オイルショックと脱炭素時代
――資源エネルギーの転換点で石油工学を学ぶ

環境資源工学科 教授
栗原 正典 Kurihara Masanori
2022年度インタビュー

脱炭素時代にあって環境資源を学ぶ意義

私が大学でどのような学問を勉強しようかと考えていた受験生のときに、オイルショックが起こりました。世間は大パニックとなり、人々がトイレットペーパーを買い漁るのを目の当たりにして、石油が人々の生活に密接に係る重要なエネルギーであることを痛感し、大学で石油に関する勉強をしてみたいという気持ちが湧いてきました。あれから49年、社会は再びエネルギー問題に直面しています。環境負荷軽減から脱炭素に向けた動きが加速する一方、ウクライナ問題によってロシア産資源が制限され、エネルギー安全保障も確保しなければならない状況にあります。そんな現代で、エネルギーや環境を学ぶ意義は大きく、進学先の一つの選択肢になると思うのです。

石油工学では、流体力学等を応用し、地下から石油や天然ガスなどを効率よく取り出すための研究をしています。なかでも私の専門である貯留層工学は、地下の評価と資源開発の計画づくりを担当します。

いまだ役割の大きい貯留層工学を他分野にも応用

脱炭素時代でも石油工学を学ぶ意義は大きいと私は考えています。近年は再生可能エネルギーに期待が集まっていますが、我が国における再生可能エネルギーの利用は、発電では約2割、一次エネルギーでは1割にも満たない状況です。一方、石油や天然ガスはいまだ一次エネルギーの6割ほど。エネルギーの過渡期にあっても、今後十数年間は、石油や天然ガスの重要性は揺るがないでしょう。

また、新エネルギーの分野でも、石油工学の分野でよく用いられる地下の解析や流体力学の応用が可能です。例えば地熱は、地下にある高温の水や蒸気であり、これらは流体です。二酸化炭素回収貯留技術(CCS)やウインドファームでも同様で、地下や流体流動を解析・予測しなければなりません。したがって、これらのエネルギー開発や環境課題に対しても、石油工学の応用が可能であり、必要とされているのです。

石油工学では、資源を探す、掘る、採り出すなど、さまざまな役割がありますが、特に私の専門である貯留層工学では、効率よく資源を生産するための、地下の評価と開発計画づくりを担います。いわば司令塔なのです。そのため、どんなデータをもとに、どう考え、どう計画を立てるか、という経験を積むことができ、他のプロジェクトにも応用できます。
石油工学の最大の魅力は、見えないものを扱うという点にあります。地下の状況は、残念ながら直接見ることができません。大雑把な探査と井戸の位置でしか、正しいことがわからないのです。そんななかで、見えるものは物理的な視点から把握し、見えない部分は確率論や統計学、ひいてはAI等のモデルを用いて、想像しながら推定します。いわば「見えない敵との戦い」で、困難は伴いますが、相当に鍛えられます。

資源や環境の学びは人生のターニングポイントとなる

学生には、専門性、コミュニケーション力、人間力の養成が大切だと話しています。貯留層工学での専門性は、すなわち技術力で、物理・化学や数学を中心とした解析力が必要です。コミュニケーション力は、円滑にプロジェクトを進めるために欠かせません。まず相手の話をしっかり聞けること。次に自分の意見をはっきり相手に伝えられること。そして相手の背景を考えながら、ディスカッションできることです。そして人間力は、人間として好かれる人であることだと思います。人間力を説明するのはとても難しく、これには技術力も性格も能力も含まれますが、最終的に人として尊敬されることが大切ではないかと思うのです。

こうした力を養うために、3つのことを薦めています。一つ目は「まず自ら考える」こと。自分でしっかりと考え、自らの見解を出した上で、意見を聞くことが大切です。次に、基礎力を積み上げ、「理論的」に考え、議論できるようになること。最後に、国際性を養うこと。いろいろな地域の人と付き合うには、その地域の文化や社会背景を理解することが欠かせません。私が就職して初めて携わったプロジェクトは、インドネシアの国営石油会社と共同で行うもので、インドネシア人たちと一緒に仕事をしました。彼らは宗教もムスリムで、当然文化も人柄も違います。片言のインドネシア語を覚えて会話することもありました。深く付き合うというのは、相当に大変なことです。しかし時間を惜しまず付き合ったからこそ、得られたものもたくさんありました。「国際性=英会話」ではないことを理解し、「真の国際性」を身につけて欲しいと願っています。

いまエネルギーと資源の問題に注目が集まっています。地球環境を守るために、脱炭素への動きが加速する様は、私が大学生のときに勉強した、オイルショック後のエネルギー転換と似ています。エネルギーの過渡期にあって、環境保全や新エネルギーへの転換、求められる資源の変化など、従来とは違った資源開発が求められています。そんな現代で、資源と環境を学ぶことは、きっと人生のターニングポイントになると私は思います。