施設の混雑状況を
数分で把握するシステムを開発

経営システム工学専攻 修士2年
高橋 空悟 Takahashi Kugo
高橋研究室
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q 学部の卒業研究が話題になったそうですね。

富士通研究所との共同研究で、空港やイベント会場などの混雑原因を短時間シミュレーションできるシステムを開発しました。この成果は富士通のプレスリリースで発信されています。
皆さんもさまざまな施設で、混雑によって不快な経験をしたことがあると思います。実は、混雑の原因って、よくわかっていないのです。今回開発したシミュレーションでは、シミュレーション上に表現した混雑の要因を明らかにする技術を開発しました。
シミュレーションの概要はこのようなものです。仮想空間に店舗や通路、看板などを配置し、多くの人が動き回るような環境を構築します。人々はいくつかのタイプに分かれ、その行動特性に基づいて動きまわります。たとえば「飲食店に行きたい」「ATMに行きたい」といった「選好」を持っているのです。
この時、人間は黒点で表示されているので、画面上は無数の黒点がうごめいているように見えます。黒点が集中する場所は混雑していることを意味しますが、その原因は実にさまざま。たとえば看板の位置が悪いと周辺に人が集中します。また通路で立ち話をしている人がいると、これが邪魔になって人が溢れてしまいます。
解析結果は文字列で出力されるのですが、これまでの解析方法では人の行動が事細かに記録されるので、文字列が膨大な量になっていました。混雑原因の特定にはとても長い時間がかかります。
これに対して、私は人の行動を自動で分類する仕組みを作りました。空間内で人がとる行動をいくつかの共通項でまとめることによって、混雑に巻き込まれた人だけが入る特定の項目がわかります。この項目こそが混雑の原因なのです。
学部時の研究ではもっぱら仮想空間を対象にしていましたが、修士では実際のイベント会場で収集されたデータを使って分析しています。シミュレーションから出力されるデータと実データが似ているので、同じ手法が実データにも使えることが判明したからです。今後はその分析結果を、データ収集を行ったイベント会場のシミュレーション開発に役立てる予定です。

社会シミュレーションは
いずれ欠かせない技術になる

Q この研究を選んだきっかけは。

学部1年の頃、研究室紹介で高橋研究室を訪問してシミュレーションを初めて見ました。行き交う人の流れを予測することができる。これは面白そうだと思ったのです。 シミュレーションは人の流れを視覚的に再現できるので、役立つことがよりクリアにイメージできました。その技術が役に立つのは意思決定の場です。現場の課題に対して複数の対策を講じた場合に、どの対策が最も効果的かをシミュレーションで明らかにすることができます。そこで提示されるのはあくまで可能性であり、確実に起こる未来ではありません。しかし誤った判断を下すリスクを減らすことはできるはずです。
私のように実社会を扱うのは「社会シミュレーション」というのですが、この分野はまだメジャーでなく、ビジネスの現場に浸透していません。シミュレーションはまだまだ発展途上。しかしこれまで「なんとなく」決めていたことが、これからは定量的にわかるようになっていきます。いつか多くの人々が使う時代が来るかもしれません。

経営システム工学科なら
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Q 経営システム工学科を選んだ理由は。

扱う分野が幅広いので、就職の際に選択肢が多いと思ったからです。私は付属校からの進学なのですが、早稲田大学に進学した先輩から、大学の様子を聞く機会がありました。そこで経営システム工学科について知りました。当時は理系に進学することは決めていましたが、将来何になるかは決めていなかったので、就職先の多様さで知られる経営システム工学科なら将来の選択肢が広がるだろうと思いました。また実社会で活かせる手法を学べるので、どの業界でも使えるスキルが身につくだろうと思ったのです。
実際に入学するとイメージ通りというか、たとえば人間工学や統計の授業では、実社会で遭遇する現実の課題に対して手法を用いる観点で行われていました。1、2年では数学や物理の授業もありましたが、入学前の印象とのギャップはほとんどなかったですね。

Q 将来の展望は。

データ分析を強みとするコンサル会社で、データサイエンティストとして働く予定です。この仕事は近年注目が集まっている仕事です。研究ではデータの分析作業が楽しかったので、データサイエンティストしかないと思いました。
就職後はクライアント企業に派遣され、その社内で仕事をしていくことになります。さまざまな業態・業種の会社に入り込んで実務経験を積めるので、これが入社の決め手になりました。社会がどのように変化しようと、動じないほどの自信を付けたいと思います。