真に環境負荷の低い紙包装資材を再考
製造工程での課題を解決する設計指針を策定

経営デザイン専攻 修士2年
陳 愉寧 CHEN, Yuning
棟近研究室
2022年度インタビュー

品質改善と環境保護の観点から紙素材を見つめ直す

Q 現在の研究内容について教えてください。

品質マネジメントの領域で、紙素材で作られた食品包装資材の設計指針に関する研究に取り組んできました。近年、環境問題への社会的な意識の高まりから、企業にも環境負荷軽減に向けた取り組みが求められています。その対策として、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進に向けた動きが広まっています。

なかでも注目されているのが紙素材です。現在でもすでに茶葉やコーヒーなどを封入する包装資材として紙素材製品が多く使用されています。多くの場合は紙とフィルムを組み合わせたものが多く、フィルムの間に紙を挟む構造の製品もあり、一見すると紙由来に見えないものも多くあります。

とくに原料のうち、紙素材が50%以上を占める場合に表記が義務化されているのが、紙マークです。これは循環型社会構築を目指すべく制定された「資源の有効な利用の促進に関する法律」により2001年に登場しました。このような背景から、紙マークが記載された製品は一般的に、環境負荷軽減につながるとして、各社で積極的に採用されています。

ですが紙素材製品にはいくつかの課題があります。1つは、紙素材製品が環境負荷を軽減できているか、という点です。これについては、紙素材が占める割合の異なる3つのパターンを設定し、環境影響評価(ライフサイクルアセスメント・LCA)を実施。原材料調達から最後の廃棄までのライフサイクル全体に対し、CO2の排出量についてシナリオを立てて検証しました。その結果、紙素材包装のCO2排出量は少なかった一方で、紙の分量を必要以上に増加させた場合には、かえって環境負荷がプラスチック製品を上回る場合もあり、紙マークに固執しない素材構成が必要だとわかりました。

もう1つは、紙素材製品の品質や生産効率など製造上の課題です。紙素材製品は急速に普及した一方で、品質改善できる課題が多く残されています。そこで工程基準や使用条件を反映し、包装資材の設計から製造に至る一連のプロセスを整理。各工程ごとに発生しうる課題を抽出して、情報の標準化、不具合の未然防止、工程の最適化という3つの指針を策定しました。ここで取り組んだ指針は、共同研究先の企業で、実際の製品開発や品質改善に生かされています。

共同研究に積極的に取り組む棟近研究室

Q この研究に至った経緯を教えてください。

もともとは製品の品質に関心がありました。日本は高品質な製品が多く、どのように品質の改善が行われているのか、興味があったのです。なかでも包装資材は、私たちにとって身近なものであり、研究対象としての面白みを感じました。一方でSDGsに代表されるように、環境配慮の重要性が社会的に高まるなかで、包装資材と環境問題をかけ合わせることで、高品質で真に環境負荷の低い製品が実現できるのではないかと考えました。

Q 所属している棟近研究室の特徴や雰囲気について教えてください。

棟近研究室では、ほぼすべての学生が企業との共同研究に取り組んでいることが特徴です。学生時代から企業と一緒に研究に取り組めることは大きな魅力ですし、研究で培ったノウハウは後のキャリアに生かせると思います。棟近先生は優しく面白いところもあり、学生と一緒にごはんに行くこともしばしば。先輩方も仲良しで上下の意識がなく、ボーリング大会を企画するなど、勉学だけでなく私的な交流もさかんです。

周囲が助けてくれる環境は自分自身への挑戦に最適

Q 留学に来た経緯と日本での生活について教えてください。

中国の大学受験で良い結果を出せなかったため、自分に新たなチャンスを与えたいと思い、留学することにしました。以前から日本が好きでよく旅行でも訪れていたので、留学するなら日本だと思ったのです。それから1年間語学学校で勉強した後、早稲田大学に入学しました。オープンキャンパスでは、学生たちが楽しそうに過ごしている様子を見て、そのにぎやかな雰囲気に惹かれました。実際に入学してみると、チームワークで取り組む機会が多く、人と人とのつながりを感じる瞬間が多くあります。

Q 早稲田大学を志望する留学生にメッセージをお願いします。

早稲田での学びは学会や共同研究など、学内にとどまらない広い範囲に及んでいます。そうしたなかで、いろんな人たちとのつながりを大切にし、信頼関係を築くことは貴重な経験です。同期や先輩、先生もみんな優しく温かい雰囲気で助けてくれるので、自分自身に挑戦する環境としては最適だと思います。