多面的な価値観から
社会インフラ・まちづくりを考えたい方に

社会環境工学科 教授
佐々木 葉 Sasaki Yoh
専攻分野 景観デザイン・まちづくり・土木史
2018年度インタビュー

社会環境工学科は土木工学科が2003年に改称、カリキュラム変更を行ったことにより誕生した学科です。そのためカリキュラムの根底にはまず土木があり、そのうえで多種多様な社会環境に関する事柄を学んでいく、という形を取っています。
皆さんの身の回りにあるビルや橋、道路などの構造物は、供給する側の一方的な都合でつくられてよいはずはありません。便利になる、安全になるという、一見よさそうな目的だけでつくるのではなく、住民との合意形成がなされているか、周囲の景観にフィットするかどうか、地域の生態系のつながりや生活動線を損なわないかなど、数多くの、時に矛盾する要請を充分考え尽くしたうえで本来つくられるべきものです。
立場に応じてさまざまな見方がある中、そこに住まう人々の利益とは何なのか、そのまちが持つ価値・魅力とは何なのかを考えながら、古典的な土木工学だけでなく、多面的な価値観を持って社会インフラの構築、まちづくりを学べるのが社会環境工学科と言えるでしょう。

持続可能なまちづくりを実践する

社会環境工学科の多くの研究室は学びの題材に適したフィールドを持ち、現地に足を運んでの研究、つまりフィールドワークに力を入れています。私の研究室では豊かな水が流れる岐阜県の郡上八幡、潟(湿地)と人間との関わり合いの中で歴史が積み重ねられてきた新潟市などを対象地としています。地域の方にお世話になりながら土地の歴史を学び、行政の景観計画や具体的な空間のデザインなどを提案していく作業は、一朝一夕でできることではなく、気が付けば5年、10年と言った歳月をかけてようやく成果があがるものです。こうした長期的な関係がすでに築かれたフィールドを持つ研究室があるということは、これから新たに入学する方にとっては大きなメリットになるのではないでしょうか。
地方の人口減や活力の低下が叫ばれて久しい昨今、これまで数百年以上にわたり人の営みが続いてきたまちや地域を、持続可能な形で未来へ繋げていくためにはどうすればよいのでしょう。その答えは、そこに住まう人のみではなかなか見つけにくいものです。
例えば先ほど述べた新潟市には、潟と呼ばれる湿地が地域の資源であると、地元でも考え始めています。その価値は、
・近隣を散歩するだけで気持ちがよく、癒し効果がある
・多くの動植物が生息しており、潟ならではの生態系が存在する
・漁場であり、かつては田畑をつくる上で重要な肥料の採取場でもあった
などがあります。これらはさらにツーリズムや環境学習の場として成立するポテンシャルを備えていると考えられます。
こうした地域の持つ魅力を世に打ち出したり、共有していくために、現代的な組織づくりから考え、行政と連携しながら環境保全をマネジメントしていく。そのために、地域の景観や空間構造の分析を通して歴史・価値を俯瞰的に示し、それをリーフレットなどにデザインすることで、潟を活かした持続可能なまちづくりの実践に取り組み始めました。
時には地域の方とともにまちおこしイベントの企画・運営も行うなどしながら、より深くフィールドについて学んでいきます。
地域の方と密接に関わりながら、そのまちの未来を考えていく作業は想像以上に地道ですが、現場で動きながら、あ、これだ!と地域の魅力を感じとった時の喜びは、他に代えがたい体験となります。じっくり腰を据えて何かに取り組みたい、人との関わりの中で学びたいという学生は、意欲的にフィールド研究に取り組んでもらいたいと考えています。

「潟」の価値を伝えるために研究室でデザインしたリーフレット

自分自身で価値判断できる能力を養ってほしい

世の中のAI化・グローバル化が進む中で、「これが楽しい」「これが大切だ」と自ら価値判断できる能力の重要性が高まっています。「時代の流れについていくだけでも大変……」と将来に対して焦る気持ちを持つのも理解できますが、一方で旧来のローテクなものも依然として価値を持ち続けている社会や文化は、人間力とレジリエンスが高いと考えます。
講義やフィールドワークを通して多くの知識と文化に触れながら、ぜひ一様でない、幅があることの面白さを実感してください。答えのない問いの中で答えを導き出すのは、雲をつかむような不安に陥りがちですが、道草をしている間にふと手ごたえをつかむ瞬間が訪れます。目の前のことをさらに別の次元で捉えるというメタ認識をしていくことは、自分のやりたいこと、心地よいものを発見することに繋がりますし、学生のうちに得た、世界を広げる、アイデアを生み出す感覚は、その後の人生においてもきっと大きな糧となるはず。まちづくりや社会インフラの構築、景観デザインといった事柄は、自動化・効率化された思考では成しえない、人間にしかできない仕事です。あなたの持つ多様な価値観を、社会環境工学科で育んでいってほしいと思います。