば、高卒でも良いし、アルバイト生活でも良いでしょう。自分で選択したのだから、納得感があるし、不平不満もないはずです。
私は、一人の人間にとって大事なことは形式的なことではなく、「現在の自分を肯定できること」だと考えています。そのためには、自分を徹底的に掘り下げ、考え抜かなければなりません。やりたいこと、やりたくないことと徹底的に向き合い、自分の未来を決めなければならないと思います。しかし、高校3年生までにできることは限りがあります。
であるならば、大学受験を頑張ることで、選択肢の幅を広げておくべきでしょう。そして、様々なことに挑戦し、仮説と検証を重ねることによって、自分のやりたいことを見つければいいのではないでしょうか。
受験勉強は大変かもしれませんが、頑張った分だけ、可能性が広がります。思い切って挑戦してみて下さい。