土木は未来の社会を支える舞台づくり~
予防保全型メンテナンスへの転換

国土交通省 道路局 国道・技術課
道路メンテナンス企画室長
和田 賢哉Wada Kenya
建設工学専攻 2002年修了
宮原研究室
2023年度インタビュー

Q お仕事の内容を教えてください。

 橋梁やトンネルなど道路施設のメンテナンスを主に政策立案や制度整備を担当しています。昨今のインフラのメンテナンス分野においては、軽微な損傷の段階からこまめに補修することで延命化を図る「予防保全」の取組が急務となっています。これまでは損傷が深刻化してから補修する「事後保全」が行われてきました。しかし、損傷が深刻化してからでは、橋梁架替等の大規模補修工事を例に考えてみても、将来的には多くの費用を要する事態になってしまうだけでなく、国民生活の基盤を脅かす状況に陥ってしまうことは想像に難くないと思います。
 日本では多くのインフラ施設が高度経済成長期に建設されましたが、50年経過した現在において、当時建設された老朽化の進行に対応することは喫緊の課題であり、国民生活の基盤となるインフラ施設の安全性を確保するため、「予防保全」への転換が迫られています。
 しかし、「予防保全」への早期転換実現に向けて解決しなければならない課題も多くあります。特に財政規模の小さな地方自治体では、メンテナンスのための予算不足や技術職員の不足は深刻なため、国土交通省では国庫金による補助や、技術相談会や講習会を開催するなど、財政、技術の両面で支援を行っています。
 また、高齢化や生産年齢人口の減少に伴う担い手不足・技術伝承も課題です。その解決の一翼を担うのがICTやAIなどの新技術です。インフラの損傷を検知するセンサやドローン映像のAI解析などの民間が開発した新技術を国が率先して活用するとともに、地方自治体でも活用できるよう新技術のカタログを作成するなど、社会実装に向けて取り組んでいます。並行して情報データベースの整備も進めています。地方自治体や民間企業、研究機関がアクセスできる道路施設の諸元や点検結果などの情報データベースを公開し、道路管理の高度化を図るとともにマーケティング等の民間分野も含めたオープンイノベーションを促進する取り組みを進めるなど、産官学民が連携して、「予防保全」への早期転換を目指しています。

Q 入省からこれまでのキャリアは?

 平成14年に入省してから、本省の他にもさまざまな地方の現場に勤務しました。最初は福岡の国道事務所からスタートして、鹿児島、山形などの現場勤務を経験し、本省では港湾・道路の政策や公共事業の入札契約制度、整備局では組織・人事などを担当しました。本省・整備局・現場事務所間の異動を繰り返す中で、国の政策立案から工事・管理の現場まで幅広く業務に携わることができた経験と、地域性や文化の異なる組織で多くの方々と仕事を通じて知り会うことができたことは、自分の成長の糧となり、今の自分の大きな財産になっています。現在の職についてからは、仕事を進めるにあたり、その分野の専門家の大学教授や研究機関、コンサルタントのほか、地方自治体の担当者ともよく議論をして、現場でより良い運用ができる政策・制度となるよう心がけています。
 入省後22年目でこれまで12回の異動と8回の引越を経験しましたが、私自身は家族の理解もあり、引越には帯同してもらいました。異動回数は少なくない組織ですが、福利厚生も充実しているため特に問題なく、家族も良い経験になったと振り返っています。なお、異動に関しては、近年、家庭の事情や本人の希望が尊重されるようになってきており、政府を上げて取り組んでいる働き方改革が浸透し、働きやすい職場環境になってきていると感じます。

国土交通省で仕事をすることは、
未来の社会を展望すること

Q 建設会社やコンサルタントの道は考えませんでしたか?

 父親が海外の空港プロジェクトを担当する建設コンサルタントとして、世界を飛び回っている姿を見ていて、子どもの頃から憧れがあり、自然と父と同じ土木の道を選びました。大学院修了時に、海外事業を手掛ける建設コンサルタントと、外資系の経営コンサルタントとでどちらの進路に進むかを迷っていたところ、父から、「一度、国家公務員として社会を見てから後のキャリアを考えてみれば」とアドバイスをもらい、軽い気持ちで受験した国家公務員試験に合格してから、その気になり、国土交通省への入省を決めました。入省当時は社会人として一つ目のステップというだけで、将来的には次のキャリアアップを目指すつもりでいました。
 しかし、入省してみると、国土交通省での仕事に強いやりがいを感じるようになりました。土木というのは社会基盤をつくる仕事ですが、社会基盤は人々の生活や企業の経済活動を支える舞台であり、その舞台をつくるためには、社会活動の現状を把握するとともに、未来のより良い社会を展望する必要があります。それを踏まえて具体的に『かたち』にするため、インフラの仕様をコンサルタントや建設会社に提示するのは国の役割であり、これは省庁にしかできない仕事です。そこには大きな責任を伴いますが、一方で大きなやりがいと自分が関わることができる喜びを私は感じているのです。
 入省当時の思いとは裏腹に国土交通省で勤務し続けている私ですが、同期入省の仲間のなかには、国土交通省を退職し、建設会社やコンサルタントのほか、研究者や地方公務員、政治家として活躍している者もいます。国土交通省での経験は、間違いなく、その後のキャリアの礎になるものと考えています。

社会貢献や社会の仕組みに興味があれば、
ぜひ社会環境工学科へ

Q 早稲田ではどのようなことを学びましたか?

 宮原研究室で構造解析を学びました。境界要素法という構造解析手法で、コンピューター上でモデル化した地盤に地震動を与えてどのような挙動を示すかを自ら作成したプログラムで解析していました。
 今の仕事に直接役立っているわけではないのですが、自然界や社会の現象や課題に対して、解決策を検討し、仮説を立てて、現象をモデル化して検証するという、あらゆる分野で問題の解決に向けた理論的なアプローチの仕方を学んだのだと思います。
 学部時代も含めると社会環境工学科で学ぶ範囲は都市計画・構造・土質・水理などとても広いです。当時はサークル活動、アルバイト、海外旅行と、学生時代にしかできない経験をすることに励むあまり、勉強には真剣に取り組んでいた記憶はないのですが(笑)、土木分野のことなら、一通りの知識は頭の片隅に残っているため、今の仕事でも大変役立っています。土木の考え方や用語を少し知っているだけでも、仕事上必要な学び直しはしやすくなります。現在の職でも、実は20年以上振りに舗装の技術基準や設計手法を先日学び直したところでした。
 社会環境工学科の関わる分野は、人々の生活や経済活動を支える舞台をつくるためにあり、それを仕事にすることで、社会への貢献を実感できるとともに、社会の仕組みを学ぶことができる大変やりがいのある分野です。少しでも興味を持たれた方は、是非、進学を考えてもらいたいですね。