災害時のネットワーク復旧から
画像処理まで-
深層強化学習の力を社会に役立てる

NTTネットワークサービスシステム研究所
次世代ロボット研究機構 招聘研究員
王 釗 WANG Zhao
2018年 総合機械工学専攻 博士後期課程修了
大谷研究室
2022年度インタビュー

Q NTTネットワークサービスシステム研究所での仕事内容を教えてください。

災害が起きてしまったときには、医療や消防などの対応はもちろん、今日ではネットワークの復旧が急務です。ネットワークはインフラですから、復旧は早ければ早いほど良いです。その復旧のための災害対応技術の研究開発を担当しています。
システムの復旧のために、電源車やタンクローリーをはじめとした重機や機械設備が必要になりますが、これらの数は限られていますから、「どこに」「どんな順番で」設備を派遣し、作業をするかの優先順位を決めることが重要です。
NTTネットワークサービスシステム研究所では、この順番決め¬-ルーティングと言います-をニューラルネットワークを用いた深層強化学習で具現化しています。災害の状況は現場によって全く違いますから、従来の最適化手法で対応するのは難しいのです。同時に、自動ルーティングというコア技術を活用して、NTTの電柱点検、NTTネットワークの宅内修理サービスというビジネスシナリオにも適応して、研究開発したプロダクトをNTTグループ内の事業会社を提供しています。今後もNTTグループ内だけでなく、宅配などのルーティング機能が必要なビジネスに展開して行きたいと計画しています。

JAXAとの共同研究でドローンによる画像処理を研究

Q 早稲田の招聘研究員も務められているそうですね

私の出身である総合機械工学科・専攻の大谷研究室、NTTネットワークサービスシステム研究所、JAXAは三者で共同研究契約を結んで、研究活動をしています。学生時代から専門は深層学習で、NTTでの業務と直結しています。早稲田ではJAXAとの共同研究でドローンを用いた画像処理を研究しています。もちろん、これも深層強化学習を使っています。
JAXAというと宇宙のイメージが強いと思いますが、じつはドローンの運行管理システムも研究していて、これもその一環です。
例えば災害時にドローンを飛ばして、画像を撮影。この画像を深層強化学習にかけることにより、渋滞状況や、道路にヒビが入っていないか、浸水していないかというところまでリアルタイムで把握することができるのです。

Q 総合機械工学科で画像処理や深層強化学習が専門なのは意外な気がします。

中国の中山大学を卒業して、修士から早稲田の国際情報通信研究科(GITS)に進学したのですが、私は一貫して情報分野が専門です。当時、大谷先生はGITS 所属で、総合機械に移られたので、私の所属も変わったのです。
ただ、深層学習はどの分野にも応用される、守備範囲の広い学問ですから、機械系の所属でも不自然なことではありません。私のようなネットワークの研究や画像処理はもちろん、ロボット制御、自然言語処理、セキュリティなど関係のない分野はないと言って良い。
NTTと早稲田でやっていることは一見すると、全く違うようにみえますが、深層強化学習では繋がっていて、同じ課題に取り組んでいるのです。この分野が専門だからこそ、NTTと早稲田での仕事が両立できているのかもしれません。所属が2つもあって大変じゃないかとよく聞かれるのですが、互いの研究に相乗効果があると思っています。また、私にとっては、若い学生と関われるのも、大きな刺激になっています。学生たちの若い感性、柔軟な発想は本当に素晴らしい。

2年前のアルゴリズムはもう古い-
旬の分野で活躍する

Q 深層学習の魅力はどんなところですか?

今は深層学習の時代と言っても過言ではないと思います。さきほど情報系が専門といいましたが、取り組んでいるのは「組み合わせ最適化」で、自分としては数学の問題に取り組んでいる感覚です。適応範囲が広いのもそのためで、これは大きな魅力です。
また、トレンドの学問ですから、進化のスピードも早く、例えば2年前のアルゴリズムは古くて使い物になりません。とても競争の激しい世界ですが、それだけ未知の領域が大きいのも面白いところ。さらに、さまざまな分野から関われるのも、好きなところですね。

Q 総合機械工学専攻の良いところはどんなところですか?

まず、学生が優秀なところ。しっかり考える能力のある人が多いと思います。それに実際に機械やエンジンなどの実機を触れるのも良いところだと思います。私は情報系が専門ですが、総合機械で研究をしなければ、自分の技術が応用されるところをここまで知ることはできませんでした。
極端なことを言えば、情報系の分野の知識は機械系の所属でも、学ぼうと思えば学べますが–もちろん、すごく大変ですが-逆は難しいと思います。
それから私の恩師、大谷先生のようなすごい教授陣がいることです。進学先を考えるとき、日本以外にも選択肢があったのですが、決め手は大谷先生の実績でした。ホームページをみて、世界的に国際会議で成果を挙げていることを知り、進学を決めたのです。受験生の皆さんも、安心して進学してほしいと思います。