人間の生活と社会を豊かにする
「実学」を学び、地球的視野と
地域固有の視点を併せもち実践する
創造理工学部長・研究科長 建築学科 教授, Ph.D. | |
有賀 隆 | |
Takashi Ariga, Ph.D., Professor Department of Architecture |
Q 創造理工学部の特徴を教えて下さい。
まず早稲田大学の特徴は、都の西北に大学があることです。かつての江戸城や現在の政治・行政の中心から離れた都の西北にいることで、あえて一歩距離をおいて異なる視点や違う見方からきちんと世の中の真理を見ていこうという立場であり、学問や教育の姿勢です。本当の理想は何なのかを学問として追求し、それを社会に還元していく、こういうものが大隈重信公が大学創設に際して説いた「学の独立」でもあります。
創造理工学部ではこうした考え方を特に大切にしています。なぜなら、人間の生活や社会と密接に結びついた専門分野を扱っているからです。私たちはそれを「実学」と呼んでいます。創造理工学部を構成する学科を見てみると、より分かりやすいかもしれません。建築学科は、住環境や都市空間の創造に加えて、耐震技術について研究するなど、人間の生活そのものに深く関わっています。総合機械工学科は、自動車や医療ロボット、宇宙構造物などの機械システムを創る技術を総合的に研究する学科です。経営システム工学科は、生産・物流・通信といった経営ともの作りに関わる全体システムを構築する方法論の研究を行っています。社会環境工学科は、地震や津波から人々を守る環境防災から、社会インフラの設計、まちづくりといった広い視点での社会に関するテーマを対象にしています。環境資源工学科は、エネルギー問題、環境汚染の問題などを含め、資源循環型社会、地球環境保全の実現を目指した研究を行っています。そして、社会文化領域の先生方が、創造理工の横断的な教育を担っています。いずれの学科も、物質、製品、環境や社会が、人間の生活に対して、どのような影響を及ぼすかを学び、人間生活を豊かにするための研究を展開していることが分かるでしょう。そう考えると、私たちは人間そのもの、そして人間の文化と社会に直結した研究を行っていると言えます。
Q 有賀先生は建築学科で都市設計・計画の研究をされているそうですが、やはり「実学」なのでしょうか。
私の研究テーマを一言で表せば、「住み続けられるまちづくり」です。少子高齢化社会、人口減少社会を迎えて、さまざまな問題が起きていることはご承知の通りです。いかにして時代や社会の変化に対応し、人間の生活に密接に関わる都市を持続するのか。どうやって住民にとって真に豊かな住環境を提供するのかは、都市計画にとって大きな課題です。都市計画というと、非常に大きなスケールの分野と考える方も多いでしょうが、私の専門は、人間が居住する身近な建築や都市の空間を、今ある住民の暮らし方や地域の個性を大事にしながら将来へ向かって向上させていく、そのための研究とまちづくりの実践が主なテーマです。特にここ10年ぐらい力を入れているのが、人口減少や高齢化時代にも持続できる都市の姿と仕組みを、計画やデザイン面から考えるテーマです。またこうしたテーマに沿って、国内だけではなくアジアの都市居住に関わるまちづくりデザインの研究を、さまざまな国の大学や専門家と協働して進めています。
さらに、アジア諸国は巨大地震や大型台風などによる自然災害の多発地域でもあります。その中で日本がアジアから学ぶことも多いですし、一方で日本がやってきたことをアジアの都市でどう具体化できるかということも、建築・都市計画の研究として大事だと思っています。自然災害による人命被害を少しでも減じるような都市づくりをどうするのか。人口減少とか高齢化を予見しながら、その中で都市が居住の場としてどういう姿であり続けられるのか。そんなことを研究テーマとして深め、その上で、実践的な市民協働のまちづくりの方法論、都市設計の具体的な基準、デザイン指針などに応用していく研究と実践をしています。
Q 具体的で実践的な研究をしていれば、就職先も引く手あまたなのでは?
おっしゃる通り、企業の方から「是非、我が社に入って欲しい」と言われる学生がたくさんいます。どの学科、専攻も多くの求人があり、就職先も多種多様です。 進学する学生も多く、修士はもちろん博士号を取得してから企業に就職する学生も増えてきつつあります。そうした学生のためにイノベーションやマネジメントを学べて、留学もできるプログラムも用意していますので、やる気のある学生にとってはもってこいの環境です。
Q 以上のような創造理工学部の特徴から考えると、どのような学生に入学して欲しいですか?
創造理工学部へ入学されるみなさんの基礎的な能力は極めて高いと思います。その上で、特にアジアのリーダーになれるような志向性を持ってほしいな、と思います。もちろん世界のリーダーになると言っても構いませんが、まずは自分たちのいるアジア地域で共通の社会的な問題や人間の生活に関わる課題に対して、その解決へと向かって牽引できるリーダーになれる学生ですね。また研究というのは答えがなかなか出ない中で続けなければならないものですから、短期的な解答をすぐに求めず、挑戦し続けられる学生ですね。
さらに言えば、人間の生活や社会を真に豊かにする分野は正解がひとつではない。ですから、自分の提案する中身をきちんと社会的にコミュニケーションできる人、これはきわめて大事です。それと、自分たちが大学で学んでいることを将来社会にどうやって活かしていくかということを常に考えて、そのために自分が何をしなければならないかという目標をしっかり持ち、アウトプットする発信力を高めて欲しいと思います。高校生の時まではインプットする吸収力が中心だったと思いますが、大学ではアウトプットを積極的にできる学生、発信力あるいは行動力のある学生であってほしいと思います。
Q これから創造理工学部を目指そうという人にメッセージをお願いします。
データで見ていただければわかりますが、研究教育、学生交流、スポーツ交流も含めて、ありとあらゆる領域で早稲田大学の国際的な交流や活動は、きわめて高いレベルにあります。海外の留学生を受け入れている数も、国際交流協定で国外に留学する日本人学生の数も多く、大学全体として非常に盛んです。創造理工学部を目指すみなさんには、受験だけではなく受験の先も見据え、ぜひ本当の意味での世界人になってほしいと思います。
グローバルということをよくいいますけれども、その裏にあるのはローカルなことがきちんとわかっていなければならないということです。つまり、ローカルというのは自分自身のことも含め、創造理工学部での勉強や研究のこと、さらに日本のこともわかっていないと世界人になれないと思います。そういう意味で、ぜひ受験生にはグローバルな世界人を目指してほしいですし、そういう意欲のある学生に来てほしいということはあります。創造理工学部生は毎日の実験や演習課題などで忙しい生活を送りながら、海外留学にも積極的に挑んでいます。創造理工学部を自分の起点にしながら、積極的に外にはばたいていけるような意欲をもってほしいと思います。