日本発、実用的な改善提案で
グローバルフィールドで活動を
経営システム工学科/経営デザイン専攻 教授 | |
吉本 一穗 | Yoshimoto Kazuho |
専攻分野 施設・ロジスティクス設計 2013年度インタビュー |
実務で使えるより良い改善提案を
私の研究室では、「ファシリティプランニング」つまり施設の設計を行っています。レストラン、オフィス等から工場に至るまで広い範囲のファシリティデザインを行っています。それから「ロジスティックデザイン」といってモノの動かし方、物流の研究をしています。
研究の柱としている理念は二点あります。その一つが「改善」です。新しいデザインを造る時には、今までよりも良いシステムを構築する「改善提案」を行います。
二つ目は「実務、プラグマティズム(実用主義)」です。研究成果は必ず実践できる形のアウトプットにして、実務で使えることを第一に考えています。
この二点を体現する「実践型プロジェクト」を学生とともに行っています。国内外を問わず、企業から実現したいテーマを出してもらい、企業にとって実利を得られるような改善提案をして、それを実際に企業に実践していただくというものです。国内のプロジェクトには1年生でもやる気のある学生なら連れて行きます。一度、現場を知ると、それ以降の授業への取組みも大きく変化します。私も自分の恩師から、現場を知りなさいと工場での実習を組んでいただきました。非常に良い体験ができたし、その後の研究にも大変有意義でした。私もその姿勢を受け継いで運営しています。そういう意味では恩師から受けた影響は大きいですね。
海外のプロジェクトでは、現地の学生も交えて行っています。例えばタイでは、コンケン大学の先生と合同で日系企業の工場に出向き、テーマをいただきました。意欲のある学生を数名連れて行き、コンケン大学の学生と合流し、プロジェクト活動を行いました。タイでは洪水の影響で1ヵ所の工場に業務が集中してしまったため、生産能力をあげるにはどうしたら良いか、というのがそのプロジェクトのテーマでした。しかも、お金をかけずにという制約の中でです。コンケン大学の学生や企業の現地担当者を交えてのプロジェクトですから、ディスカッションもすべて英語です。2~3週間で改善提案を出し、企業にも納得してもらいました。
また別のプロジェクトでは、提案した内容をアメリカの企業が取り入れてくれ、3カ月でこれだけの効果が出たと報告をくれたことがありました。このようにフィードバックがあると嬉しいですね。
数学を用いた厳密な結果予測
「経営」の学科というと、キャッシュフローの仕組みを学ぶなど文系の経営学科のイメージが強いかもしれません。工学的アプローチでは、数学をベースにしてモノの作り方を理解していきます。経営という場において、技術をどのようにして利用すればよいか、それを学べるのが本学科です。
例えば車の組立工場において改善提案を行う場合、一台目を組み立て終えてから次の一台が出てくるまでの時間を測ります。そのスピードを厳密に把握し、タイヤ一つを何秒で取り付けなければいけないのかを計算するのです。そこから一日の生産台数を増やすにはどのような手法が有効かシミュレーションをしていきます。
また、物流の場合、日本の家電量販店を例にとりましょう。ボーナス月に大きな売上げが見込めますから、それに合わせて日本に製品を運ぶ必要があります。定期航路のコンテナ船で運べば安く済みますので、どのタイミングでどの定期航路に乗せるのか、そのためにはいつまでに海外生産地でいくつの製品を作ればよいのかなどを提案しています。製品の数がコンテナに乗せられる数より一つでも多ければ、もう一艘船が必要になり、少なすぎれば空気を運ぶことになる。送り先についても、横浜に全て運んでしまってから国内各所へ送るのが安いのか、最初から九州、大阪等へ分散させたほうが時間とコストを節約できるのか、などのシミュレーションを厳密に行います。
このように、ファシリティデザインもロジスティックデザインも、数学に基づいたシミュレーションが大切です。これも恩師の教えなのですが、どのような研究も「結果が予測できなければダメ」というのが私のポリシーです。やりっぱなしではなく、必ず実践で役立つものを提案しよう、と学生にも常日頃から伝えています。
グローバルな活動をする学生に求められるもの
研究室では、大きく3つのテーマに取り組んでいます。「ロジスティックス」、「ファシリティデザイン」、「サービス」のセグメントに分けて、それぞれサブ研究グループを作っています。研究室の特色は、マスターの1年生が学部4年生を指導するという親子関係を作っている点でしょうか。上級生が持っている知識を下級生へ伝えていく形ですね。
毎年、夏から秋の終りくらいまでに合宿を行います。また、我が家をオープンにしてホームパーティもやります。合宿やパーティにはOBにも来てもらい、現役学生とコミュニケーションをとってもらいます。参加した学生は、OBと接することで大人との付き合い方を覚えて、言葉遣いや挨拶も大きく変わります。就職の情報もそこに集まりますから、有意義な情報交換の場になっています。
学生に求めることは、何にでも興味を持つことでしょうか。我々の分野では、例えば工場の設計をするためには情報分野にも強くなければいけないし、数学も分かっていなければいけないし、キャッシュフローもある程度理解していなければならない、というように、広範囲の知識が求められます。その知識の一つ一つが武器になりますから、学生にはオールラウンドプレーヤーになってほしいと話しています。とりかかりはそれらの武器のどれかひとつに興味があればいいのですが、興味の幅を広げていき、最終的には全てが使いこなせ、それらをマネジメントに生かせる人になってほしいと思います。
まずは数学が大切です。受験勉強でやってきた微分積分も活かせますよ。海外での活動が多いですから、英語も必須です。ゼミでは英語の文献を読みますし、ディスカッションも英語で行います。通訳が入るとワンクッション入るから正確とは言えないことも出てきますからね。下手でもいいから自分で話すことが大切です。
グローバルな活動を身近に感じているせいか、研究室の学生は、明日から海外へ行け、と言われても平気でしょうね。以前、突然にインドネシアで2週間の改善活動をやってほしいというプロジェクト依頼がありましたが、参加希望者を募ったらたくさんの人が手を上げました。
海外のプロジェクトでは活動が終わったあと、1~2週間一人で現地を旅行する学生もいます。プロジェクトはアジアで行われることが多いですが、わが研究室に在籍していた留学生が卒業後帰国していたり、日本人OBが日系企業等で働いていたりするので、その先輩方を訪ねることもあるようです。最近のプロジェクトの後も、数人でアンコールワットに行ってきたと聞きました。学生時代だからこそ味わえる体験です。
このように何にでも興味を持つ活動的な学生が、これからは必要とされると思いますし、私の研究室にぜひ来てほしいですね。