建築を使う側の身になることで
自分だけの設計が可能になる

建築学科 学部3年
笹原 瑠生 Sasahara Rui
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q 印象に残る授業を教えてください。

早稲田の建築学科は、建築物のデザインを設計する意匠系、建物の安全性や耐震性を担保する構造系、室内外の快適性を設計する環境系、都市や地域の開発を扱う都市計画系、そして建築史に分かれます。幅広い授業が特徴ですが、その中で特に興味があるのは都市計画の分野です。
都市計画の授業である「都市設計製図2」では、3人組で理工キャンパスの周辺を散策し、特に気になる地域を見つけ、その地域を改善するという課題がありました。
私は班のメンバーと大学の周辺でフィールドワークを実施し、戸山3丁目を改善対象に選びました。
このエリアを選んだ理由は土地の持つ歴史です。
戸山3丁目にある戸山公園では、戦後の混乱期に住む家を失った人や大陸からの引揚者がテントを張り、土地を不法に占拠していました。そのような歴史を持つ土地だからか、近年までホームレスが集住していました。
しかし現在、ホームレスはほとんど残っていません。退去を余儀なくされたのです。これは東京都の政策によるもので、防災機能を強化するために戸山3丁目全体を公園化し「大規模救出活動拠点」とする都市計画の一環です。住民の立ち退き交渉も徐々に進んでいます。
都に買い取られた土地は緑地や小規模な公園に姿を変えていますが、住民はそこに自分たちで花を植えたり模擬店を出したりして、共有地のように利用していることが聞き取り調査でわかりました。
私たちはそれらの空間を、戦後から続く戸山3丁目の土地柄であり、地域のコミュニティであり、庭でもなければ公園でもない中間的な空間でもあると捉えて「間合いの緑地」と名付けました。

二年設計製図

私たちは50年後の戸山3丁目の開発プランを構想しました。街路のいたるところに「間合いの緑地」を持つ集合住宅を設計することで、それを起点として集合住宅の内外を繋ぎ、あらゆる世代が交流できる仕組みを考えたのです。
建築学科では課題の優秀者が壇上で評価されるのですが、この課題で私たちの班が壇上に登ることができました。

全国各地に足を伸ばし、
建築物を使う人の「生の声」を聞く

Q 自発的に取り組んでいることを教えてください。

夏季や冬季の休みを利用して、日本各地の建築物を見に行っています。たとえば安藤忠雄氏が設計した瀬戸内海の直島にある「地中美術館」。谷口吉生氏が手がけた山形県酒田市の「土門拳記念館」。同じく谷口氏の石川県金沢市にある「鈴木大拙館」。そして、那須芦野にある隈研吾氏の「石の美術館」。気になる建築を見つけるたびに、実際に足を運びます。
どの建築物を見るときも大切にしているのは現地の人との会話です。特に警備員の方からよく話を聞くようにしています。なぜなら彼らは日々建物を見て回るのが仕事で、建物の隅々まで把握しているからです。ときには1時間近く立ち話をしてしまうこともありました。
特に印象に残っているのは、ある建物を見に行ったときに聞いた話です。その建物はファサードがガラス張りなのですが、太陽光を反射して冷暖房費が余分にかかってしまうという不満でした。かなり率直に言われたので、建築を学ぶ者としては身につまされるというか、内心ヒヤリとしました。
耳の痛い意見を聞くこともありますが、実際にその建物を使っている人々から話を聞くことで、「生の声」を知ることができます。それは大学の授業にはない情報なので、私だけの武器になるはずです。デザインと機能とのバランスのようなものを学び取りたいと思っています。気兼ねなくまた建築旅行ができるように、新型コロナウイルスの収束を願うばかりです。

建築学科は多士済々
自己研鑽を欠かさないことが大切

Q 設計の難しさをどんなところに感じますか?

コンセプトを具体的な建築の形に落とし込むところです。設計の授業は基本的に「アイデアを形にする」ことの繰り返しで、基礎的な授業では、ドアノブや手すりなどの建築部材をデッサンしたり、小さな模型を作ったりします。しかし授業のレベルが高くなってくると、頭の中のアイデアを建物という複雑な構造物全体で表現します。なおかつ安全性・耐震性を担保しなければなりません。それらを両立させるのが難しいのです。
特にCADやRhinocerosなどの設計ソフトの操作が苦手なので、周りの人に遅れをとっているような気がして不安です。建築学科の学生数は約170名。意匠設計が得意な人やプログラミングが得意な人など、優秀な人ばかりです。自己研鑽を怠るとすぐに埋もれてしまいます。課題はいつも睡眠時間との戦いですが何とか食らいついています。 きつい日々の中で気持ちが折れないのは、建築の分野で活躍したいという想いがあるからです。
まずは大学院に進学し、建築設計をさらに深く学びたいと思っています。それにはまず、研究室を決めないといけません。実は、意匠系と都市計画系で、研究室に悩んでいます。どの授業も面白くて方向性が一つに定まりません。自分がどうしたいのか後期の授業を受ける中で、よく考えて進路を決めたいです。