建築と社会との相互作用を
多彩なアプローチで紐解く

建築学科 准教授
渡邊 大志 Watanabe Taishi
2022年度インタビュー

建築やデザインはいかに社会に貢献できるか

私の研究室では「建築社会論」を取り扱っています。建築と社会との関係を明らかにし、建築やそのデザインが社会にどう貢献できるか、どういう社会を作り出すことに貢献できるか、そして建築にいかに還元できるか、という視点で、建築以外の要素にも思いを巡らせ、論理的に扱う前提を持って研究に臨んでいます。そのため私の研究の多くは、建築以外のことから発想を得ているのです。具体的なフィールドは、建築意匠と都市インフラ史ですが、研究テーマも分野を越えて広範囲に及んでいます。詳しくは研究室のウェブサイト(http://www.f.waseda.jp/watanabetaishi/)を見ていただければと思いますが、その中からスケールの異なる4つのテーマをご紹介したいと思います。
1つ目は社会論です。そのなかで、コミュニティにおけるインフラストラクチャーを扱っています。人が集まる形式にもインフラがあり、それを空間として捉えているのです。
2つ目は建築考、いわゆるデザインです。設計は設計者が行いますが、その背後には設計者が属する社会の思想や文化、歴史観といった要素が必ず含まれます。そうした要素を「イデア」として積極的に捉えるよう試みています。また建築は美しくなければなりません。近代以降整理されてきた建築美を踏まえ、現代や近未来において、なにを美しいと思うべきか、について論理的に考えます。
3つ目は構法。建築物を作る仕組みには、部品の供給から集積、建築に至る過程があります。従来の日本の構法は、人口増加による住宅不足が課題だった1950〜60年代に作られたもので、現代とは真逆の社会環境です。そこで、現代に適した新しい構法を作り直すことに取り組んでいます。
4つ目は世界システムです。1つ目で扱うインフラよりも大きい視点で、地球規模で起きているシステムと陸上空間との関係性を考察しています。ここでは航路が都市経済空間に与えた影響などを調べています。

設計と研究、学問と演習が混ざり合う

研究室では、プロジェクトベースとリサーチベースの2つの方法で建築へアプローチし、設計と研究とが分離しないよう横断的に取り組めるようにしています。プロジェクトベースでは、外部の人たちとともに、建築デザインを設計。一方、リサーチベースでは、社会的に研究すべきテーマについて論文を執筆します。ここでは3つの具体的なコンテンツをご紹介します。
1つ目は目黒川の観光資源化プロジェクトです。目黒川は、三軒茶屋から品川にかけて流れていて、中目黒付近は桜の名所として有名ですが、それ以外の場所や時期にはあまり人が訪れません。そこで、目黒川一帯を1年を通じて人々が訪れる観光インフラにしようと試みています。例えば護岸にあじさいを植え、初夏に彩りを添えます。夏には近隣の品川宿でお祭りを開催し、新旧住民が交流することによるコミュニティの醸成を図ります。秋から冬にかけては、三軒茶屋銀座商店街でイベントを実施しています。

目黒川観光資源化プロジェクト

また、近くの児童公園では時計をリノベーションしました。装飾を施し、通常よりも1時間早い「地域時間」を設定。これにより、食料品店では、お弁当やお惣菜廃棄時間が、通常より1時間早くなります。これらを地域で買い上げ、地域に暮らす高齢者に配布すれば、見守りツールとしての役割を果たす。このように公園制度のリノベーションの中心にデザインを据えることで、社会福祉や地域振興への連動を実現しています。
2つ目は、Xover Productsというプロダクトです。学生たちがデザインしたさまざまなプロダクトがあります。共通点はあいまいなデザインであること。使う人が使い方を自由に想像することで、デザインに参入できる余白を残しています。よく「形態は機能に従う」といいますが、Xover Productsは逆の発想で、「機能は形態に従う」あるいは「形態は機能を刺激する」デザインとなっているのが特徴です。

渡邊研究室発のXover Products

3つ目は、オリジナルの地下工法の開発。従来の住宅規模での工法では、斜めに掘り進めるため、敷地の広さに限界のある住宅地では、階高の大きな地下空間を掘ることができませんでした。そこで、仮設の足場や構造体を必要とせずに垂直に掘る新たな地下工法を独自に開発しました。狭い土地でも大きな地下室を作ることが可能になりました。またこの工法の特許はあえて取得しませんでした。限られた土地の活用のためにインパクトのあるものなので、わたしたちの代わりに広めてくれるなら大歓迎です。

垂直に掘ることで狭い土地に大きな地下室を設けることが可能に

果たすべき役割や寄せられる期待は大きい

建築が果たすべき役割や建築に寄せられる期待はいまだ大きく、やりがいのあるものだと考えています。現代の日本では新築が立ちづらい傾向にあり、斜陽産業のように思われがちですが、世界的には新築への需要は高く、むしろ上向きの産業といえます。ですから、建築を志すのであれば、世界で活躍できる国際的な感覚を養ってほしい。
この感覚は日本にいながらも身につけられるものです。親や友達の影響や生活環境など、自分がどう育ってきたかの勝負になりますが、これは裏を返せば、誰でも対等に戦えるチャンスがあるといいうこと。国際感覚を養うためには、先入観を持たず幅広く興味を持つことが重要。高校までの時間は自分の芯をつくる本当に大切な日々ですから、有意義に過ごしてもらえたらと思います。