アパレル業界の衣類廃棄問題を解決する
数理最適化からサプライチェーン設計へ

経営デザイン専攻 修士2年
山田 晋也 Yamada Shinya
大森研究室
2022年度インタビュー

廃棄量削減に最適なサプライチェーン

Q 現在取り組んでいる研究の内容について教えてください。

アパレルのサプライチェーンにおいて、廃棄量を削減するようなサプライチェーンの設計に取り組んでいます。アパレル業界は廃棄量が多いことが世界的に問題になっており、フランスでは2022年に衣服廃棄を禁止する法律が施行されています。日本では、2018年のデータによると、生産された衣服のおよそ6割が販売されずそのまま廃棄されている状況です。環境への意識が高まるなか、この問題に取り組むことで大きな社会的インパクトが期待できますし、今後ますます重要度が増していくでしょう。

ところが従来の研究では、利益の最大化やコストの最適化を目的に、利益やリードタイム、在庫量など経営に関わる項目ばかりが注目されており、廃棄量や廃棄コストを削減する試みはあまり取り組まれてきませんでした。ですが、SDGsを端に発した市民意識の高まりにより、環境や社会的な要因など経営に直結しない項目を取り入れたサプライチェーンの見直しが研究のトレンドになりつつあります。

数理的アプローチで最適化を設計

Q 課題に対するアプローチについて教えてください。

まず、最適な方法を導き出すためにはプログラミングで分析しますが、データ情報が正しくないと現実的な解が出ません。そこで、アパレル企業やコンサルタントへのヒアリングを実施しました。企業からはそれぞれの項目の目安や、ビジネス視点からのアドバイスをいただき、入力する解を確定。その後それぞれの最適化について分析し、2つの目的関数を混ぜるとどうなるか、という違いについても確認しました。

この研究で苦労したのは、モデリングや分析の作業です。どこでどれくらいの製品を製造できるのか、といったデータは企業秘密である一方、正確性がなければ現実的な解になりません。そこで需要分布の設計には、アメリカのケーススタディや企業が提供している過去の情報を用いて、日本の現状に照らし合わせながら設定しました。最終的に需要予測を数百通り作成し、それぞれのアイテムとパターンごとに解を導きました。

分析の結果、収益の減少が限定的でありながら、廃棄量を大幅に削減できるサプライチェーンのあり方がわかりました。ある製品について、事前注文や小ロットでの市場投入などによって需要がある程度確定してから本格的に製造するという方法です。この方法では、需要に対応した量の衣服が提供されるので廃棄量を削減でき、コストはかかりますが利益も確保できます。

結果と現実との違いを比較することで、新しい知見を得られた点は、面白いと感じました。またこの研究は、2022年に台湾で開催されたAPIEM(Asia Pacific Industrial Engineering and Management System Conference)で、Best Paper Awardを受賞しました。

Q 実現にはどのような課題がありますか?

まず、経営者の意識が変わることが重要です。しかし営利企業であるため、利益が優先されることは当然ですし、1社だけが取り組んでも他社に顧客が流出してしまうため、実現は難しいと想像できます。実際に取り組むには業界全体を巻き込む工夫が必要かもしれません。

海外インターンシップで幅広い視野を得る

Q 研究室の先生の雰囲気や、研究室内での交流について教えてください。

所属する大森研究室は、できてまだ1年なので模索中の部分が多いです。研究室としての方向性が固まっていない分、学生の提案を受け入れてくれる柔軟な雰囲気で、自分の興味やアイデアを追求しやすい環境といえるでしょう。その分さまざまな分野での研究にも取り組んでおり、幅広い内容を学ぶことができます。基本的には個人で研究を進めますが、たまに学生同士でアドバイスをし合います。先生は寡黙な方ですが、週に1回1対1での面談もあり、相談があるときはいつでも応じてくれます。

また経営デザイン専攻全体では月に1度、専攻全体での発表会があり、研究室を超えた交流も多く、他の研究に触れることで刺激を受けられます。

学士3年生の春には、プロジェクト型インターンシッププログラムに参加しました。その時のプログラムはミャンマーでの2週間の実習で、現地の工場での生産性改善がテーマでした。実際に工場ラインを視察し、作業時間を均一にする人員配置やサイクルタイムの改善などの、ラインバランシング施策に取り組みました。海外の工場の様子を目の当たりにできる貴重な機会だったと思います。

Q 今後の展望について教えてください。

春からは大手タイヤメーカーに就職します。生産工学分野において、経営システムの構築にあたる予定です。現場を生かした会社全体でのサプライチェーンの効率化に取り組みたいと思います。