人の記憶にも残るインフラを自ら設計する

社会環境工学科 学部3年
篠崎 郁司 Shinozaki Yuji
小野研究室
2022年度インタビュー

実験と分析で新たな素材の有用性を研究

Q 社会環境工学科を志望した理由を教えてください

高校以前からものづくりに興味があったため、理系の学科を探しているなかで、学部のパンフレットを見たときに、橋梁や街をつくる勉強ができることに惹かれたのを覚えています。旅行で出かけた先でも、その街に架かる橋を見に行くことがよくあります。インフラは皆の目に止まり、人々の記憶に残るものであるだけでなく、誰しもが公平に使うことができるというところにも魅力を感じています。

Q 現在の研究内容について教えてください

鉄の橋梁を専門に扱う小野研究室に所属しており、橋脚の隅角部を研究しています。隅角部とは、橋脚の折れ曲がった部分のことで、このような形の橋脚は首都高速道路のような、狭い敷地に橋梁を作るときに多く用いられています。近年、新しい鉄の素材が登場したことで、いままでよりも扱いやすく、強度の高い-より正確に言えば加工性や粘り強さが向上した-ものが作れるようになりました。その鉄の性質を調べ、どうしたら経済的に橋梁を作れるのか、実験と解析から明らかにしているところです。

実験では、実物大の隅角部のモデルを作り、折り曲げたり壊したりして、その性質を確かめます。また解析では、実験で使ったものと同じ橋をパソコン上で再現して、さまざまなシチュエーションを試していきます。ここで得られた設計方法は、実際の建設時に使う技術基準である、道路橋示方書に使われる予定です。

学びが深くなるほど見ている景色の意味がわかる

Q 印象に残っている講義はありますか

この学科の学びを通して、自分が普段何気なく見ている風景が、だんだんと理解できてくるところに面白みを感じます。例えば、新湊大橋という大きな橋があります。この橋は2本の塔からケーブルが出ているため、一見すると吊り橋のように見えますが、実は斜張橋という別の種類の橋なのです。吊り橋では、内側に倒れこもうとする塔を外側に引っ張るケーブルを固定するアンカーという大きなコンクリート塊を設置しなければなりません。ですが、斜張橋ではアンカーが必要なく、桁下がすっきりとした景観を実現できます。このように橋の違いがわかったり、なぜこの形にしたのかが何となく分かってきたりします。

面白い講義はいくつかありましたが、なかでも3年生で受講する「設計演習」はとくに印象に残っています。1・2年生までは、広く土木に関する汎用的な知識を学ぶ講義が多いのですが、3年時のこの講義では1・2年で学んだことを使って、実際に橋梁を設計しました。長さ100mある距離の地点間に、コンクリート製の橋梁をかけるという課題が課されました。

橋の下に川が流れていると仮定すると、水の流れを阻害しないために、橋脚の本数は少なくしないといけません。しかし、橋脚の間を広げすぎると、橋桁が高くなるため不格好です。そのため、橋桁をできるだけスリムにしながら、橋脚の数を増やさないように試行錯誤するのです。実際に設計してみると、これまで学んできた知見が意外なところで活用でき、特定の数値を変えるだけで、橋脚の間を広げられるなど発見が多く、設計の面白さが詰まった講義でした。

新湊大橋と設計演習で制作した図

自分が設計したものが社会の役に立つという魅力

Q 学業以外で打ち込んでいることはありますか。

大学2年生の春に、はじめての緊急事態宣言が出されました。その直後の1ヶ月間、講義もなく、一人暮らしの家からも出られないという時間がありました。そこで、鉄道模型のジオラマを作ることにしたのです。地元を走る富山地鉄の富山駅をモデルに、実際の1/150のサイズで再現しています。2年たった今もすこしずつ拡張を続けていて、最近になって建物に電気をつけられるようになりました。ピンセットを使うような細かい作業が多いですが、実際にものをつくれる感覚は、とても面白みがあります。

富山駅のジオラマ

Q 社会環境工学科のどんなところを高校生におすすめしたいですか

社会環境工学科では、計画・構造・防災の3つの分野を学びますが、相互に関わり合いながらいずれもまちづくりを担う領域です。日本では多くのインフラが高度経済成長期に作られました。これらの構造物は建設から半世紀ほどが経ち老朽化が進んでいます。今後は、新設のみならず、こうしたインフラの維持管理も重要となってきます。社会インフラを整備し、まちづくりをしたりすることで、社会の役に立ちたい人には、おすすめの学科だと思います。