第二の創業を支える
プロセス改革のプロフェッショナル

富士フイルム株式会社
大西 健太 Onishi Kenta
棟近研究室
2020年度インタビュー

Q 仕事の概要を教えてください。

富士フイルムウエイ推進室という部署に所属しています。この部署の仕事は現場で起きている経営上の課題を解決すること。簡単にいえば社内コンサルタントです。工程改善・設計や、新商品開発支援、品質安定化、サプライチェーン改革、営業力強化など、さまざまな課題に取り組んでいます。
富士フイルムは社名に「フイルム」とあるように、写真の記録媒体であるフイルムやカメラの製造を主に手掛けていました。しかし、2000年頃から写真のデジタルへの移行が始まり、その煽りをもろに受けて事業が落ち込みました。このピンチをチャンスに変えて、「第二の創業」として多角化に踏み切りました。今では写真事業で培った技術を転用して、再生医療や医薬品、内視鏡、ディスプレイの高機能材料など、幅広く事業を展開しています。
現在も続く「第二の創業」。この中核を担うのがプロセス改革です。現状を観察し、何が大切かを考えて、プランを立てる。この考え方を当社ではPDCAならぬSTPD(See, Think, Plan, Do)と呼んでいます。この考えに基づき、あらゆる業務をゼロベースで見直し、ムダのないプロセスを作り経営に貢献することが、私の所属する富士フイルムウエイ推進室のタスクです。

現場と一緒に汗をかく
それが社内コンサルタントの魅力

Q 富士フイルムウエイ推進室の特徴は?

コンサル専門の企業と違って、提案することがゴールではなく、事業を軌道に乗せるための取り組みを、現場と一緒にやり切るところです。経営システム工学科で学んだ「経営工学」は、現場を見て回り、問題を掘り起こし、分析することを繰り返し、意思決定に役立つ定量的なデータを提示するということ。
コンサル事業会社には、別の良さがあると思いますが、現場が近いほうが力を発揮できると思い、今の会社を志望しました。
印象に残っているのは医療分野での新商品立上げの業務。医療分野はまだまだ前例のないことの多い領域。私がプロジェクトに携わった当初、現場では思うように実験を効率化できないことに苦しんでいました。さらに工程は技術者の手作業が多く、この状況を脱却しない限り、新商品の事業化には大きなハードルがありました。

そこで経営工学の出番です。

まずは、販売予測や工程分析から得た製造原価の情報から、プロジェクトの事業性を評価し、事業を成功させるための目標とターゲットを明確にすることが始まりです。

実験をするにしても、時間がかかりますから、できるだけ無駄を省きたい。そのために、実験計画法という手法を用いました。これにより、例えばある実験において、実験回数を従来の約1/20まで圧縮でき、品質の作り込みを加速させていきました。

作業の自動化では、単に動作をロボットに置き換えて自動化する方法では、コストが高く、採算が取れません。そこで動作ではなく機能に着目し、製造のやり方自体を改良して、将来の設備投資のロードマップを描いていきました。

このように、医療分野のような新しい領域では、経営工学が貢献できるフィールドが沢山あります。なにより、経営工学を駆使して、研究者の想いを形にしていくプロセスにはとても熱いものがありました。

行動を起こすことで
自分の未来は変わっていく

Q 現場を観察して対策を立てるんですね。

経営工学という学問のすごさは、大学で学んだ手法が現場でフルに活かせることです。しかし現場には常に問題がありますが、それは自分で足を運ばないと見えてこないし、解決には至りません。
現場を大切にするという視点は、棟近研究室で学びました。在学当時は業務フローの改善を提案するために、病院との共同研究をおこなったことがありました。これは看護師の後ろに付いて行動を調べ、評価し、効率を上げるというものです。研究室で考えていると棟近先生から「早く病院に行ってこい!」と怒られたものです。そうやって鍛えられたからこそ現場に足繁く通う癖がつきました。
また棟近研では「品質管理セミナー」という講義を受講できるのですが、そこではより深い実践的な手法を学ばせていただきました。技術の軸ができ、入社してから多いに役立ちました。

Q 経営システム工学科を志望する人に一言。

行動を起こすことを大切にしてください。私が経営工学と出会ったのは、高校の文化祭で「環境整備委員長」に志願したことがきっかけでした。環境整備とは要するにゴミ捨て係なので、学内のゴミ箱をどこにどれくらい配置するかを計画したのですが、結果は悲惨でした。
私が見立てを誤ったせいで、ゴミが溢れる事態になり、責任を痛感して大泣きました。それを見かねた先生が、「こんな本があるぞ」と手渡してくれたのが、経営工学を題材にした『ザ・ゴール』という書籍だったのです。私が取り組んだゴミ箱の配置は、経営工学の扱う「最適化」というテーマそのものでした。
その出会いのおかげで、私はいま学問を仕事に生かせています。それは自分から環境整備員に志願したという、自発的な行動の結果だと思っています。何事にもチャレンジ精神を大切にしてほしいですね。