建築をくらしに密着したものと捉え、
「無理なく」持続可能な取り組みができるように

建築学科 学部4年
張 美帆 CHO, Miho
2021年度インタビュー

Q 研究の内容を教えてください。

「無理なく、持続的に」を第一に、さまざまなプロジェクトに関わってきました。所属する高口研究室は、建築の中の環境分野で、防災・脱炭素化・持続可能性をキーワードに、「運用できる仕組みをつくること」を重視しています。専門は環境メディア–「環境」は文字通りぐるっと周りの環境全てを指し、「メディア」はあれとこれをつなぐ媒体、という意味–で、建築を箱物と考えるのではなく、より広いレイヤーで私たちの生活に密着したものと捉えているのが特徴です。
研究では、インドネシアの集合住宅を対象に、「窓開け行動」を誘発するための施策を考えています。インドネシアは経済発展の著しい地域で、エアコンの普及率がどんどん上がっています。「蒸暑アジア」と言われる、文字通り蒸し暑く過酷な気候の地域なのですが、夜間は気温が下がり、比較的涼しいのです。にもかかわらず、電気代が安いのもあって、エアコンを付けっぱなしにしている家庭が多い。そこで、涼しい時間帯には窓を開け放つ「窓開け行動」を自然に無理なく行ってもらうためにはどうすれば良いかを探っています。
そこでまず、卒業論文として取り組んだのが、インドネシアの集合住宅での「窓あけ行動」の現状を正確に把握すること。新型コロナウイルスの影響で現地に行くことはかなわなかったのですが、オンラインサーベイによる地道な調査を行いました。どの時間帯に、どんな理由で窓を開けているかという行動把握のための質問から、年齢やジェンダーなどの個人情報、さらには体質や生活に対する考え方まで様々な項目について調査し、そのサンプル数は最終的に300を超えるものになりました。 
これらのデータを分析していくのですが、必要なのは建築学科としては専門外のデータサイエンスの知識。ここで役に立ったのが、グローバルエデュケーションセンターの提供するデータサイエンスの授業です。将来何をするにせよ、データを分析することは必ず必要になると考えていたので、この授業をとっていたのですが、大正解でした。
文系も含めてどの学科に所属する人でも受講できるもので、専門性も卒業論文で使えるほどの高いものでした。早稲田という総合大学で学べるメリットのひとつだと思います。
修士に進学予定なので、まずはこのテーマを深めて具体的な提案まで落とし込んでいくことを目標にしています。

Q 「無理なく」という指針を持っているとのことですが

「無理なく」が大事だと考えるようになったのは、TOMODACHI Microsoft iLEAP Social Innovation and Leadership プログラムに参加したことがきっかけです。これは、TOMODACHIという団体が主催の、渡米を含めた5ヶ月間のリーダーシップ研修プログラムで、参加者はマイクロソフト社の奨学生となって、アメリカや日本で現地の社会課題の解決に取り組みながら、様々なリーダーシップや社会事業モデルを学びます。
そこで目の当たりにしたのが、シアトルのレストラン「FareStart」の事例です。実際に視察に行ったのですが、そのレストランではホームレスの人びとに調理師になるためのジョブトレーニングを提供し、彼らの自立を促すという取り組みが行われていました。
所定のプログラムを修了後は、飲食店への採用までサポートする現実的なもので、トレーニング期間の料理や、余った食材は現地のホームレスコミュ二ティに提供されるという、エコシステムができていました。
さらにこれらの費用の半分程度は、レストランの利益によって賄われていました。スターバックスやエクスペディアからの出資も受けていたのですが、自ら運用を回しながら社会貢献をする姿をみて、「無理なく」仕組みをつくることが大切なんだと実感したのです。
しかもFareStartはすごくお洒落で素敵なお店で、この取り組みがなくても思わず通ってしまうようなところでした。そんなところにも「無理がない」ことの意義を感じました。

FareStart店内の壁:協賛企業・団体の名前が並ぶ

FareStartで、実際に提供されている料理

人びとが幸せな瞬間にあるのが「建築」

Q 高口研究室で学んだことは?

高口先生がいつもおっしゃるのが、「その研究はだれが買ってくれるんだ?」ということ。これは儲からないものに価値はないという話ではなくて、そのサービスや企画が役に立つことが重要で、さらに運用まで考えて「使えるもの」にしなくてはいけないという意味だと捉えています。
建築学科というと、デザインや設計という華々しい世界に引かれて進学してくる人も多いと思うのですが、私は生活に密着しているものと捉えて、それをマネジメントすることに興味がありました。
そもそも建築の分野に興味をもったのは、昔どこかで、「古来からプロフェッショナルと呼ばれる職業:医師・弁護士・建築士のうち、建築士は人が幸せな瞬間に立ち会う仕事である」というのを聞いて、ぴんときたのです。そこから自分なりに、興味のあることに、ひとつひとつ取り組んで、これまでやってきました。面白そうと思ったらまずは何でも試してみて、その時は人生に「点」を打っているような感覚ですが、いずれ振り返った時には、自分だけのユニークな人生の「線」になっていればなと楽しみです。
早稲田であれば、様々な興味でも受け入れてくれる間口の広さ、プログラムの豊富さがありますから、少しでも興味を持ってもらえたなら、ぜひいろんなことにチャレンジしてみてください。みなさんと一緒に面白い「点」を打つことができたら素敵だなと思います。そして、それらの「点」をつなげて、それぞれの人生のなかで豊かな「線」を描いていけたらと願っています。是非、早稲田で会いましょう。