早稲田で培った知見を活かし
人に貢献できる技術者に

地球・環境資源理工学専攻 修士1年
吉田 昇永 Yoshida Norihisa
大河内研究室
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q 研究の概要を教えてください。

大気汚染について研究しています。PM2.5のような有害物質の話をニュースや新聞などで目にする方も多いのではないでしょうか。 その中でも私が研究対象としているのは、大気中に浮遊するマイクロプラスチックです。これはわずか数ミクロン(1ミクロンは1ミリの1000分の1に相当)のプラスチック片で、目に見えないほど小さく軽いので普段生活していて気づくことはありません。
マイクロプラスチックはどこにでもあります。たとえば私の研究では理工キャンパスの屋上から、果ては富士山頂まで、空気や雨水からサンプルを採取するとマイクロプラスチックが検出されました。また先行研究では、日本のみならず、人がほとんど住んでいない北極周辺で降った雪からも確認されています。
問題なのは、これらのマイクロプラスチックがどこからやってきたのか、人体にどのような影響を与えるとともにどれくらい影響を与えるのか、詳しくわかっていないことです。
世界中の学者がこれを解明しようとして試行錯誤しています。大気にはプラスチック以外に有機物や鉱物が含まれるので、それらの不純物を取り除いてプラスチックだけを残す必要があるのですが、その方法が確立されていないので、研究者によって分析方法や評価基準が異なります。このような状況に対して、私は大気や雨水中のマイクロプラスチック分析に特化した統一的な方法を考案しようと考えています。

遠心分離機と赤外光による自動測定で
実験の時間を短縮

Q どのように分析するのですか。

着目したのは海洋のマイクロプラスチックの分析法でした。主に海面上には1ミリから5ミリ程度のマイクロプラスチック片が浮遊しています。海水からプラスチック片を取り出すための方法を、大気や雨水にも応用できないかと思ったのです。
分析の手順は
1.「有機物・鉱物」と「プラスチック」とを分離させる「下準備」
2.プラスチック自体の種類や特性を赤外光で分析する「本分析」
という2つの工程に分けられます。
海洋での「下準備」は以下のとおりです。
まず、海水から得られたサンプルを過酸化水素で有機物と反応させます。次に「分液ロート」という器具の中で、有機物を除去したサンプルを重液という特殊な試薬につけて、比重の重い鉱物と、比重の軽いプラスチック等の物質を比重の差を利用して分離します。しかし、これらの海洋での分析の応用には欠点があります。完全に分離されるまでに時間がかかるのです。
そこで、大気中のマイクロプラスチックの分析に関しては、遠心分離機に着目しました。これは簡単にいうと分離機の内部を高速回転させることで、発生する遠心力を利用して分離する方法です。海水サンプルの場合、大きな鉱物やプラスチックがあるために分離の途中でプラスチックが微細化してしまいますが、大気中に含まれる微小なものであれば問題ありません。これを使えば分離のプロセスは短時間で済みますから、「下準備」の工程は遠心分離機を採用しました。
次に「本分析」の工程です。
海洋の研究では、肉眼あるいは光学顕微鏡による観察でマイクロプラスチックを確認し、赤外光を使ってプラスチックの種類を特定する方法が一般的に用いられています。分析装置の中で大気のサンプルに赤外光を照射すると、物質から赤外光が跳ね返ってきます。この反射によって得られた情報を赤外スペクトルといいますが、これを分析することで、赤外光で照射した物質が何であるかを特定することができ、かつ物質の大きさを計測することができます。
この研究において、新規性のある点としては、肉眼や顕微鏡観察を行うことなく、自動でマイクロプラスチックの赤外スペクトルを取得する方法を考案したことです。私の研究で、富士山頂で確認されたプラスチックの大きさは1.4ミクロン。肉眼で確認できるのは約300ミクロンですから雲泥の差です。さらに、この方法なら目視による観察時間の短縮が可能となり、より小さなプラスチックの見逃すこともありません。
大気中のマイクロプラスチックに関する本格的な研究は、大河内研究室では私の研究が初めてです。海洋のマイクロプラスチック研究の大家といわれる先生が他大学にいらっしゃるのですが、その方が先日BSのテレビ番組に出演された際に私の研究に言及してくださいました。驚くとともに、とても嬉しかったですね。

誰もやったことのない取り組みで
新たな地平が開いていく

Q 将来の展望を教えてください。

メーカーやプラントで技術者として働くことを考えています。専攻分野と合っているかはあまり重視していません。研究からビジネスの現場に移り、新たなチャレンジができればいいなと思っています。
研究者は社会に新たな知見を提供する役割がありますが、技術者はその知見を腐らせず、実際に活かしていく役割があります。私は研究を進める中で、人のために貢献することが自分にとっての幸福だと気付いたので、技術を使って貢献できる仕事に就きたいと思います。

Q 環境資源工学科を目指す人にメッセージを。

ぜひ新規性の高い研究にチャレンジしてほしいです。誰もやっていないことに取り組む人が増えると、それが自ずと他の人に影響を与えます。それが新たな地平を開いていくような気がするのです。
現在は新型コロナウイルスの感染拡大で日本がピンチだと言われています。しかしそれぞれが世の中を良くしようと頑張ることで、社会がより活発になっていくのではないでしょうか。それには目先の成果にとらわれず、それぞれが役に立とうと一生懸命になることが大事だと思います。私もその一助となるために努力していきます。