経営システム工学の根幹と先端 ——
そのどちらも学ぶことができる
経営システム工学科 教授 | |
谷水 義隆 | Tanimizu Yoshitaka |
2022年度インタビュー |
経営システム工学科は、この学問の核心部分はもちろん、そこからの派生分野、そして最新の研究まで、幅広い学びを得られる場を提供しています。ここで真剣に勉強すれば、経営システム工学の根幹と先端、両方の知識を身に付けることができるようになっています。これほど豊かな環境を用意できるのは、早稲田大学だからこそでしょうね。日本で経営システム工学を勉強したい学生にとっては最高の環境ではないかと思うほどです。経営システム工学はどこの領域にも通用する学問ですから、この学科でしっかりと知識を吸収すれば、どの分野に進むことになっても応用の効く人材になれるでしょう。
これまでの経営システム工学科の流れを追いかけてみると、時代を先取りするような新しい分野が生まれた時には、それを取り入れて、さらに広げてきたことがわかります。学科全体として、学問のコアとなる分野は守りつつ、新しい知識も取り入れていこうというスタイルがあるのでしょう。単純に流行を追いかけるのではなく、むしろ作り出してさえいると思います。経営システム工学には、生産管理や統計など、コアとなる知識はあるのですが、他の学問との境界がはっきりとしているわけではありません。この学問のそういった特性が、この学科のどんな学問も取り入れていくスタイルにつながっているのでしょう。
21世紀に入ってから、それまでの時代とはまったく別の部分に価値が見出されるようになりました。社会全体のニーズが「早く、安く、大量に」から「SDGs」「シェアリングエコノミー」などへと移行してきています。時代の流れに我々はどう対応していけばいいのか、新しい分野をどのように取り入れていくのかという課題には、今後も学科全体として取り組んでいくことになるだろうと考えています。
出発点である機械工学から、経営システム工学の世界へ
私がこの学科に来てから4年が経ちました。もともとは機械工学の出身だったのですが、効率的に機械を動かすということを研究しているうちに、その周辺の事柄に興味を持つようになったのです。個々の機械に対して部分的な効率化を施すのではなく、全体のシステムを最適化しなければ意味がないと気付き、生産管理などの分野を研究するようになりました。
ただ、自分の研究していることが、出発点である機械工学という分野からだんだんとずれてきたことはやはり気になっていました。機械工学の主たる部分は「どう動くか」で、物理学であり力学なのですが、私が研究で扱っている主なパラメータは「時間」や「お金」です。やりたいことをひたすら追求していたら、最初とはまったく違う場所に立っていて、どうしたものかなと思っていました。
ご縁があってこの学科に来て、先生方の研究や授業の内容を見ていくうちに、ここで扱われているパラメータも「時間」や「お金」なんだということに気づきました。自分の研究していることと、ここで教えていることは実は同じだったんですね。機械工学で研究を始めて、自分の興味を追い求めていたら、経営システム工学のコアの部分に辿り着いていたのです。
世界から地方まで、生産と物流の全体最適化に取り組む
現在、AIやIoTが社会に浸透していくとともに、あらゆる領域に情報化の波が押し寄せてきています。私の研究対象である工場などの生産システムの場も、その例外ではありません。機械からさまざまな情報を収集できるようになったことで、それまでは現場の暗黙知となっていたことが明らかになってきました。将来的には、機械や作業者の稼働状況にとどまらず、もっといろいろな情報を収集できるようになるでしょう。
最近では、現実世界から吸い上げた情報に基づいて、仮想世界に同質のものを構築する「サイバー・フィジカル・システム」を巡る動きが、世界各地で活発になっています。現実空間を仮想空間に再現して、そこからデータを取り出し、物事をよりよく進める方法を探るのです。私自身も、サイバー・フィジカル・システムを通じて、効率的に工場を運営したり、製品を生産したりするための最適化手法を探っています。研究対象も、工場内から工場間をつなぐサプライチェーンへ、さらには国家間をつなぐグローバルサプライチェーンへと広がり、世界中で規格化された製品をまとまった単位で動かすための効率化に取り組んできました。
工場から世界へと研究対象が広がった一方で、最近は地域の物流にも注目しています。今までグローバルサプライチェーンという大きな流れに注目してきましたが、世界的な効率化が進む一方、そこから零れ落ちていく地域があるとわかってきたのです。今後は、全体の流れから外れた場所の小規模な物流に目を向けていきたいですね。規格外のものをまとめて売れるようにしたり、それらを安く迅速に運んだりする方法というのは、これまであまり研究されてこなかった領域です。都会ではUber Eatsや置き配システムなども普及してきましたが、それらが成り立たない地域での小さい物流の最適化に挑戦し、ゆくゆくは地方の活性化にもつなげることができればと考えています。