大学は社会の荒波に耐え抜く
自信をつけるための場所

環境資源工学科 准教授
古井 健二 Furui Kenji
2020年度インタビュー

岩盤・石油生産工学研究室では、次の3つの分野を研究の柱とし、地球環境と調和したエネルギー資源の開発を目指しています。
一つ目は岩盤力学(ジオメカニクス)。地球の表面を構成する岩石や土壌、そしてそれらに含まれる地層流体の力学的特性を研究する分野です。二つ目は資源開発における安全性の向上や環境負荷低減についての研究です。そして次世代のエネルギー資源開発に関する研究です。
例えば、アメリカで進められているシェールガス※やシェールオイルの開発では、「水圧破砕法」という生産手法が用いられています。これは高圧の水を地下に圧入することで岩盤を割り、き裂を生成することで坑井の生産量を向上させる手法です。私の研究室では2017年から、国内企業と共同で、環境への負荷の少ない生分解性樹脂を用いた水圧破砕技術の開発を行っています。
また、「出砂現象」という油や天然ガスの採取層の砂が、坑井内に流入してパイプを閉塞させる生産障害に関する研究も行っています。出砂は流体の流動と岩石の強度、そして地下の「応力」が関係して発生します。応力とは、外力により物体の内部に発生する力のことで、単位面積当たりの力として求められます。油ガスの生産により採取層の応力が増加し、岩石が耐えられなくなると、破壊し出砂が起こります。ノルウェーの研究機関SINTEF(シンテフ)と共同で、出砂解析のための数値シミュレーションモデルの開発を行っています。国産の次世代エネルギーとして期待が集まるメタンハイドレートの開発でも出砂対策は重要な技術課題となっており、私たちの研究が貢献できると考えています。
近年、地球温暖化対策の一つとして、二酸化炭素を回収して地下に貯留するCCS(Carbon dioxide capture and storage)という技術が注目されています。二酸化炭素は帯水層や枯渇した油ガス田などに圧入され、長期間安定的に貯留される必要があります。二酸化炭素の漏洩を防ぐ遮蔽層の健全性や流体の圧入による微小振動発生のリスク評価についての研究も行っています。
※浸透性の低い頁岩層(けつがんそう)から採取される天然ガス。

自力で挑戦するからこそ
自信がついていく

研究の面白さ、醍醐味を存分に味わって欲しいという思いから、研究テーマはそれぞれの学生の興味に沿って決定することにしています。また、研究活動から得られた経験を、自分を支える大きな自信として欲しいというのが私の願いです。
卒業後、学生が困難な状況に陥ったとしても、「自分なら大丈夫」と思えるような「よりどころ」があれば、社会の荒波の中でも生きていくことができるでしょう。
環境資源工学科では研究が始まるのは大学4年からですが、多くの学生が修士課程に進学するため、研究期間は3年になります。これだけ長い期間1つのテーマについて研究することは多くの学生にとって初めて、もしかすると人生で唯一の経験となるかもしれません。
研究で扱うテーマはどれも難しい問題ばかりです。まだ世界中の誰も答えが分からないような問いに対し、仮説をたて、実験やシミュレーションを繰り返し、試行錯誤しながら答えを導き出し、最後にひとつの論文にまとめあげるという経験、これが大きな自信になると考えています。
私は主体的に研究に取り組む学生の伴走者として、学生が研究に行き詰った時には、助言を与えたり、難しい問題については学生と一緒に考えたりするなどのサポートをするようにしています。
大学院生には、海外の企業や研究機関との共同研究やワークショップに参加したり、国際学会で英語で研究発表を行う機会をできるだけ与えるようにしています。
私自身、本学科在学中に、当時の指導教官からアメリカの大学で研究を続けることを進められ、テキサス大学オースティン校大学院へ留学し、修士と博士の学位を取得しました。様々な国や地域の学生が集まる多様な環境で勉強、研究した経験は私の人生の大きな財産となっています。英語は大の苦手でしたが、授業も研究も当然全て英語。最初はとても苦労しました。しかし、英語力のハンデはあっても早稲田大学で学んだ知識があれば、どの授業にも対応できることに気が付きました。環境資源工学科のカリキュラムの素晴らしさを実感し、自信を持ってアメリカでの研究生活を送ることできました。
卒業後もアメリカに残り、石油サービス会社を経て石油メジャーに就職しました。米国系企業は成果主義的な部分もあり、働く環境としては厳しい面もありましたが、出会った上司は素晴らしい人ばかりでした。様々なことに挑戦することを後押ししてもらい、明確な目標を立てて仕事に取組み、定期的に達成を評価してもらうことで、自信をつけることができました。この海外企業での勤務経験が、いま学生への指導に生きています。
広い視野を持ち、様々な問題に挑戦する姿勢を環境資源工学科で学んでほしいと願っています。

人類の命題に挑む
それが環境資源工学の使命

人類の三大命題は人口、資源、環境。そのうちの2つに真正面から取り組んでいるのが、環境資源工学です。近年、経済活動やエネルギー開発と環境問題を「白か黒か」で論じる風潮がありますが、資源と環境を1つの問題としてとらえ、両者の調和を図る視点こそが持続的な社会の形成にとって重要だと思います。人類にとって最大の課題を相手にしたい学生は、ぜひとも環境資源工学科に入学してください。充実した学生生活を送れるはずです。