応援してくれるから
人はチャレンジできる

滋賀県立大学環境建築デザイン学科 講師/一級建築士事務所 Eurekaパートナー
永井 拓生 Nagai Takuo
2005年 建築学専攻 修士課程修了
2020年度インタビュー

Q 研究の概要を教えてください。

専門は建築の構造設計です。構造設計とは建物の基礎や骨組みを設計することにより、安全性や耐震性を担保するものです。その他にも、素材・工法開発や建築保存、空き家のリノベーション、山林資源の活用など、幅広い分野に取り組んでいます。
なかでも私が注目しているのは植物の建材活用です。
たとえば竹。
竹は生育スピードが早いことで知られていて、とても管理が難しい。その反面、短期間で成長するわけですから、利用価値を見出せれば、安定供給が期待できる材料だと言えます。
現在の職場の滋賀県には「放置竹林」と呼ばれる手付かずの竹林が多くあり、深刻な問題となっています。竹の建材利用は格好の活用方法と言えるでしょう。
しかし、竹を使うには大きな問題がありました。竹は縦向きに割れやすく、釘を打ち込もうものなら、たやすく割れてしまいます。
それならロープで竹同士を固定しようと思い立ったのですが、表面がツルツルしているので、滑ってしまう。
そこで、滋賀県立大の学生達と一緒に考え、布テープを竹に巻いて摩擦を確保し、そこにロープを巻きつけて結束することで、竹同士を接合できるようにしました。
このような竹の工法を用いて、ツリーハウスを建てたことがあります。これは放置竹林に悩むとある自治体から声をかけて頂いたプロジェクトです。放置竹林は地元の方々から不安がられてきましたが、竹を一定量伐採すれば涼しげで視界の開けた空間に生まれ変わります。さらに、竹林に伐った竹を使ってツリーハウスを作り、厄介がられていた竹林を子どもの遊び場に生まれ変わらせたのです。
竹を図柄や装飾として使用するのではなく、「竹のみ」で人々の集まる建造物を作ることができたのは大きな発見でした。この経験を通じて、自然素材の魅力にはまっていったような気がします。

竹林に建てた竹のツリーハウス

共同生活の中で
さまざまな経験を積んでほしい

Q 竹の他に注目している植物は?

葦(よし)を使った構造物をいくつか作りました。葦は水辺に植生するイネ科の一種で、成長すると茎の部分が4メートルほどにもなります。滋賀県立大学のすぐ近くに琵琶湖があり、葦が多く生育していますから、身近に使える魅力的な素材なのです。
かつて、葦は葦簀(よしず)やカゴなど生活用品として重宝されていました。しかし工業化や社会生活の変化のために徐々に使われなくなり、現在は竹林と同様に多くが放置されつつあります。
そこで、なんとか活用できないかと、葦を建築材料に使う方法を考えました。
1本の葦は、直径1cmほどで細く弱いのですが、上手く組み立てることで、軽くて丈夫な構造体に姿を変えます。
この仕組みを利用して地域の祭りに合わせていくつかのパビリオンを建設しました。独特の涼しげな質感と和のテイストはご好評をいただきました。子供たちが遊んでくれたのも嬉しかったですね。建築コンペにも出展しています。
これらのパビリオンも、学生との共同作業で作っていきました。現場近くの古民家町屋を合宿所として間借りして、学生は共同で生活します。共同生活の中で、地域の方々との交流や、地域の暮らしを学ぶことができます。
ものづくりや共同生活で重要なのは、なんと言っても段取り。事前に設計計画、材料調達はもちろん、炊事や掃除などの役割を分担し、作業を進めていきますが、どれだけ周到に準備したつもりでも必ずトラブルは起こります。たとえば釘を打ちたいのに釘がない。買いに行こうにもホームセンターが遠くて時間がかかる。慣れない共同生活でのストレスもあったり、言い合いになることも日常茶飯事です。生活を送る中で、地域の方々にご迷惑をかけてしまうこともあります。ワークショップを通じて、協力して物を作ることの大変さと楽しさを感じてもらいたいと思っています。

葦を使ったパビリオン

若手を応援することは
早稲田の伝統

Q 建築士としても活躍されていますね。

建築学科の同級生と共同設立したEureka(エウレカ)という建築事務所で、パートナーとして構造設計に関わっています。いままで、個人住宅や集合住宅、地域交流施設などの設計に携わってきました。
設計業務のほかに若い建築家の活動支援もしています。活躍の場を求める人に声をかけ、葦を用いたオブジェや、空間設計を依頼しています。茶室を設計した若手もいて、制作資金を集めるところまで責任を持って関わります。

近江八幡市の古民家に若手建築家が設計した茶室(撮影:黒目写真館)

若者に「チャレンジしろ」というのは簡単ですが、大人が背中を押さないと一歩踏み出すことはなかなか難しい。人は応援してくれる人、支えてくれる人がいるから、チャレンジできると思うのです。 早稲田の建築学科には若者を応援する伝統があると思います。建築界のノーベル賞と言われるプリッツカー賞を受賞した建築家の坂茂さんは、若い頃に早稲田の松井源吾先生から手厚い支援を受けたと仰っています。私も、20代後半に1人で仕事を始めたばかりの頃、早稲田の先輩建築家の方々が、威勢がいいだけの私に多くの仕事をくれました。当時は1つ1つをこなすのに必死でしたが、今は本当に感謝しています。 私たちも先輩方を見習い、バトンを繋いでいきたいですね。