どんな状況下でも
着実に前進することが大切

総合機械工学科 学部 4年
野田 哲司 Noda Tetsushi
梅津信二郎研究室
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q どのような研究に携わっているのですか。

バイオエレクトロニクスの分野で、「薬効評価システム」の開発に携わっています。そのなかでも私が扱っているのは、薬品が心筋細胞に与える影響です。
薬品の開発では毒性試験というものを行います。薬効が不十分だったり、予期しない副作用が出たりすると、開発は失敗とみなされますが、ネックになるのが「心毒性」の判断です。これは心臓に悪影響を与える毒性のことですが、患者の心臓には個体差があるので、実験の絶対量が必要です。とはいえ、試験段階の薬品を多くの人で治験することは倫理的に問題があります。そこで活用されているのが、山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したことで知られるiPS細胞。人体には心筋細胞や神経細胞など、様々な種類の細胞があります。iPS細胞の特徴は、それらのような様々な細胞へ人工的に変化させられることです。ポーカーで言うジョーカーのような働きですね。梅津研究室では、iPS細胞から作製した心筋細胞を使って実験を進めています。
さらに測定機器にも工夫が必要です。心筋細胞の挙動は電極を使って測定するのですが、通常の電極は細い針のような形状をしています。しかし、心筋細胞はとても小さなものなので、従来の電極ではその挙動を正確にモニタリングできませんでした。
この課題に対応するために、梅津研究室では非常に薄いシートのような材質に電極を埋め込んだ「フレキシブルエレクトロニクス」を使用しています。フレキシブルエレクトロニクスは、シート全体が電極の役割を担います。心筋細胞をこのシートに貼り付ければ、詳細な挙動を計測できるのです。
新薬の開発には莫大な費用がかかることで知られていますが、その75%は実験の失敗によるものと言われています。これらの研究によって実験を効率化することで、コストの大幅削減にも貢献できます。

生物のメカニズムは
想像をはるかに超える

Q この研究を選んだ理由は?

総合機械工学科に入学した当初は、自動車や飛行機のような、「機械科」と聞いてパッと思い浮かぶような研究をしたいと思っていました。そんな私がバイオエレクトロニクスに行き着いたのは、総合機械工学科で提供される生命系の授業がきっかけでした。医療系分野を専門とする教授が在籍しているからか、それらの講義も多く、生物や身体の面白さに気づかされたのです。
私が特に心動かされたのは、人間の身体が持つ精密な仕組みです。
たとえば心筋細胞にはイオンチャネルという機構があります。細胞膜の内側と外側にある電圧の差を利用して、細胞が門のように開いたり閉じたりするのですが、イオンチャネルが開くのは必要な物質を通すときだけです。驚くべきことに、これは数ナノメートルの単位で行われます。
現代の技術で同じサイズの機構を作るのは至難の業。機械科にいながら人体について学べるのが、バイオエンジニアリングの楽しさですね。

どんな状況下でも
やるべきことは変わらない

Q コロナ禍での研究の進捗は?

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、現在は自宅で研究を進めています。実験ができないので、代わりに理論面の研究を進めています。現在調べているのは電気化学の論文で、培養液に入った細胞に電気刺激を与える際の知識がまとめられたものです。
自宅で研究していると、周りの状況がわからず焦るときもあります。そんなときは、小さな目標を立てて着実にこなすことを心がけています。
作業計画の立て方には、趣味のウエイトトレーニングが役立っているかもしれません。たとえば100kgのベンチプレスを上げようと思って、がむしゃらに鍛えても目標には到達しないものです。80kg、85kg、90kg…と目標を細かく立てて、毎月、毎週、毎日やることに落とし込んでいく。地道な努力を継続することが大事なのです。
研究も同じです。その状況下でやれることを着実にこなすことによって、大きな成果につながるはずです。
私の将来の目標は、大学院在学の間に『NATURE』や『CELL』などの有名学術雑誌に論文が掲載されることです。そのためには、立ち止まっている暇はありません。現在の状況下で可能な目標を立て、ひたすら前進あるのみです。そしていつの日か、世界を変えるような、スケールの大きなものづくりを成し遂げたいと思っています。