受験で得られるのは、「やりきる力」を持った仲間

建築学専攻 修士1年
蒋 一悠 SHO Yichiyu
中谷礼仁研究室 (建築史)
2017年度インタビュー

Q 中国出身とのことですが、日本で学ぶことになったきっかけは?

早稲田に入る前に、中国の大学で3年ほど建築を学んでいました。そのときに中国の建築事情、建築を取り巻く環境に違和感を覚えたのです。
皆さんもご存知の通り、中国の経済は大きく発展しています。その中で、建築は投機・投資の対象としての側面ばかりが目立って、本来の目的であるはずの人々の生活をより豊かにしたり、社会との関わりを考えたりする部分がないがしろにされているように感じていました。それが2010年のことで、ちょうどその年に日本人の妹島和世、西沢立衛 (SANAA)の両氏が建築のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞したというニュースが飛び込んできました。中国は歴史のある国ですが、その当時※プリツカー賞の受賞者は一人もいませんでした。同じアジアの国なのに、この違いはなんだろうと。日本の建築を学びたいと思うようになりました。
同じ時期に中国の建築設計事務所でインターンシップをする機会があったのですが、作業は設計というより、コピー&ペーストのようなもので、私の思う建築とはか離れていました。そのとき「日本に行くんだ!」と決心したんです。

※その後、2012年に王澍がプリツカー賞を受賞している

早稲田建築なら設計以外の分野も、幅広く学ぶことができる

Q 早稲田建築を選んだ理由は?

建築が学べる日本の大学を調べていくと、デザインをメインに扱っているところがほとんどでした。そんな中で、早稲田では設計、歴史、都市計画、構造、生産、環境の6つの分野から専門を選べます。設計だけを特別視せずに、広く建築を捉えているところに惹かれました。中国の建築の現状を考える上で、そういった視点こそ重要だと思っていたからです。
ただ、その中で中谷研究室の専門である建築史に惹かれたのは、自分でも意外でした。もともと建築を志したのは、理系科目が得意で、絵を書くことやデザインに興味があり、一方で文系科目が苦手で、特に歴史はちょっと…という感じだったので……。
そんな私ですが、1〜2年生のときに中谷先生の西洋建築史、近代建築史という授業を受けて、ガラッと変わっていきました。歴史というのは受験のように年号やできごとを暗記するものではなく、「少なくとも2つ以上の事象(ものごと)の間に発生する想像的な時空のこと」が歴史だと仰っていました。さまざまな問題意識を持っていて、特に中国の現状を変える力になりたいと思っているのですが、何から手をつけて良いのか今はまだわかりません。歴史を学ぶことで、その糸口をつかめれば良いと思っています。

Q 現在の研究内容を教えてください。

「千年村プロジェクト」という、千年以上にわたって持続してきた、普通の村々を〈千年村〉として再発見し、調査・発信していく活動をしています。東日本大震災の惨状をきっかけに、なくなってしまった村落や共同体は記憶に新しいことでしょう。が、逆に長期にわたり、自然的社会的災害・変化を乗り越えて、生産と生活が持続的に営まれてきた集落があるとすれば、きっとその持続性に理由があるのではないか?そんな発想が元になっています。
具体的な研究の進め方をお伝えしましょう。
まず、千年以上前の古文書「和名類聚抄」の中から地名を抽出します。その中には約4000もの郷名が記載されています。千年村プロジェクトでは、具体的な場所が特定できる約2000の場所を地図にプロットし、公開しましたhttp://mille-vill.org/。それらを千年村候補地として位置づけ、実際に現地を訪れて調査し、どういったところが存続してきたか、身を持って体験する、そんな研究です。
集落というのは環境・交通・地域経営の3つで成立します。さらにその3つの重なり合いを集落構造と呼んでいて、それら4要素を現地に赴いて丁寧に見ていき、持続要因の分析とその地域の特徴を調査しています。そしてその地域が良好な条件であることが確認できたら、〈千年村〉として認証しています。 

現地の方は千年以上も続いている可能性があることを知らずに、そのことを伝えると驚かれることが多いのですが、そんなところに「普通の良さ」を感じます。研究を進めていくと、究極的には「国家に頼らない生活基盤」が構築できるのではないか?そんな野望もあります。
他には近代建築運動黎明期を代表するアドルフ・ロースというオーストリアの建築家の全論考を研究しながら邦訳し、刊行しています。また、そのアーカイブはWEBサイトhttp://www.nakatani-seminar.org/loos/にて一部公開されているので、見てみてください。

Q 早稲田を目指す受験生にメッセージをお願いします。

中国と日本で大学受験を2回しましたが、痛切に感じたことがあります。それは受験勉強で得られる知識そのものよりも、受験を通して「やり切る力」を身につけることの方が重要ではないかということです。それは受験のような機会に、長い時間勉強することでしか獲得できない能力です。
良い大学に進学することもそれと同じで、最先端のことを学んだり、著名な教授陣に教えてもらうのはもちろんですが、受験を乗り切った学生と同じ環境の中に居られるということの方が重要かもしれません。何気ない日常会話からも視野を広げられたり、発想の刺激を得られたりするような環境に身を置くために、受験勉強はあるのだと思います。
自分を信じて、頑張ってください。