環境問題の最前線で生かされたのは、
研究で叩き込まれた「フィールドの重要性」

環境省 環境再生・資源循環局 総務課 リサイクル推進室 室長補佐
村井 辰太朗 Murai Shintaro
環境資源工学専攻 2014年修了
香村研究室
2022年度インタビュー

環境省で環境問題の最前線に取り組む

Q いまのお仕事の内容について教えてください

大学院を卒業後、環境省へ入省し9年目になります。いまはプラスチックのリサイクルを担当していて、主に2022年4月に施行された「プラスチック資源循環法」の施行準備にあたっていました。この法律は、国のプラスチック資源循環戦略を促進する一環として策定され、事業者、消費者、自治体という、プラスチックのライフサイクルに関わる全てのステークホルダーに対して、削減やリサイクルを促す法律です。

では、法律は誰がどのように作っているのでしょうか。法律は省庁などの政府関係者が、利害関係者や専門家などの意見を集約して素案をつくり、国会議員によってその内容が議論されて制定されることが基本的な流れです。そのため、省庁では、様々な立場にある関係者の意見をしっかりとくみ取りながら、議論に必要なデータの収集や分析を行い、その内容をまとめて1つにしていく調整役の役割を担っています。

環境省を含む省庁で働く国家公務員は、2・3年ごとに部署異動があり、仕事として取り組む内容が常に変化し続けるのが特徴の1つです。私も入省以来パリ協定の交渉、福島の除染活動、環境アセスメントの運用検討などの業務を担当してきました。さまざまな領域で幅広い仕事を行うことができるので、常に好奇心を持って、新たな知識を身につけることができる刺激的な仕事です。

ため池の地層から「越境大気汚染」の実態を明らかに

Q 在学時に行っていた研究について教えてください

在学時は土壌環境を専門とする香村研究室で、「越境大気汚染」の研究を行っていました。越境大気汚染とは別の国で発生した汚染物質が、気流に乗って運ばれることで起きる大気汚染を指します。

私の研究では、ため池の底にある泥「底質」を分析することで、過去の大気汚染の実態の把握を試みました。ボーリング調査のような方法で底質を垂直方向に採取し、時系列に沿って堆積した地層に含まれる汚染物質を調べます。こうすることで過去の大気汚染の推移がわかるのです。また、地層に含まれる物質の成分を調べることで、おおよその発生源を特定できないか、研究していました。

Q 環境資源工学科を志望した背景を教えてください

小さい頃から虫取りや川遊びなど、自然の中で過ごすことが好きだったのですが、中学生の時に、ケニアの政治家でノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが、日本の「もったいない」の概念を世界に広げる「もったいない運動」を展開した際に、環境問題の重要性を強く意識するようになりました。それ以来、リサイクルなどの社会課題に対してどのように対処すべきかといったことを考え始め、大学進学の際に、その解決方法についてより詳しく学びたいと思い、環境資源工学科へ進学しました。

研究で学んだフィールドへの重要性に改めて気付かされる

Q 現在の仕事と大学での学びがつながる瞬間はありますか

大学院で学んだ「フィールドワーク」の重要性は、現在の仕事に強く結びついています。指導教授の香村先生は、実際の現場がどうなっているのか、自分の目で見て理解することは、データ分析以上に重要だとおっしゃっていました。例えば、研究で扱う土壌のサンプルは、鳥取県や福井県などの山に登り、自ら採取しに行くなど、実際に現場へ行って、自分の目で見ることで、データの意味を体感することができました。
この考え方は社会人になってからも大事にしています。例えば、福島の除染や風力発電の審査を行う際に、実際にその現場を見た上で関係者と議論を行うと、コミュニケーションがスムーズにいき、問題の解決に繋がったことが何度かありました。フィールドへ赴くことで、ものごとの理解力や説得力が増すことに改めて気付かされ、大学での学びと仕事が直結していると強く感じました。

Q 高校生に向けて、環境資源工学科をPRしてください

環境問題は、日々の人間活動と密接に関わっています。過去発生した公害の多くは、排出源となる工場などを規制することで解決できました。しかし、現在大きな問題となっている気候変動問題の原因であるCO2は、様々な人間活動で発生するため、一部の事業者などの活動を規制するだけでは解決できず、社会全体として取り組まなければ解決できない複雑な状況になっています。

また、環境問題といっても分野は幅広く、気候変動、大気汚染、生態系保護など、さまざまな問題があり、多様な切り口で環境問題への解決方法を学べるのが環境資源工学科の特徴です。そのため、学科の卒業生の卒業後の進路も多種多様です。それだけ、この専攻にはいろいろな可能性があります。将来、環境資源工学科で学んだみなさんが就職し、色んな形で一緒に持続可能な社会をつくる仕事ができたら嬉しいです!