繋がりや営みを活かす建築へ
今の社会に対してあるべき建築を考える

建築学科 学部4年
石川 航士朗 Ishikawa Koshiro
古谷研究室
2022年度インタビュー

小さな駅の集まりが持つ地域活性化のポテンシャル

Q 卒業論文のテーマについて教えていただけますか?

駅構内で完結しない乗換駅と街の関係性について取り組んでいました。郊外では、少し街へ出て歩かないと、乗換が出来ない駅があります。例えば、西武池袋線の秋津駅からJR武蔵野線の新秋津駅までは、徒歩5分ほど街を歩いて乗換を行います。街を経由する乗換駅においては、駅に挟まれた街も駅の一部として見ることができるのではないか、と考えました。

そこで、こうした乗換駅のある周辺の街に対して与える影響について考察しました。実際に自治体の担当者や地域のお店の方に聞くと、乗換客を意識した街づくりや商売に取り組んでいることが分かりました。一見不便な乗換駅ですが、実は街の活性化に繋がっている、という構造が明らかになったのです。

卒業論文で研究対象となった秋津駅⇄新秋津駅の乗換の様子(撮影 : 石川 航士朗)

卒業論文で作成したデータシート

Q 卒業論文のあと卒業計画にも取り組まれたと思います。そちらはどのようなことに取り組んだのでしょうか。

卒業計画では、より具体的な形を提示することが求められます。そこで卒業論文で扱った「離れた駅同士の繋がり」という構造から、私は都電荒川線に着目しました。都電荒川線の全ての駅同士の距離は300m程度です。このことを活かして2-3つの小さな駅前の地域コミュニティが協力しているエリアが複数あり、実際には植栽活動や古本市などに取り組んでいます。これらの駅と駅のつながりを一体的なものとして捉えると、沿線一体を活性化させるポテンシャルがあると考えました。

また都電荒川線は、改札が無く、自由に駅に出入りできることも特徴です。そこで、駅のプラットホームを生活のプラットホームと位置付け、駅を公園のような「地域の拠り所」として活用できないか、と考え、都電荒川線の中間地点における王子駅において、駅と公園を繋げる新しいホームの提案をしました。

卒業計画で制作した模型写真

Q 研究に至った経緯について教えてください。

建築学科に入ってから、それまで持たなかった批評的な視点を持つようになりました。建築と社会が密接に結びついていることに気づき、今の社会に対して建築がどうあるべきかを考えるようになったのです。私は埼玉県の郊外で育ちましたが、ここ数年で郊外の風景が一気に消えているように感じます。コロナ禍を経て都心部への機能の一極集中の在り方にも疑問を持ち始めたことも重なって、地域の人々の営みを活かす構造について考えるようになりました。

友達や先輩後輩が助け合う繋がりの強さが魅力

Q 建築学科を選んだ理由について教えてください。

元々、父親が設計事務所に勤めていることがきっかけになっています。大学生になったら、何か夢中になれる学問を学びたい、と考えていました。そんな中、高校のOBの建築学科の先輩から大学生活の話を聞き、仲間同士が助け合い、学べる環境だということを知り、魅力を感じました。実際、課題の制作物は1人で作ることは難しいので、友達や先輩後輩が助け合う文化があり、縦横の繋がりは強いと思います。

ただ、入学した当初は苦戦しました。初めてのデッサン講義では、絵の上手な周りの学生に驚き、本当にこの学科で良かったのかと悩んだ時期もありました。ですが1年生の最後に設計課題で初めて優秀作品に選ばれて、アイデアを出したり、思考を形にしたりすることの面白さに気付きました。次第に仲間と切磋琢磨することが楽しくて、建築学科で学ぶことへの興味が深まっていきました。

Q 研究室を決める際にどのような理由で選択しましたか。

古谷研究室は建築空間論や作家論、地域デザインなど、さまざまなテーマについて学ぶことができ、自分の関心とも近く、論文が書きやすいと感じたことが主な理由です。古谷研究室は歴史が長く参考文献となる論文も多いことに加えて、先輩からの手厚い指導があります。また同期のメンバーも多く、仲間同士で支え合える環境であることも心強く感じました。

Q 意匠系の研究室に入るのは大変とよく聞きますがいかがでしたか。

確かに意匠系の研究室はきつい、しんどいと言われます。ただ、絵を描くのが苦手でも、図面を書くのが苦手でも、その他に自分に出来ることが1つあって、それを伸ばす意欲があればやっていけると思います。

忙しいながらも友達との絆を深めや自己成長できる環境

Q 学部学科についてはどのように感じていますか。

世の中にあるものを組み合わせるだけではなく、自分の感性や思考を加えて形にすることが創造理工学部の魅力です。自分で手を動かして何かを作ることが好きな人にはこの学部は向いていると思います。

一方建築学科では、感性の良さや鋭さが求められるように感じます。また早稲田の建築学科は他大学と比べて、1年生の早いうちから建築をどっぷり学べるのが特徴です。講義や課題が多く忙しい部分もありますが、忙しい中でも友達との関係や自己成長の機会があって、大学生活の楽しい部分が4年間に凝縮されているように感じます。

Q 今後の展望について教えてください。

修士に進んでからは、これまで考えてきたテーマを更に深めていきたいと考えています。卒業計画は3人で連携して1つのテーマに取り組みますが、修士計画ではそれを1人で進めるため、より自分の社会に対する立場を示すことが求められます。社会に対して建築がどうあるべきか、考えを深めていきたいです。