大気中マイクロプラスチックの実態を明らかにする
世界最先端の研究に挑む

地球・環境資源理工学専攻 修士2年
藤川 真智子Fujikawa Machiko
大河内研究室
2022年度インタビュー

好きだった物理を中心に、
研究の選択肢を広げられる学科を選択

Q 現在取り組んでいる研究の内容について教えてください。

マイクロプラスチックについて、香害を主軸に環境や健康への影響について取り組んでいます。マイクロプラスチックは、直径5mm以下の微細なプラスチックごみを指し、最近では大気中にもマイクロプラスチックが飛散していると言われており、人体への影響が懸念されています。

そのうちの1つが香害です香害は、合成洗剤や柔軟剤、香水などによって引き起こされるとされていて、ひどい場合には化学物質過敏症を発症します。頭痛やめまいなどの症状がみられ、通勤や通学ができないといった生活に支障が出ることもあり、近年社会問題として取り沙汰されているのです。

同時に環境への影響も懸念されています。洗剤や柔軟剤などで香りを持続させるために、マイクロカプセルというプラスチックが使用されていると言われています。そうした洗剤や柔軟剤で洗濯した衣類を干したり着たりすることで飛散し、大気中マイクロプラスチックの発生源となる可能性があるのです。

ところが香害による被害が実際に起きているものの、原因が特定できておらず、発症した方も周囲から理解が得られない状態でした。そこで研究では、柔軟剤中のマイクロカプセルを顕微鏡を用いてその量や材質について調査。その後、洗濯物を干したときにどの程度大気中に飛散するのか、室内干しをした部屋の空気を吸引する実験を行いました。

マイクロカプセルは、直径数μm~数千μmの大きさです。人の髪の毛の太さは100μmなので、非常に小さいものが多く肉眼では確認できないものが多いです。室内干しの実験では、空気からはマイクロカプセルを発見できなかったものの、床や棚などに両面テープを付着させその表面を調べたところ、マイクロカプセルと思われる物質が発見されました。

この研究は引き続き後輩たちが取り組むことになっています。

世界最先端の研究に携われることに魅力

Q この研究に取り組むことにした背景について教えてください。

一番の決め手は所属研究室の担当である大河内先生の講義がきっかけです。講義では、海洋ゴミ問題解決を目指すプロジェクト「オーシャンクリーンアップ」を高校生ながら立ち上げたオランダのボイヤン・スラット(Boyan Slat)さんの活動について紹介していました。若い頃から積極的に活動されている様子に感銘を受け、マイクロプラスチック問題の解決や実態解明で貢献したい、と思うようになりました。

また大河内先生は、世界でも例が少ない大気中マイクロプラスチックの研究に取り組んでおり、ここであれば世界最先端の研究に携われるのではないかと考え、大河内研究室に進みました。その後大河内先生と話す中で、香害のことを知り、実際に健康被害を遭われている方に聞き取り調査をするなかで、まだ解明されていない科学的根拠を示すことで、被害に遭われている方に少しでも役立てたらと思い、研究に取り組むことにしたのです。

Q 所属している大河内研究室はどんな雰囲気ですか。

アクティブで上下関係なくアットホームな雰囲気です。大河内研究室では、さまざまな環境問題について取り扱っていますが、多くの学生が実態調査のためにサンプリングを行います。サンプリングでは、人手も必要なため、自分の研究以外のサンプリングにもお互い協力しながら取り組んでいます。

サンプリング先も全国各地に行っていて、富士山麓や神奈川県大山、福島県などに行きます。各地で先生がご当地の美味しいものをご馳走してくれるなど、学生への楽しみも作ってくれるのが、うれしいです。

サンプリングの様子(富士山麓太郎坊にて雨・霧水などサンプリング)

サンプリングの様子(福島県森林内の放射能汚染調査の様子、防護服を着て川砂や落葉を採取)

国際的な交流で視野を広げるきっかけに

Q 研究以外に学生生活で取り組んだことはありますか。

課外活動で、ASEANと日本の学生が海洋プラスチックゴミ問題についてディスカッションするプログラムに参加したことは印象に残っています。本来であれば学生の間に留学したかったのですが、コロナの影響でそれが叶わず、そうしたなかで国際的にディスカッションできることに魅力を感じ、参加しました。

ディスカッションでは、海洋プラスチック問題への課題や解決策をまとめ、政策を提言しました。日本ではあまり緊迫感が低く捉えられがちですが、ASEANではプラスチックが排水溝を塞ぎ洪水になるなど、大きな被害が出ているそうです。同じ問題でも地域ごとに捉え方もアプローチも異なることを肌で感じ、視野が広がるきっかけになりました。

またこの問題を知ってもらう活動として、各地域の小学校や高校で授業を行いました。生徒たちからは鋭い質問も多く、実際どうなのか、と自分自身も気付かされる内容も多くあったほか、生徒たちが予想以上にいろんな知識を持っていて、積極的に学んでくれていたのが印象的でした。

Q 卒業後の進路について教えてください。

環境省への入省が決まっています。国際的な視野を持って、より深い環境問題への取り組みができることを楽しみにしています。

「日ASEAN協力宣言プロジェクト」の宣言式にて(左から7人目藤川)

「日ASEAN協力宣言プロジェクト」の宣言式にて(宣言文を読み上げる様子)

母校の広島なぎさ高等学校でのzoom講演会の様子(「広島ASEAN・エコスクール」プロジェクト)