起業スタートアップ企業と事業開発について
研究と実践の両側から学ぶ

経営デザイン専攻 修士2年
※経営システム工学科 卒業
安井 丞 Yasui Tasuku
鬼頭研究室
2022年度インタビュー

見過ごされてきたデータから役立つ知見があるか探索する

Q 現在の研究内容について教えてください

スタートアップ企業とその企業に投資する投資家との関係性から、企業や投資家の成功の鍵となる分岐点について、一般公開されている企業概要文や財務情報などのデータから分析しています。スタートアップ企業とは、最先端の技術を用いてサービスを提供する、創業間もない企業を指します。短期間で急激な成長を遂げ、その結果社会に変革をもたらすような大きなインパクトを残す企業もあります。

一方で多くのスタートアップ企業は、大企業と比べて資金や人脈が乏しいのが現実です。そこで、投資家が投資することで、スタートアップ企業を支援し、事業の成長を後押しするのです。成功するスタートアップ企業の裏側には、それを支えた投資家の存在があり、持ちつ持たれつな関係性を築いています。この成功と失敗の差にどのような要素が存在するのか、取得できるデータをもとに分析し、その分岐点を探るのです。

学問領域としては「複雑系」というもので、要素と要素とのつながりを見出して、全体としてどう動いているのか明らかにするところが、この研究の重要な視点です。経済活動も生態系を応用してエコシステムと呼ぶことがありますが、さまざまな企業のつながりをひとつの生態系のように捉えて研究しています。

Q この研究の魅力はなんですか

スタートアップ企業の活動には、1社の企業を超えた営みがあると考えています。彼らは自身の成長によって、これまでなかった価値を見出し、新しい産業を作り、雇用を創出し、社会に還元する、いわゆる「開拓者」のような存在です。そういう対象を見るなかで、これまで掘り起こされてこなかったようなデータから、役立つ知見があるのか、探索し追求するところに面白さを感じます。

起業する学生が身近にいて刺激をもらう

Q なぜ経営デザイン専攻を選んだのでしょうか

オープンキャンパスでの展示で経営工学に初めて興味を持ちました。「かき氷ゲーム」という、仕入れと販売のシミュレーションゲームで、どの味をいくらで、どれくらいの数量を出すか、自分で戦略を考えるという内容です。それまで、商品を買ったり売ったりする裏側がどうなっているのか、身近なことですが考えたこともありませんでした。企業がどのような戦略をとるか、それによってどのような影響が波及するか、自分の視野にはなかった広がりを感じたのです。

それまで経営への漠然とした興味がありましたが、経営的視点と工学的視点を融合し、数理的なアプローチで解決していく学問がある、とそこで初めて知りました。それがきっかけとなりより良い社会システム全体の構築を通じて、社会に貢献したいと思うようになり経営システム工学科へ入学し、さらなる研究を行うため経営デザイン専攻へ進学しました。専攻のなかでは、よく経営システム工学が対象とするシステムは、社会における機能システム全般である」と聞きます。会社の経営だけでなく、交通や物流、情報ネットワークなど、あらゆるシステムに対して、そのシステムがどうあるべきか、どう設計すればいいか、という視点で考えていく学問です。

Q 学業以外で打ち込んだことがあれば教えてください

早稲田大学の起業家人材育成プログラム「WASEDA-EDGE」に参加していました。文部科学省が認可したプログラムで、新しいビジネスを作り、社会に変革をもたらすために、どのように思考するのか、ワークショップと講義形式で学んでいきます。スタートアップ企業や事業開発など、ゼロからイチを生み出す面白さに惹かれ、興味を持ちました。学内のビジネスプランコンテストにも参加し、仮説検証から新しいサービスをつくる流れを学びました。そこから実際に、起業している学生もいて、彼らから刺激をもらいながら、自分自身もそんな社会にインパクトを与えられる人物になるにはどうしたらいいか、考えるきっかけになりました。

実務の経験と工学的な知見の両方を学べるのが魅力

Q 今後の進路について教えてください

エレクトロニクス系のメーカーの企画部門に内定をいただいています。会社に属するにしても、起業するにしても、新しいサービスをゼロから企画し困っている人の課題を解決するために必要な営みは同じものだと思います。そうした一連の流れに取り組んでいきたいです。

Q 経営デザイン専攻を志望する高校生に向けてメッセージをお願いします

経営や社会システムについて、実務経験ベースと工学的な研究ベースとの、両軸の知見から学べることがこの専攻の魅力だと思います。よく経営において必要と言われるイノベーションは、これまで結びつかなかったものを新しく結びつけた先に起こると言われています。経営デザイン専攻では、社会システムを構築する様々な技術を理解しながら、それらを新しくつなぎ合わせるための知見を学ぶのです。新しいものを生み出す営みは、どんな組織にいても役立つと思います。経営は知らないうちに関わっている、実は身近な領域であり、生活するなかで疑問に思うことの裏側には、必ず社会システムの存在があります。そういうものに興味を持ったら、ぜひ経営システム工学科や経営デザイン専攻を選択肢の1つとして選んでみてほしいです。