資源の安定供給こそ、社会貢献-
大きな希望を持って、進学してほしい

環境資源工学科 教授
内田 悦生 Uchida Etsuo
2022年度インタビュー

本学科はもともと採鉱学科という名称でした。それが採鉱冶金学科に変わり、鉱山学科、資源工学科を経て、今日の環境資源工学科となりました。 この変遷からもお分かりいただけるように、もともと「資源」にルーツのある学科で、特に金属資源が地下でどのように生成されるのかを調査・研究することから始まったのです。
地下資源と聞くと、金属資源以外にも石油や石炭などのエネルギー資源が思い浮かべられるでしょう。それらの地下資源を採掘するということは、必ず環境に影響を与えますから、その対応が必要です。また、資源には限りがありますから、リサイクルの分野も関連してきます。そんなふうにして環境資源工学科の現在のかたちがつくられてきました。
学べる範囲が多岐に渡っているのは、このような歴史があるからです。

鉱物資源から文化財まで

私の専門は本学科のルーツである鉱床にあり、そのなかでも花崗岩に関連して生成された熱水性鉱床の研究を行ってきました。花崗岩は御影石とも言われ、建築物に使われることで知られています。
この花崗岩は地下においてマグマが数10万~数100 万年という長い期間を経て、冷やされてできます。その過程で花崗岩から熱水が放出されたり、地下水が花崗岩と反応することにより熱水が生成されます。このようにして生成された熱水には様々な金属元素が含有されており、熱水が冷却したり、他の岩石と反応することにより様々な元素が濃集した鉱床が生成されます。この花崗岩をサンプリングし、化学分析等を行うことにより、花崗岩に伴ってどのような鉱床が生成されるかを推測することができるようになります。



もう一つの軸が、文化財に関する研究です。この話をすると意外に思われる方も多いのですが、長い間アンコール遺跡の調査に携わってきました。
これも花崗岩をはじめとする岩石の研究をしてきたことにより縁ができたものです。アンコール遺跡には小さな寺院も含めると、5,000近くの寺院・遺構が存在しており、その多くが石材できていることから白羽の矢がたったわけです。
もともとは建築学科の中川武先生が、ユネスコの要請を受けて、アンコール遺跡の修復を手掛けることになったのですが、石の専門家というのは当時の早稲田大学理工学部には私しかいませんでした。
遺跡の石材を調査することで、建造順序や年代を推測することに成功するとともに、石材の劣化機構の解明を行ってきました。主要な寺院として知られるアンコール・ワットとアンコール・トムの石材(砂岩)を調べてみても、全く同じ鉱物・化学組成をしていて、違いがありませんでした。突破口となったのは、帯磁率(磁化率)を使った調査をしたことで、石切場によって帯磁率という値が違うことがわかりました。これにより遺跡の建造年代や順序を特定でき、大変大きな成果となりました。
私を仲間に入れてくれた中川先生も、最初からこのような成果が得られることは予想もしていなかったと思います。しかし、遺跡の調査というのは、様々な分野の知識が必要です。化学や物理、それから生物に関する知見も必要です。このように理系の研究者が携わるのは必然で、考古学が文系に属するのは、少し不自然に思われます。


自分の興味を追求していった結果、今の研究がある。

私がこのような研究を志すようになったのは、高校生のときに「プレートテクトニクス」の概念を知ったことが大きいですね。1960〜70年代に出てきた新しい概念で、天動説の時代に地動説が出てきたような衝撃が走りました。そのころ東大の竹内均先生が啓蒙書を書かれていましたが、夢中になり、地質学を志すようになりました。その延長線上に、今の私の研究があると思っています。
花崗岩の研究にしても、文化財の石材の研究にしても実際のフィールドに出向く機会が多いですから、身体が資本です。日本の鉱山は今や鹿児島の菱刈鉱山ひとつしかありませんし、また、石造文化財の多くは海外に存在しますので、海外に出て調査を行ってきました。日本ほど環境は整っていませんから、学生たちも自ずと鍛えられたと思います。
また、資源というのはごく一部を除いて、ほぼ海外に依存していますから、海外に目を向けることは重要です。私の研究室を出た多くの学生が資源系に進み、海外で活躍していますので、海外志向のある学生に向いていると思います。
今回のウクライナ戦争で、資源の重要性は痛いほどわかったのではないかと思います。昨今、SDGsへの意識の高まりに伴い、社会貢献への関心が高まっていると感じます。資源の安定供給に貢献することは一つの重要な社会貢献といえるのではないでしょうか?社会の役に立ちたいという思いのある人にこそ、大きな希望をもって進学してきてほしいですね。